二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Episode3 ( No.9 )
日時: 2010/03/04 20:36
名前: 雫 ◆dflfIJckpA (ID: l/xDenkt)

着実に調理を進めるその手際よさは、感嘆に値するもの。
一通り具材を切り揃え、炒めようとフライパンを手にした雅の背に声がかかる。

「晩ご飯何?」

声の主は、言わずもがな陸。
真っ先に冷蔵庫へ向かうと、買いたての炭酸飲料を取り出す。
振り向きもせず一瞥だけくれてやると、今し方切り揃えた具を指差しながら淡々と答えた。

「カレーとシチューよ」

それぞれ半分量ずつ、他の家庭にはみられない些后條家独自の夕飯メニューである。

3. insolent guy

何か問いたげに、だがそれを躊躇して口を噤むといった仕草を繰り返す陸に素知らぬふりをし、油を適量ひいて炒めに入る。
やがて「何かあった?」と控えめに口をきいてきた弟に手を休める事無く返答する。

「…何で?」

「“幽体離脱“って聞こえたから」

「は?」

「…サーセン」

おかしい。
その場に居合わせていなかった陸だが、帰宅後と明らかに違う姉の様子を一見して何かあったと確信づくも、眼光鋭さにそれ以上問い質す事が出来ず仕方なしにと肩を竦める。
コップ一杯に注いだ先の炭酸飲料をその場で一口嚥下し、去り際に雅を一瞥してそそくさとリビングに戻っていった。
その背を何とはなしに目で追いながらぼんやりと思い起こすかの青年。
そもそも自分には霊感がない。
故に、霊体である彼が見え触れられるというハイスペックな体質でいた事が未だに信じ難い。
此処に現れた理由を問えば、「事故にあった」という突拍子もない一言に加えその経緯話という返答にはまるで乏しいもので、その真意を掴み兼ね困惑する。
それも後々明らかになるわけだが、「興味一心で」というなんとも拍子抜けする答え。
解せない言動にいよいよ腹が立ち、夕飯の支度も相俟ってその場を立ち去ろうとした自分を呼び止めたかと思えば、小憎らしい程の笑顔を浮かべながら「自分はまだ死んでいない」などと言い放つ。
俗にいうかの現象、“幽体離脱”。
悶々とその場に立ち尽くしていると、意を決したように青年が懇願…とはまるで程遠い、真顔こそすれ尊大な態度をとって言った。

「体に戻れるよう協力してくれ」

霊能力者もお手上げであろう云々以前に、とても人に物を頼む態度とは思えないそれに胸中で一人毒突く。

「隣町の総合病院に入院してる。Please come by all means(絶対来いよ)」

あれこれ反論するも虚しく、始終何処吹く風といった青年は一度そこに来て欲しいと有無を言わせぬ勢いで一方的に自分の名を告げて姿を消してしまった。

「伊達…政宗」

呟いて、程よくなじんできた具にじゃが芋と人参を加え更に数分炒める。

「…わけ分かんない」

手に力を込めるあまり、一つのじゃが芋が犠牲になった。
人知れず、フライパンに哀れんだ目を向ける陸の姿があったとか。

insolent guy──横柄な奴

→Episode4へ続く

─と、ここでようやく「伊達男さん」の紹介です!

伊達政宗▼

不慮の事故に遭い意識不明という状況下、どういうわけか幽体離脱してしまった青年。
何故か霊体である己が見え、触れる事も出来る雅に興味を抱き暇あらばと彼女の前に姿を現す。
俺様、Going my way。
獲物に狙いを定めた獣の如く、目をつけた者は手中に収めるまで折れない意志強固。
良い意味で一途←
勉強・スポーツ面共にオールマイティー、ムカつく程デキる奴。