二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Episode1 ( No.2 )
日時: 2010/03/01 21:43
名前: 雫 ◆dflfIJckpA (ID: l/xDenkt)

仰ぎ見た空は、暗雲。
友人と挨拶を交わし、そそくさと教室を後にする。
早足に帰路を辿り、やがてコンクリート製の橋へと差し掛かる。
此処を渡れば、自宅まで5分とかからない。
足取り軽く、一歩踏み出したその際。
中央に佇む制服姿の男に目が留まり、彼の数歩手前で立ち止まる。
徐に、彼の瞳がこちらを捕らえた。

1. Unbelievable!

カーテン越しに差し込む、幾筋もの陽光。
暖かなそれを身に感じ、薄らと瞼を開ける。
億劫に半身を起こして一時、何処からか軽快なメロディが鳴り出した。
その音源となる物─『携帯』を手に取り、手慣れた操作で停止させる。
現時刻のバックに映る愛らしい子猫の画像は待受に内蔵されているうちの1画像であり、何気なく設定していたつもりがすっかり定着してしまったものだ。
2つ折りに閉じコンパクトになった携帯を片手に床に降り立つと窓を開け、飛び交う数羽の雀を何の気なしに目で追いながら肺一杯に空気を吸い込む。
彼女、些后條 雅は全国有数の女子校に通う時たま英語を口にする他何ら変わりのない先日17歳を迎えた凡人である。
新学期から早2ヶ月が経ち、帰宅部であるものの友人と充実した学校生活を送っていた。

「雅!朝よ、起きなさーい」

突如、下の階から名を呼ぶ声。
寝起きにも関わらず快活に返事をして自室を出た後、大きく深呼吸。
今日は頗る気分が良い。
上機嫌に鼻歌混じりで階段を下りていると、上から素っ頓狂な声がした為に何事かとその主を振り返る。
信じられないと言いたげな表情に、寝癖を気にかけながらも真直ぐに雅を見据える少年の姿がそこに見てとれた。
雅の弟、陸である。

「何、どうしたの?」

「朝は決まって機嫌が悪いのに…この上なく上機嫌で鼻歌口ずさんでる!」

「…」

「うわー…何か調子狂う」

気にかけていた寝癖はどこへやら、無造作に髪を掻き回すと雅を追い越し階下に降りる。

「…先に顔洗ってきなよ」

「良いの?」

「ん」

やれやれ、と肩を竦める。
その間、テンポよく階段を下り終えた雅が擦れ違い様陸の額を小突いていく。
案の定、面喰らう弟にほくそ笑み歩き出そうとするが、持ち前の反射神経で仕返しをくらってしまう。
やるじゃん、と目で語るように見れば大仰に踏ん反り返る陸。
何だかんだで、この姉弟は仲が良い。

***

身支度を終えた二人はそれぞれリビングへと足を運び、既に朝食をとっていた父母と口々に挨拶を交わす。
父の向かい側に雅、その隣を陸が座る。
違いに席を立った母がキッチンからカップを片手に戻って来ると、一、二言父に声をかけてテーブルに置く。
ホットコーヒーらしい、息を吹きかけ、慎重に口をつける様から彼が猫舌である事が窺い知れる。
日常茶飯事と化した漫才にしか聞こえない会話を繰り広げる二人を前に、彼は慣れた様子で止めに入ると妻に声をかけた。

「おい、時間大丈夫か?」

トントン、と己の腕時計を指し示し。

「大変!」

促されるようにそれを目にした母は、途端焦燥めいた表情で慌しく鞄を引っ掴むと小走りにリビングを出て行く。
その背を見送りつつ、珍しいものだと苦笑混じりに未だ熱いコーヒーをちびりと口にする。
その父も、一息つくと職場に赴くべく家を出て行った。

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