二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.148 )
- 日時: 2010/09/04 18:37
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: 2lvkklET)
吹雪にさっきこうして教わったのだ。
自分の体の脇に吹雪が手を入れてくれて、支えながらやってくれると、驚くくらいに上達のスピードが速くなった。だんだんハの字を重ねた形できれいに進めるようになり、バランスをとるのにも慣れた。初めて風と身体を一体化できた感動は、心にはっきりと残っている。
「よし、そろそろ手を離すぞ!」
染岡がだいぶバランスをとるのに慣れて来たようなので、蓮は染岡の脇から手を離した。染岡はいきなりかよ! とたじろぎ、一人で下って行く。また、バランスが崩れ下半身がぎくしゃくし始める。
「染岡くん、風だ!」
スキー板から足を外すと、蓮は吹雪に教わったことを反芻(はんすう)して、腹の底から叫んだ。
——いい? 白鳥くん。スキーでは、怖がっちゃだめだよ。風になるんだ。風と自分を一つにする。そうすれば、きっと上手く滑れるようになるんだ。さあ、風になろうよ!
「風ってあんだよ!」
意味がわからないと言った調子で、染岡の声が下から流れて来た。スピードはさらに増し、今度は染岡がどんどん見えなくなっていく。目の前に木立が迫る。
「空気の流れに身を任せて! そのまま進むんだ! 風になれ!」
心の底から叫びながら、蓮は息せき切りながら走る。見逃したくなかった。染岡は、自分より上達のスピードが速い。ただ怖がっているだけなのだ。
その直後だった。染岡の身体に安定感が戻る。身体をしっかりと前傾させ、スキー板もハの字を描いている。目の前に差し迫った木を、体重を片足にかけて、きれいなカーブを描いて避けた。
「染岡くん、いい調子! いい調子!」
蓮は転がりそうになりながら走り続け、応援の手拍子を合わせた歓声を送る。
やがて染岡は自力で丘を下り切ると、蓮にガッツポーズをしながら止まった。
蓮の心に熱いモノが生まれた。その衝動に駆られるがまま、染岡の元までたどり着くと、彼の身体に思い切り飛びつく。染岡は驚く素振りも見せず、両手を広げて蓮を受け止めると、お礼の意味も込めて蓮の髪がぐしゃぐしゃになる程、激しく擦った。
「これでようやく吹雪のスピードに追い付けそうだぜ」
スキー板を立てながら、染岡は満足そうに言った。蓮が首をかしげる。
「え、吹雪くんに?」
すると染岡は難しい顔をすると、蓮の顔をじっと覗き込んできた。その視線は強い敵愾心に燃えたもので、蓮は染岡を直視するのがやっとな程、とても強いものである。
「白鳥は、吹雪を認めるのか?」
「うん。えっと、まあ……」
強く詰問(きつもん)され、蓮が語尾を濁らた。曖昧な返事をあうる。
染岡は満足な同意が得られなかったせいか、ふんっと不機嫌そうに鼻息を吐くと、腕組みをして目を吊り上げる。
「俺はあいつを認めねぇ」
「どうして?」
そう蓮が聞くと、染岡は怒りと悲しみとが混ざった複雑な表情を見せた。
今日、染岡の様子がおかしいことに蓮は気付いていた。いつもむっとした顔で、一人で滑っていた。その視線の先は、そういえば自分と特訓していた吹雪。何故だろうか。
しばし返答に困ったのかだんまりとしてた染岡だが、ポツリと呟く。
「あいつを認めたら」
そして覚悟を決めたような顔をし、蓮をしっかりと見て語りだす。拳を作り、それを震わせながら。
「豪炎寺が帰ってこなくなっちまう気がするんだ。あいつはチームのエースなのに」
「豪炎寺くんは、チームをずっと支えて来たのか」
「初め、俺は豪炎寺を嫌っていた。でも、あいつはすごいストライカーだってことが、一緒に戦ってきてわかるようになった。だから俺は、豪炎寺の力を認め、共に戦うことを選んだ。そうしたらあいつ、本当にすげえんだ。でも、あいつ一人じゃできないこともたくさんあることにも気がついた。そうだからこそ、俺は二番手でもいい、豪炎寺と共に2TOPを組んでやってきた」
そこまで言い切ると、染岡は長い溜息をつく。
顔がみるみる曇り、寂しさを漂わせ始める。
「だけど吹雪は豪炎寺とは違う。確かに強い奴だが、あいつを認めると豪炎寺がいなくなる気がするんだ——チームのエースは豪炎寺なのに。円堂も『豪炎寺が帰って来た時がチームが完成する時だって』言ってたが、オレはどうすればいいのかわからねぇ」
黙って聞いていた蓮が、何か思いついたような顔をした。優しい口調で、
「んっと、じゃあ染岡くんに聞くよ。例えばの話、僕とキミの二人は、小舟に乗って夜の大洋を航海していたとする。だけどうっかりして、明かりを海に落としてしまった。だけど、目の前には運よく漂流してきた明かりがある。……さあ、どうする?」
染岡に質問を投げかける。
しばらく考え込んだ後、染岡は逆に強い口調で問い返してきた。蓮にかなり詰め寄る。
「その明かりが強すぎたらどうすんだよ。俺たちは、そのまま水の泡になっちまう」
蓮は怖がらなかった。まっすぐに染岡を見据えた。微笑をたたえると、地平線に沈もうとしている巨大な火の玉を見つめた。
真っ赤に輝くそれは、確かに強すぎることもある。昔近づきすぎて翼を焼かれた人間がいたと学校の歌で習った。だが、無ければ生きていけないと言う事実も学校で習った。
「明かりがイカロスの翼を焼く灼熱だったらどうする? ってことか。でも、その光は僕たちを導いてくれる太陽かもしれないよ?」
「……確かに、な」
盲点を突かれて驚いたのか、染岡は俯きながら、自分に言い聞かせるように呟いた。
そして蓮はまだ太陽に視線を送りながら、話を続ける。
「答は使うまでわからないさ。どう思うかなんて、自分自身の問題だから。……とにかく試して体感してみなよ。それから、染岡くんが選べばいい。灼熱だと言って捨てるか、光だと受け入れて共存するかは、さ」
「吹雪の力を……感じろってのか」
ゆっくりと染岡が顔を上げる。その顔には、怒りも悲しみもなくなっていた。
蓮はにっこりと笑ってみせると、背伸びをする。そして軽くウィンクして見せる。
「食わず嫌いはよくない。食べてみると、あんがい上手かったりするもんだよ」
「へへ、そうだな。白鳥の言う通りだぜ。俺も昔はゴーヤがまずそうだから食ったことがなかったが、食ったら上手かったぜ」
釣られたのか染岡も口元に笑みを浮かべると、懐かしそうに言う。くすっと思い出し笑いが時折漏れる。
「そうそう」
試してみなきゃわからないのだ。
吹雪の穏やかな人柄はスキーの特訓で理解した。蓮としてはいい人間だと思っている。後は、染岡がわだかまりを解き、直接理解してくれればいいのだが……
〜つづく〜
学校明けの初☆小説ですb学校では友とイナイレについて語りまくり、この数日は本当にヘブンズタイムです^^
にしても、いやあ、今日も暑かったですね。残暑? でしたっけ。酷暑とか炎暑とか……いろいろ聞くのでこんがらがってきました;;