二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.137 )
日時: 2010/10/20 13:13
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: 2lvkklET)

 そして時は再び晩に戻る。
 月光が照らし出す暗い草原の上で涼野と蓮は、

「風介、行くぞ! おりゃあっ!」

 パス練習をしていた。月明かりはそこそこ明るく、やや薄暗いがお互いの姿やサッカーボールを確認することができる。
 蓮が軽くボールを蹴ると、涼野は転がってきたボールを左足で止めた。

「蓮、なかなかいいパスではないか。次はこちらの番だ!」
「それっ」

 止めていた左脚を引くと、力強い掛け声とともに涼野が蓮に向かってボールを蹴る。キック力があるのか、転がるスピードが速い。
 しかし蓮はお得意の反射神経でボールに素早く反応した。自分の前に転がってきたボールを片足で止めると、つま先ですくう。そして頭上に軽く上げ、ヘディングをしてから腕の中にキャッチした。
 蓮はボールを抱えながら、涼野の元へと歩み寄る。

「すごいキック力だなぁ……憧れるよ」
「キミこそ、DFとは思えないキック力だな。FWにも向いているのではないか?」

 そう涼野に尋ねられ、蓮は難しい顔をして首をひねる。

「う〜ん。どうだろう。どっちにしろ、スタミナ不足だからDFで精一杯だよ」
「スタミナ不足?」

 涼野に聞かれ、蓮はサッカーボールを見つめながら自分のサッカーの悩みを涼野に聞かせていいものか悩む。
 しかし、彼になら話してもいいかも……と妙な安心感から、淡々と涼野に自分のサッカーの弱点を、悩みを語り始める。蓮は自虐気味な表情を浮かべると、

「技を使うと、身体の力が吸収される気がするんだ。そのせいで僕はすぐに倒れてしまう。他のスポーツでは全然疲れないのに、サッカーだけは異常に疲れてしまうのさ。ほーんと、なんでこんなスタミナ不足の僕が、雷門にいるのかな」

 本当に仕方がない、くらいにしか聞こえない話し方。けれど最後に自分の本音が、ついポロリと漏れてしまった。
 雷門サッカー部にいるみんなは普通にフルタイム走っていられる。なのになぜ自分だけ走ることが出来ないのか。
 持久走には自信がある。テニスだって、炎天下で何時間も中一の頃は練習できていた。
 なのにサッカーだけはだめ。でも、周りが認める力はあるらしい。それを頼られて、入部させてもらったのに、役に立てない自分が嫌で嫌でしょうがない。
 蓮の悩みを察知したのか、涼野は澄んだ青緑の瞳を、まっすぐ蓮へと向ける。その瞳には友を心配をするような光が宿っている。表情は仏頂面だが、ところどころに彼の感情が滲み出ているのは新しい発見だった。

「悩んでいるのか?」
「……どうかな」

 蓮は瞳を陰らせると、長いため息を吐いた。
 そしてしっかりとした口調で話し始める。

「実はこの前さ、エイリア学園と戦ったときにさ、試合前に倒れちゃって。試合中も身体が重くて言うことを聞いてくれなかった」
「どうして倒れたのだ? 無茶をしたのか?」
「全然。ジェミニストームを見た瞬間、胸がギュッと掴まれたみたいに痛くなってさ……だんだん息も苦しくなって、立っていられなかった。不思議だけど、ジェミニストームがいなくなってからは、苦しさも急に消えた」

 実にジェミニストームを見た途端、急に胸が締め付けられた。アレルギーのように、身体が過剰なくらいに”何か”に反応しているようだった。やつらが持っている『気』のようなものに、身体が共鳴している——そんな感覚だった。向こうが叫ぶと、身体が叫ぶ。それが痛みとなって身体を襲ってくるのだ。

「それは不思議だな」

 涼野の疑問の言葉は蓮にとっても同じだった。
 この身体はやつらのなにに反応したのだろうか。

「チームのみんなには迷惑をかけてばかりだ。円堂君が、試合に出れる時間をだんだん長くしていけばいいって言ってたけど、もっと早くフルタイムで出られるようになりたいな。いつまでも、お荷物でいるのは嫌なんだ。この前の奈良だって前半はベンチで悔しかった。見ていることしか出来なくて嫌だった。確かに僕は非力だけど……僕にだって、雷門サッカー部の一員としてのプライドがある。僕はここにいる」

 わりかしら悲観的に言っていたが、最後の一言には蓮のはっきりとした意志が宿っていた。他の部分より強く、しっかりとした口調が、蓮の意志の強さを表しているようだった。
 黙って神妙な面持ちで話を聞いていた涼野は、蓮にふっと笑いかける。

「蓮」

 蓮が振り向くと、涼野は海へと目をやった。
 潮風が涼野の銀の髪を静かに揺らした。

「キミならできるはずだ。今日……キミとパス練習をしてそれを痛切に感じさせられた」
「どうしてさ?」
「わからない。ただ、そんな気がするだけだ。そう私が思うことに理由は必要か?」
「……いらない。理由なんて、ない方がいい」

 潮風がいっそう強く吹き、蓮の呟いた言葉をさらって行った。

 それから何時間もパス練習を続けるうちに、すっかり深夜となってしまった。星の位置が、だいぶ変わっている。寒さも増してきた。

「そろそろキミも寝る時間だろう」
「やっば。こんな時間なのか」

 蓮はサッカーボールを片手に、コテージの前まで一気に丘を下った。後に涼野も続く。
 コテージの中へと続く扉の前で、立ち止まり、二人は向き合った。

「風介本当にいいのか? よかったら送るのに」
「私は大丈夫だ。……会えたら会おうではないか」

 そう別れのあいさつをして、涼野が踵(きびす)を返す。
 あっと蓮は声を上げ、涼野を呼びとめる。

「あ、風介。ちょっと待って」

 完全に涼野が立ち止まったことを確認すると、蓮は鞄をあさりながら涼野へと近づく。
 鞄の中から引っ張り出した白い獣のキーホルダーを涼野に握らせた。それは白いオコジョをかたどったもの。上に、ビーズがついたチェーンが通されている。

「……これはなんだ?」
「北海道のオコジョのキーホルダー。塔子さんに二個ももらっちゃってさ、やり場に困っていたんだ」

 苦笑いを蓮がすると、涼野はキーホルダーをじっと観察するように上下にひっくり返したりしていた。
だがやがて止め、ポケットの中へと滑りこました。

「もらっておこう」
「それならよかった。じゃあ、おやすみ風介」
「おやすみ、蓮」

 互いに別れのあいさつをすると、蓮は涼野に片手を上げ、彼に背を向けコテージの中へと消えた。しばらくして二つ目の部屋から明かりがもれる。

「……私はどうすればいいのだ」

 明かりを目を細めて見つめながら、涼野は小さく呟やいた。天井を仰ぐ。
 たくさんの星たちが自分の存在を主張するように瞬いていた(またたいている)。

「キミはどちらを望む、蓮——」

〜つづく〜
なんかようやく蓮が出てきました。もうすぐ北海道編も終わりますかね〜^^;