二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.901 )
- 日時: 2010/09/05 18:46
- 名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
- 参照: 袂を分かつ。だけど、俺たちは終わりじゃない。
145 抱えきれないくらい、
時が経つのは早いモノで———、葵との電話から、2日。
金太郎が旅立ってから、6日。
大阪と、四天宝寺と、サヨナラだ————————
——————
「ほな、当日は駅に見送り行くわ」
香澄と白石のアパートから、ほんの少し歩いたトコロにある、綺麗なアパート。
その一室で、財前がいつもの冷静な瞳で言う。
ほんの5分ほど前までは、その冷静な瞳は何処へやら。
これまでに見たことないくらい、驚いていたのだが。
「あ、それはええよ。仕事あるやろ」
「せやけど、当分逢えへんやろ」
「でも、連絡先はちゃんと教えたし、向こうに着いてからも連絡するから」
まだ納得してない様な表情だったが、財前は頷いた。
「香澄」
「ん?」、と香澄が振り向くと———、財前の首筋に顔が埋まる。
財前は香澄を、抱き寄せた。
「ひ、光・・・!?」
吃驚して、香澄は離れようとするが、財前が阻止する。
しっかりと、でも優しく、腕の中に包まれていた。
「悪い、でも、ホンマちょっとやから」
「ひか、る」
「何でやろなぁ、女子とかに興味全くなかったのに、自分にだめは、惹かれた」
急にそんな、衝撃の告白をされ、香澄は頭が沸騰しそうだった。
だけど、震える財前の腕が、離れようとさせてくれない。
「・・・・・・、一生懸命、気ぃ張ってる自分が、凄いカッコ良く見えたんやで??」
“カッコ良い”
それは、今の自分には勿体ない言葉で。
「香澄・・・・・・」
財前はゆっくりと、腕の力を緩め香澄を解放する。
「やっと、泣き顔、見せてくれたな」
流れる涙を、財前が拭う。
「光が、らしくない、コト、言うから、やんか」
途切れ途切れに、照れ隠しで怒ってみせる。
「新鮮やなぁ、10年以上、一緒におったのに。涙だけは見たことなかった」
「だって、」
「まぁ、ええけど」
財前はもう1度、袖で香澄の涙を拭いた。
「明日行くこと・・・、白石さんに言うた??」
「これから」
「そうか・・・・・・ 白石さん、駅で泣くかもしれんなぁ」
珍しく、面白そうに言葉を紡ぐ。
「そうやね」
香澄も、笑って言った。
——————
白石は大学を抜けて、見送りに来た。
隣に住んでいると言うのに、ほぼ5日ぶりの香澄の顔。
手には、1つだけキャリーバックを持っていた。
「・・・・・・、ホンマに、行くんやな」
寂しげに白石が言った。
「うん」
香澄が、「駅には来なくて良い」、と言ったので他の四天宝寺OBたちは来ていない。
小春は、最後まで「行く」と言って聞かなかったが、謙也に宥められ断念。
自分で言っておいて、少し寂しい気もするが、仕方ない。
皆がいたら———、涙を抑えられない。
「これ、うちの住所」
「え・・・・・・?」
香澄に紙を差し出され、白石は驚いた顔をする。
「? 連絡、取れなくなっちゃうと寂しいやんか」
香澄はきょとん、とした顔をする。
苦笑いをして、白石は紙を受け取った。
「俺の早とちり、か。もう2度と、会ってくれへんかと思た」
「そないな薄情なこと、せぇへんよ」
「俺もそう思たけど、なんて言うか・・・・・・、その、色々あったし」
白石は罰悪そうに呟く。
顔を赤らめて、恥ずかしそうに笑った。
「だって・・・・・・、色々お世話んなったし、1回のコトでカンタンに関係切れへんよ」
香澄はそう呟く。
やっぱり、恥ずかしげに。
——あぁ、
———俺たちは、終わりじゃない。
——サヨナラ、だけど、終わりじゃない。
「あの日は、本当にごめんなさい。・・・・・・しかも、なんか酔っぱらっちゃって」
「ええよ、全然」
言いたいことは、山ほど在る。
たくさんたくさん、伝えたい。
“ごめんなさい”じゃなくて、
“またね”じゃなくて、
もっと、もっと。
だけど、
これ以上言うと、本当に泣いてしまいそうで。
白石は、香澄をもう1度抱き寄せた。
駅の真ん中。
視線が集まるのも気にせずに。
「蔵?!」
それは財前とはまた違う、ぎこちない腕だった。
財前のが、友達同士の、だったら———、白石のは確実に、“恋”とか“愛”だ。
「悪い」
振り払おうとは、出来なかった。
大切な彼に、そんな残酷なコト、出来なかった。
「ホンマに、スキやった」
小さな声が、聞こえた。
「うん」
人をスキになる気持ちは、痛いほど分かった。
叶わない、気持ちも。
だからこそ、何も言えない。
「また、連絡してな。こっちにも、遊びに来て」
「うん・・・・・・」
短い、別れの言葉。
どんな言葉も、香澄と白石の関係を表現出来ない。
アナウンスが流れて、別れの時を告げる。
「あ、もう・・・・・・」
香澄の声を聞き、白石は腕の力を緩める。
「時間、やな」
「蔵」
香澄は白石の顔を見上げた。
10年前とは違う、訣別ではない、別れ。
だけど、こんなにも、胸が苦しい。
「サヨナラ」
笑えた。
何時見せた笑顔よりも、自然に。
大阪へ、四天宝寺へ来たのは、間違いではなかった。
此処で、笑えた。
香澄はホームへ行こうと、白石の腕から離れた。
———あぁ、本当に行ってしまう。
大好きな、儚いその姿が、人混みに消えていってしまう。
香澄の、小さな手は————、まだのばせば届くところに在った。
「香澄!!!!!」
今、声を出したのは、俺じゃない。