二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Episode1 ( No.3 )
日時: 2010/03/01 21:45
名前: 雫 ◆dflfIJckpA (ID: l/xDenkt)

「驚いたな…いつもなら、時間前には家を出るのに」

父を見送り、食事を再開して間もなくの事、陸がぽつりと言葉に洩らす。
両手で包み込むように持ったコップを意味もなく左右に揺らし、小さく波打つ茶を目にしながら雅もまた同感だと頷く。
時間厳守な質だけに、余裕をもって家を出るのが母のモットー。
だからこそ、先の状況に家族一同驚きを隠せなかった。

「何となく、ヤな予感」

「…」

呟きに近い声音で発した陸の隣で、何を突然、と雅は訝しげに眉根を寄せる。
今日も今日とて姉弟曰く『お天気お姉さん』の予報が始まる中御飯を口に放り込む。
午後から天気は総崩れ、外出の際には傘をお忘れなく─との事で、何の気なしに微塵もそれを感じさせない澄み切った空へ目を向けた。
陸がどことなく真剣な面持ちで続ける。

「今日の母さんといい姉ちゃんといい、何か起きるかもしれないね。…姉ちゃんの身に」

「あたし限定かよ」

「…姉ちゃんだし」

「意味分からん!」

「ごちそうさまー」

口にするや否や、恐ろしい速さで食器を手に取り早足に去って行く。
反射的に呼び止めるも、それに従順する筈がなく。
仕方なしにと言いかけた言葉を押し戻し、代わりに盛大な溜息を吐き出したのであった。

***

「行ってきまーす」

玄関口にて、登校直前の自分を除き家には誰一人いないという状況にも関わらずその言葉を口にしドアを開ける。
ふと『お天気お姉さん』の予報が頭を過り傘を持ち出そうとするが、面倒だと一蹴してそのまま外に出る。
胸元のポケットから鍵を取り出し施錠を終えると、手早く鞄にしまって颯爽と歩き出す。

「今日の母さんといい姉ちゃんといい、何か起きるかもしれないね。…姉ちゃんの身に」

頭中で幾度も反芻する陸の言葉。
冗談で口にしたとはいえ、縁起でもない事に変わりはない。
加えて自分の身に、ときたもんだ。
今更ながら沸々とこみ上げてきた怒りに身を任せ、通り掛った電柱に蹴りを入れる。
それに生が宿っていたとしたら、「痛い!」という悲鳴が聞こえてきたに違いない。
電柱、哀れ。

「…ふう」

周囲の目をものともせず朝方にしては強い日差しに目元を翳しながら歩き出そうとするが、突如背後から伸びてきた両の手によって視界を遮られ身動きがとれなくなってしまう。
その体勢から間もなく、溜息混じりに雅は呼びかけた。

「芽依ー?」

「あ、バレたか」

両の手が離れひょっこり雅の視界に現れた彼女─親友の芽依は、ふふ、と何やら目論んだ笑みを浮かべる。
それを絶やさぬままデコピンをくらわそうと手を伸ばすが、すんでのところで雅に距離を取られ空振りに終わってしまう。
さり気なく舌打ちすると、何も口にしないまま雅に背を向けてせっせと歩き出してしまった。
その後姿にくつくつと笑い、慌てる事なく芽依の隣に並んで朝恒例の挨拶を口にする。
暫時口を噤むも、笑って「おはよう」と芽依も返した。

「何考えてたの?」

「んー明日はどんなかたちでサプライズさせようかと思って」

「I decline it.」

「冗談だって!…大方予想はつくけど、何て言ったの?」

「“お断り”。ごめん、つい口にしちゃうんだよね」

「あーやっぱり。つか何を今更!」

ビシリ、とそれこそ擬態語が付きそうな勢いで親指を突き立てる芽依に「それもそうか」と肩を竦め。
一頻り笑いあった後、「そういえば」と芽依が話を切り替えた。

「昨日隣町の交差点で事故があったんだけど…雅、知ってる?」

「え、マジ?」

「その様子だと知らないか」

「うん、まあ…」

何せ昨日は休日。
腰を痛めた祖母を労り、家族揃って温泉に赴いていたのだ。
対し芽依はというと、私用で外出した帰りに偶然事故現場を目撃したという。

「何処で?」

「歩道橋から」

最近、事故が多発しているという隣町の交差点。
その近辺に建つショッピングモール店に友人や家族と訪れる際よく通る箇所なのだが、所々に立てられた“事故多発中!“という看板がいやに目についたものだ。
芽依の話によると、事故発生時刻は午後5時を過ぎた頃。
凄まじい衝突音が聞こえ何事かとその方向を探ってみると、横断歩道上でうつ伏せに倒れた制服姿の男子高生と、そこから更に1メートル程離れた場所で若い男性が同様に倒れていたという。
周辺を歩いていた人達は何事かと騒ぎ立て、車道で一時停止していた車は走ろうにも走れず往生状態。
数分後、野次馬の誰かが連絡を入れたのだろう、救急車が到着。
間もなく4人の救命隊員が車内から現れ、それぞれ事を俊敏に進めていく。
1人の隊員が若い男性に声をかけたところ、呼応するかのように小さな呻き声を上げたらしい、その隊員は意識がある事を知らせながらもう1人と救急車へ運び込んだ。
何故だかそちらへ目がいっていたばかりに、男子高生は既に運び込まれたのか姿が見当らなかったという。

「バイクと自転車の衝突事故だったみたい。あの場所からだと総合病院が近いから、そこに搬送されたんだと思う」

「へえ…」

そこで会話は途切れ、何を話すわけでもなく互いに黙々と歩みを進めた。

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