二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 幻想郷放浪記 ( No.15 )
- 日時: 2010/11/07 11:56
- 名前: 昨日の今日 ◆7LxmAcs00. (ID: t51BWMGM)
目が覚めた。
ごく当たり前なことだ。しかし目覚めた場所が和室で布団に入っている。
上半身を起こして辺りを見回す。
…和室、だな。ふすまの隙間から光が零れている。
立ち上がり伸びをする。一体どこなんだ、ここは。
突然ふすまが開く。ふすまから出てきたのは青と赤が交互に染まった服を着た女性だった。
女性は不思議そうにこちらを見ている。
「あら、起きたの」
「俺は人間だ。起きて何が悪い」
「ごめんなさい。別にそういう意味で言ったんじゃないのよ」
「そうか。…ところで、だが」
「何?」
「ここはどこだ? 何故俺はここにいる?」
「ああ、そのこと。…ちょっと待っててね」
と言い、女性は来た道を引き返した。…一体何だってんだ?
「あなたがここ——永遠亭の玄関に倒れていたからね。だから介抱したのよ。覚えてない?」
と先程の女性——八意永琳が説明する。ふむ、倒れていたとな。
「覚えてないな。…たしか宴会してたはずなんだがな」
「まあ理由はなんにせよ、ここに来たってことは何らかの用事があるんでしょう。多分」
「あー…行っとくが俺は別に具合とか悪くないからな?」
永琳は薬を作っているらしい。人間用のと妖怪用のを。
「それは健康診断させてもらったから分かってるわよ」
「そうか」
「で、よ。これから貴方はどうするの?」
「あー…どうする、ねぇ……行く宛がないから何とも言えんな」
「そう…だったらしばらくここに住んでみない?」
「何故?」
「実は…ちょっと問題があってね」
そう言って永琳はとつとつと語りだした。
「ここに鈴仙・優曇華院・イナバっていう名前の娘が居るんだけどね。その娘がちょっと様子がおかしいのよ」
「おかしい? その…うどんなんとかって言うのは何かしたのか?」
「何もしてないんだけど…ちょっと態度が冷たくなったとか、そんな感じで」
「反抗期…って考えるのは安直すぎるか」
「ええ。今まで普通にしたってくれたのに…それが心配で…」
「だから俺に探りを入れて欲しい、と」
「ええ。お願いできるかしら?」
「別に構わんがな…何故俺なんだ? 八意でさえ駄目な鈴仙って奴が俺に心を開くとは思えないのだが…」
「彼女にはすでに休暇を与えているの。…私は忙しいし、他も当てにならない。貴方は常々鈴仙と話をしていてほしいの」
「話…か」
「ええ。いい方法とは言えない。けど、何もしないよりは遥かにましなの。だから…」
「よし。その話引き受けた」
「本当…?」
「ああ。任せろ」
俺は胸を張って、そう宣言した。永琳も喜んでいるみたいだった。
「…どうも。私は鈴仙・優曇華院・イナバ。よろしくお願いします」
「ああ。俺のことはおじさんと気軽に呼んでくれ」
「……」
問題児は顔を上げようとしない。そもそもこれは流石にいかんだろ…
永琳がとんでも無いことを言い出したんだ。
『しばらくの間は鈴仙と一緒の部屋で暮らしてください。鈴仙にも言っておきますんで』
どうだこの無茶ぶり。一緒に暮らせって……
つまりは一緒に寝ろということだ。
いやこれ俺がどうとかじゃなくて鈴仙が気まずいだろ。いきなりむさい男と二人で暮らせって…
ギャルゲでもねーよ。
しかし俺もやることがない。話し続けろったって、最初から気楽に話せる奴なんて居ないだろ。居たら連れてこい。そしてこいつと話してくれ。
とりあえず俺は(何故か)ポケットに入っていた小説を取り出し読むことにした。
しばらく経過するよー
…やべぇもう何周しただろこの小説。
さっきから同じ部分しか見てないよ。そこだけ覚えちゃうかもしれんぞ、おい。
「……あのさ、鈴仙は八意の事どう思ってる?」
「……良い人だと思ってます」
…気まずい。いきなり核心に触れるのはまずかったか。
「そ、そうか。じゃあ友達とかいるのか?」
「……いません。私一人です」
やばいよどんどん墓穴掘ってってるよ俺。馬鹿か俺は。
「あー…その…ごめん」
「……いいですよ。気にしてません」
気にしてませんとか言わないでくれ余計気分が滅入る!
そこに救世主が!
「二人とも〜。ご飯よ〜」
「あ、ほら、飯だってさ。一緒に行くか?」
「……私は要らないと言っといてください」
どんだけ嫌いなの!?
「いや…ほら…食べないと身体に悪いぞー…」
「妖怪何でちょっとやそっとじゃ悪くなりません」
…限界だよもう。
「…駄目です?」
永琳が心配そうに訊いてくる。はは、分かってるくせに…
「全然駄目だ。話しかけても俺が墓穴掘ってるし…」
「…で、あの娘はいらないと?」
「ああ。妖怪だからってちゃんと食べんとな」
「…実を言うと、もう三日前からこんな調子で…」
まじ?
「え? てことは…何も食べてない?」
「ええ。朝昼晩すべて食べてないの」
「それは駄目だ。俺が飯を持っていく。ちょっとお盆を借りるぞ」
「お願いします…」
「ほら鈴仙。飯をもらってきた。いいから食べろ」
「……」
鈴仙はあからさまに嫌な顔をする。
「……はぁ。本当、貴方ってお人好しですね。別に気にしなくてもいいんですよ?」
「阿呆。これから仲良くやるルームメイトを気にしなくてどうすんだ。いいから食べろ」
「……分かりましたよ。じゃあその辺に置いといてください。後で食べるんで」
「いいや、今すぐだ。お前だと数日ほっときそうだからな」
「……何で……」
「あ?」
鈴仙が何かボソッと言ったので聞き返す。
そして次の瞬間大声が響いた。
「何でいちいち文句をつけるんです! 鬱陶しいんですよ! さっきから!」
「鈴仙…」
「何がルームメイトだ、何が仲良くだ! 人間となんか仲良くなれるはずがない! それは身を持って知ったんだ! 簡単に言うな!」
そして鈴仙の荒い息遣いだけになった。
何か言おうとしても金縛りにあったように動けない。
「……お願いですから私と仲良くしようなんて言わないでください。…邪魔ですから」
そう言って早足で部屋を出て行く鈴仙。
俺は動くことが出来なかった。
…情けねぇな、俺。
結局鬱陶しがられるだけで状況がさらに悪化しちまった。
…永琳に合わせる顔がねぇな、こりゃ。
新舞台は永遠亭。
ども、昨日の今日です。
第十二話はいかがでしたでしょうか。鈴仙のあの態度はある人への"恨み"があるからです。
しかもその感情はいきなり爆発的に出てきました。
日頃からの恨みなのか過去の恨みなのかそれとも……?
まぁ期待しててくださいな。
ではでは。