二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.209 )
- 日時: 2010/11/24 18:01
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: /fPzXfuw)
主人格——吹雪は、何が起きたのかわからないといったようにせわしく首を動かし、辺りの様子を見渡していた。蓮も急に”アツヤ”が”士郎”に戻ったことに驚きを隠せず、口をあんぐりと明けて吹雪を見つめることしかできなかった。
風が生み出す葉擦れの音が蓮と吹雪の間を駆け抜けて行った。身が震えるような冷たい風で蓮は一気に現実に引き戻される。きょろきょろとする吹雪を見つけ、蓮はおそるおそる吹雪に声をかけた。
「ふ、吹雪くん? 吹雪 士郎くんだよね?」
すると、吹雪は蓮の存在に気づいたらしくはっとした顔で振り返った。濃い緑の瞳には不思議がる色が宿っていたが、すぐに吹雪は何事もなかったかのように温和な笑みを浮かべる。
「そうだよ。何かのギャグかな? 白鳥くんは面白い人だね」
聞こえた声は澄んでいてよく通る、いつもの吹雪の声だった。さっきまでの”アツヤ”の声は、どすがきいたような低く恐ろしい声だったから、まるで別人のようだ。
(……さっきのこと覚えてないのか。やっぱり吹雪くんは二重人格なんだ)
心の中で呟き、改めて吹雪をまじまじとみた瞬間——鼻が急にむずむずしはじめ、蓮はそのまま両手で口を覆い、くしゃみをした。同時に身体が小刻みに震え始める。今更ながら、手足の感覚が麻痺していることに気付いた。同時に寒いことに気づいた。
長居をするつもりはなかったのだが、アツヤのせいですっかり身体が冷え切ってしまったらしい。さっきまで寒いことも気付かないほど、アツヤと対峙することに集中していたせいだろう、と蓮は考えた。そうかもしれないがアツヤにも責任はあるので、内心でアツヤに悪態をつき、鼻をすすった。吹雪が苦笑した。
「そろそろ寒くなってきたね。白鳥くん、長いこと北海道の夜の風に当たっちゃだめだよ。風邪をひいちゃうよ」
吹雪に諭され、蓮は困ったように笑った。
「北海道をなめてたかな〜じゃ、中に戻ろうか」
梯子を降りると、蓮は吹雪と共にキャラバンの中に戻った。少し肌寒いとはいえ、やはり車の中の方がだいぶ暖かい。蓮の体の震えが止まる。
円堂たちは眠りに落ちているらしく、静かな寝息があちこちから漏れていた。が、壁山だけは大きないびきをかいていて、隣に眠る栗松が少し寝苦しそうな顔をしている。その光景を見た二人は思わず微笑みあう。
「吹雪くん! また壁山くんいびきかいてる」
「あははは。本当だね」
チームメイトを起こさないよう、二人は小声で囁いた。だがすぐに吹雪の口から小さな欠伸が漏れた。吹雪の目がまどろみはじめ、今にも閉じてしまいそうだ。蓮は一番前の席にそっと入ると、
「吹雪くん、おやすみ」
小声で言った。吹雪もまた欠伸を噛み殺しながら、
「おやすみ、白鳥くん」
眠そうな声で答えると、自分の席に座った。
様子が気になった蓮はそっと吹雪の席に近づいてみる。吹雪は、染岡に寄り掛かり、両の手を膝の上できちんと組んで寝ている。寄り掛かられた染岡は、明らかに顔をしかめて眠っていた。
染岡を不憫(ふびん)に思った蓮は、吹雪の身体を横に引っ張って染岡から少し離すと、そのまま座席にもたれかからせた。吹雪は起きるどころか、能天気に穏やかな寝息を立てている。そのリスなんかの小動物を思わせる可愛い寝顔に、蓮はアツヤを思い出した。
(アツヤって誰なんだ——それに僕が、自分で自分の記憶を封じてるってどういう意味なんだよ)
「……アツヤ」
蓮は独りごつ。しかし、吹雪は眠りに落ちているだけだった。
〜つづく〜