二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.158 )
日時: 2010/09/11 16:52
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 2lvkklET)

 日が完全に傾き、空には薄藍色が広がり始めた。昨日見た宗谷岬の空とは違い、見える星の位置はだいぶ異なっている。北海道と言っても、宗谷岬はもっと北。緯度が違うだけで、こんなにも星は違うものかと蓮は心の中で感心していた。
 星明りだけを頼りに、スキー板を抱えた染岡と蓮はゆっくりと白恋中学校へと足を進めていた。雪上の歩き方もなれ、歩くように進むことができる。
 闇色に染まった木が、時折さわさわと風で音をたて、ふくろうが鳴く声が夜のしじまを震わせる。一人でいたら完全に怖くて、足がすくむだろう。染岡が隣にいるのが心強い。改めてみると、彼のこわもてはどこか男の貫禄(かんろう)を感じさせる頼もしいものな気がしてくる。
 ますます冷え込みも激しくなり、ジャージだけでも身震いが起こる。蓮は手袋をこすり合わせた。雪が溶けた手袋もまた寒さの原因だろう。横では染岡が手袋をはずし、手に白い息を吹きかけていた。

「そっか。ジェミニストームの襲撃予告があったのは、昨日のお昼だったんだ」
「ああ」

 蓮は、染岡から自分と塔子が不在だった間の話を聞いた。
 遭難していた吹雪と出会い、成り行きで白恋中学校と試合をしたこと。吹雪はDFもFWも優れた稀有(けうな能力の持ち主であること。……そして、ジェミニストームから昼過ぎに襲撃予告があったこと。
 吹雪のことにも興味を持つべきなのだろうが、蓮はジェミニストームの襲撃予告を受けた時間が、昨日の昼だと聞いてほっとしていた。涼野は、風介は無関係だと信じられたからだ。だが一方で自分が、みんなはきちんとサッカーしていたのに、遊び倒してしまったと言う咎められるべき行為に対する、後悔の思いも生まれたが。

「……そっか」

 安堵と後悔が混ざった複雑な気持ちを、蓮は北海道の澄んだ空気に吐き出した。気持ちを切り替えるように、思い切り深呼吸をする。
 染岡も蓮のまねをして体を伸ばしながら深呼吸をし、

「ところで、白鳥は”あれ”どう思う?」
「今日見につけた”あれ”か。きっとジェミニストームにも太刀打ちできるよ」
「ああ」

 はっきりと頷いた蓮は、染岡とこぶしを軽く合わせた。
 そして、時は来る——

 約束の日——昼過ぎ。
 今日の空模様は悪い。一雨来そうな分厚いねずみ色の雲に覆われていた。空までもが宇宙人の襲来に脅えているとでもいうのだろうか。
 曇天の白恋中学校のグラウンドに、雷門イレブンは整列していた。フィールドの外では夏未たちが、不安げな表情で雷門イレブンを見守る。白恋の生徒たちは、危険だと言う理由で校舎内に待機させている。試合前だが、相手側のフィールドには誰もいない。
 瞳子が腕時計を見た。長針と短針が、”12”の位置で重なった。その時。

「うっ……」

 蓮が小さくうめいた。
 胸が異様なスピードで、鼓動を打つ。胸を誰かに鷲掴み(わしづかみ)にされた様な痛みが、身体に襲い掛かってくる。奈良の時と同じだ。
 痛みで、視界が霞んでいく(かすんでいく)。冷や汗がどっと体中から噴出し、雷門イレブンの姿が陽炎のように揺らめく。
 何か、空を切る音がする。でも、何が降っているのかは、ぼやけてよく見ることができなかった。息がつまり、呼吸ができず苦しい。蓮は、喘ぎ(あえぎ)ながら、自分の身体が地面へと投げ出されるのを感じていた。だが、地面に顔が着く前に逞しい腕——恐らく円堂だろうが、腕を支え、引っ張り上げてくれた。霞む視界に、円堂がはっきりと映りこむ。

「白鳥!」

 声はやはり円堂だった。円堂くん……と彼を頭で認識はする。だが痺れたように(しびれたように)脳は思考をとめてしまい、ぼーっとするだけであった。声が出てこない。

「大丈夫か!?」

 円堂は、焦点の定まらない目をした蓮を何度も、何度も激しく揺らす。蓮は浅い呼吸を繰り返しながら、虚ろな(うつろな)黒い瞳を、ただ円堂に向けるだけであった。

「ふん、愚かな地球人どもめ」

 そこに聞き覚えのある声が響いた。
 
〜つづく〜
はい、いよいよ北海道編ラストスパート!痛みの描写って難しいですね……