二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第0話 憧れの地 ( No.3 )
日時: 2010/02/03 23:47
名前: 雛苺 (ID: 0wDrexNa)

「こら、リク!いつまで寝てるの?起きなさ———い!!」
暖かい日曜日の朝。家ではお母さんの大声が聞こえた。
「う〜ん・・・、あと五分・・・・・・」
「馬鹿言ってるんじゃありません。今日は何の日か覚えてるの?」
「・・・・・・はう?」
「【ミルス・クレア魔法院】に行く日でしょ?このわすれんぼ!」
「・・・・・・あ」
起きて10秒後、あたしはガバッと起き上がった。
「わぁあ〜〜!!そうだった〜〜〜!!」
慌てて起き上がって寝癖などでボサボサな髪を気にしないまま制服に着替えて、バタバタと階段を降りた。
「うわ〜〜!朝ごは〜ん!」
「何言ってるのよ、食べてたら間に合わないでしょ?」
リビングには呆れ顔なお母さんが立っていた。お母さんはテーブルに置いてあった少し大きめなバスケットをあたしに渡した。
「はい、これお昼。それと入学許可書持って、お財布詰めて。ああ、何なのよその髪は?女の子でしょ?」
そう言いながらお母さんはあたしの髪を撫でながら髪型を直し始めた。
「ごは〜ん!」
「今食べたらドラカーゴに間に合わないわよ。パンだけ齧って行きなさい。ベーコンエッグ乗せてあげるから」
お母さんは出来立ての食パンにベーコンエッグを乗せて、あたしの口に運んでくれた。
「はぐっ・・・・・・。そういえば、連絡手段で手紙って大丈夫だよね?」
「大丈夫よ?ドラカーゴを使えばそのまま届けてくれるわよ」
「そっか。じゃあ、週一にはちゃんと出すね」
「別に、週一じゃなくてもいいわよ。・・・・はい、直ったわよ」
「ありがとう、お母さん」
あたしの髪を直してくれたお母さんに礼を言った後、お母さんが少し寂しそうな顔をした。
「・・・・・・お母さんは、魔法院まで見送り出来ないからね」
「・・・・・・・・・・・・」
お母さんの言葉で、あたしは一瞬間前のことを思い出した。
あれは、今日みたいな天気がいい日。家に届いた一通の手紙。
それは、魔法士を目指す者達の憧れ、【ミルス・クレア魔法院】からの入学許可書が入った手紙だった。
【拝啓 リク・ナカムラ様
 貴女は本校に相応しい能力を持っているとお見受けする為、今日をもって入学許可を致します。
 おめでとうございます。貴女には我が校で勉学を励んで頂きたいと思っております。
 今日から一週間後、魔法都市【ラティウム】でお待ちいたします。
 我が校が貴女にとって【幸福】の一つであるようにと願っております。
                         ミルス・クレア魔法院学長・クレメンス】
この手紙にお母さん、町の人たちや地元の魔法学校の皆でさえ驚いた。
正直、あたしは少し怖かった。あの魔法院に行くことは一生無理な事だと思っていた。
きっと、あっちの間違いで入学取り消しの可能性さえ高い。それが怖かった。
あたしが俯いていると、お母さんは深いため息をついた。
「ほら、入学出来るんだからしっかりしなさい!」
「ひゃあ!?」
お母さんはあたしのお尻をパンッと叩いた。手に持っていたパンとベーコンエッグも一緒に飛んだ。
「いい?涙って言うのは簡単に見せちゃいけないのよ。ちょっとの事で簡単に泣いてはいけない。歯を食いしばって、空を見上げて我慢するのよ」
「お、お母さん?」
「大丈夫、あんたなら出来るわ。学校では結構いい方だったし、魔法使いになるのはあんたの夢だったんでしょ?今からそんなんじゃ叶うものも叶えないわよ。私の子なんだから、きっと出来るわよ」
「お母さん・・・・・・」
お母さんの言葉が嬉しくて涙が出そうなったけれど、あたしはそれを我慢した。
「あんたは私と似たところがあるわ。だからあんたの名前通り、凛々しく賢く強い女になりなさい、リク」
そう言ってお母さんはあたしの額にキスをしてくれた。
まるで子供の頃に戻ったみたい。甘い、ミルクの匂いがした。
「しっかりやるんだよ?」
「・・・うん」
「いってらっしゃい!」
「いってきます!」
お母さんに背中を押されて、あたしは旅立った。
自分の夢を叶える為に。自分の幸福を見つける為に。
その全ての希望が詰まった憧れの地、魔法都市【ラティウム】にある魔法学校—・・・【ミルス・クレア魔法院】へ。

これが、あたしの物語の始まりだった。