二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.162 )
日時: 2010/09/13 20:14
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: 2lvkklET)
参照: 飛べた頃の記憶は、すり傷の様には消えてくれない

「ジェミニストーム!」

 円堂が吠える。
 いつのまにか、誰もいなかったグラウンドにジェミニストームの姿があった。人数も11人、顔ぶれも前と同じ。変わらず余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に前髪を掻きあげたり、欠伸をしたり。ひどいものは、試合前にもかかわらず、アニメの萌えキャラについて語り合っている者までいる。
 そこへレーゼが円堂の近くまで進み寄ってきた。

「逃げはしなかったか。称賛に値する行為だ」
「オレたちは逃げも隠れもしない!」

 つんと円堂は言い返した。
 それから蓮を地面に横たえると、夏未と春奈を呼んで、蓮をベンチに連れて行かせた。蓮は浅い呼吸を繰り返しながら、ぐったりとし、夏未と春奈に肩を預けている。

「強がりだな? 今度も我々の力にひれ伏すがいい」

 レーゼは蓮に視線を送りながら、挑発してくる。
 悔しくて円堂が言い返そうと前に出た時。白い手が円堂が前に出るのを制した。

「どうかな」

 吹雪はゆっくりとレーゼに歩み寄ると、にこやかに微笑みかける。

「この雷門イレブンは、特訓して強くなったんだ。キミたちにだって、負けないと思うよ」
「特訓だと。ふん、笑わせてくれるわ」

 鼻を鳴らし、レーゼは冷笑を浮かべた。

「人では、我ら宇宙人の力などに到底及ばぬわ。地球にはこんなことわざがあるだろう……高根の花」
「高根の花だって言うのは、とれない人の言い訳だ。とれる人だっているんだよ?」



 ボールが大きく跳躍し、ジェミニストームのゴール側に落ちる。ジェミニストームの選手は、とろうと走るが、風丸にボールを奪われた。
 雷門イレブンは、吹雪の言う通り大きくパワーアップできたのだ。ジェミニストームのスピードに追い付けているし、仲間内のパスもしっかりと通っている。
 朦朧(もうろう)とする意識の中、ベンチに座る蓮はしっかりと試合の成り行きを見据えていた。ぼうっとする黒い瞳に、空中に上がるサッカーボールが映り込む。
 胸の痛みこそ治まったが、今度は頭がくらくらする。熱でもあるかのように、脳から思考が奪われ、ただ見ることしかできない。それでも想いは、胸から絶えず込み上げてくる。
 ——僕も雷門イレブンなんだ。フィールドを駆け回って、みんなと一緒に戦いたい
 見ているだけなんて嫌なのだ。
 なんのために自分はキャラバンの旅に参加しているのか。そう、エイリア学園を倒すためだ。なのに自分一人だけベンチに座り、応援するだけになっているではないか。なにもできない悲しさが、蓮の心にのしかかってくる。
 戦いたい。早く痛みなんかなくなれ、と身体に命令してみるが、響くような痛みは断続的に脳を襲う。蓮は息を吐きながら、額を片手で押さえる。視界がまたうすぼんやりとし始めた。刹那、脳裏に鮮烈(せんれつ)な映像が浮かび上がってくる。まるで、映像だと忘れさせるような現実的なものだった。
 
 暑い、夏の日だった。
 目に痛いほど青い空。灼熱の太陽がアスファルトを温め、陽炎のように風景が揺れている。周囲には、蝉が狂ったように大合唱をしていて、耳に痛いほどだ。 どこかの住宅街だろうか。塀がどこまでも続き、多くの家が立ち並んでいる。
 
「うっ……いたいよぉ」

 幼い子供の情けない声が聞こえた。
 ふっと足元に視線をやると、サッカーボールを抱いた小さい蓮がアスファルトに、うつ伏せになって泣いていた。
 その顔はぐしゃぐしゃで、その目は涙ですっかり充血しきっている。青い短パンから覗く膝小僧が擦れていて、小さなすり傷になっていた。周りに砂利がくっついている。
 ああ、転んだのか……と”今”の蓮は思う。
 小学校4年生になるまで、自分は泣き虫だった。転べばなき、叩かれれば泣き、よく友にからかわれていた。本当に思い起こすと恥ずかしいくらいに気弱で、我ながら小学校時代は闇に葬り去りたい。でも、過去は確かにあったのだ。消し去ることなんてできない。
 蓮は呆然と幼い自分を見つめていた。
 と、幼い蓮がふっと顔を上げる。そこには塀があった。
 なんで塀に向かって顔を上げるんだ? と”今”の蓮はじげしげと幼い蓮を見る。
 それからあどけない笑顔を浮かべて、うんっと声を出す。声の方向には塀しかない。幼い蓮は、サッカーボールを横に押した。
 急に元気になった幼い自分は、手のひらを空に向けて立った。傍から見ると、誰かに向かって手を差し出し、その誰かに手を掴まれて立ったように見える。しかし、そこには誰もいない。
 立ち上がると、地面に落としたサッカーボールを両手で持ちながら、住宅街の奥にかけて行く。

「——! ——!」

 誰かの名を呼びながら。
 でも、よく聞き取れなかった。妙な雑音が混じり、幼い自分が呼ぶ人物の名がわからない。それでも、とても温かい気持ちになり、蓮は頬笑みを浮かべた。
 幼い蓮が遠ざかって行く中、風景が歪み始める。ぼんやりと幼い背中がかすんでいき、風景がチョコレートのように溶けていく。待ってと言っても、待ってくれない。
 やがて意識の片隅に甲高く長く尾を引く音がした。前半終了を告げる、ホイッスルの音。それが合図だったかのように、周りの風景が白恋中学校のグラウンドに戻った。

〜つづく〜
受験で更新ペースが落ちていて申し訳ありません;;
北海道編も終わりに近いのに、グダグダです……
なんか蓮の過去話で前半潰したのは、試合描写がめんどくさいからではりません!(実際それに近いんですがね^^;)