二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.22 )
日時: 2010/10/08 17:12
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: 2lvkklET)

「え、どういうことだ?」

 首をかしげる円堂の横で、瞳子は薄いベージュの上着のポケットに手を突っ込むと、何かを取り出した。それは小さくたたみこまれた新聞記事。瞳子は、それを円堂の前に突き出す。

「円堂くん、この新聞記事を読んでみなさい」
「えーっと」

 記事を受け取った円堂は、元の大きさまで広げる。本当に小さな記事で、名刺ほどの大きさだった。

「……意識不明の白鳥 蓮くん(8)目覚める。小学生サッカー全国大会中に倒れ、意識不明の重体となっていた蓮くんが、今朝午前5時ごろ目覚めた。医師によると倒れた理由もわからず、まさに奇跡だという」

 音読を終えた円堂は、顔を上げ、蓮へと視線を移す。

「でも、これは子供の頃の話だろ? 今は、大きくなったし、関係ないんじゃないのか?」
「確かに、サッカー以外は僕、人よりできるつもりでいる。でもね、サッカーだけは」

 蓮は一度言葉を切った。そして小さく息を吸い、

「……動いているだけで、異常に疲れてしまうんだ。どんなに頑張っても、10分が限界なのさ。そんな僕が、君たちのチームに参加してごらん? 間違いなくお荷物になる」

 一気に思いを円堂と瞳子に吐き出した。

「そうね10分しかでられない人間は、確かに邪魔になるわ」
「監督の言うとおりです」

 腕を組んだまま、瞳子はしごくあっさりと言い放つ。言われた蓮も蓮で、当然だと言わんばかりの表情をしている。ただその瞳は少しもの悲しげであった。
 
「白鳥、サッカーは好きか?」

 黙っていた円堂が、おもむろに口を開いた。蓮は、作り笑いを浮かべて見せる。

「疲れるし、倒れるし。好きではない」

 しかし最後に、本当に小さな声でぼそっと囁いた。

「……でも、嫌いではないかな」

 その一言でやや落ち込み気味だった円堂の顔が、花が咲いたように華やぐ。

「今、嫌いじゃないって言ったよな!?」
「さあ、どうかな」
「だったら! 何も始まってないうちから諦めるな! これから試合に出れる時間を、一秒でも長くすればいいじゃないか!」

 拳(こぶし)を握り、力説する円堂を見て、蓮は視線を下に向ける。

「円堂くん……でも。長くなるまでみんなは——」
「オレたちを信じてくれよ! みんなでやれば……仲間がいれば、きっとできる」

 蓮がバネにはじかれたように顔を上げる。その表情にはもはや曇りはなくなっていた。

「……監督。僕が雷門に入ったら、どうなりますか?」

 瞳子と顔を合わさず、窓の外に視線を向けながら、蓮は言った。

「全国を旅してもらうことになるわ。日本には、FF(フットボールフロンティア(中学校のサッカー全国大会)のこと)に出ていない学校が数多く存在する。下手をすると、雷門より強い子がいるかもしれない」
「オレたちはそいつらを探して、仲間にする。そして、エイリア学園に勝てる地上最強のチームになるんだ!」

 不意に蓮がベッドから降り、自分の部屋の扉の方にゆっくりと歩き出した。逃げてしまうと思ったのか、円堂が慌てて蓮の後を追いかけてくる。


「待てよ、白鳥!」 
「……親に電話してきます。許可がもらえたら、一緒に行くよ。円堂くん」



「うん。……大丈夫だって。わかった。それじゃあ」

 親への電話が終わった蓮は、受話器を置く。とたん、円堂が大きな音を立てながら階段を転がるように下りて来た。

「どうだった!?」
「あっさりと承諾してくれた」
「よっしゃあ!」

 その言葉を聞いた円堂の顔は、また明るくなった。拳を宙につきだし、嬉しそうに声を張り上げる。その後を瞳子がゆっくりと降りてくる。はしゃぎまわる円堂を尻目に、蓮に向き直る。

「参加してくれるのね。だったら、旅の支度を今日中にしてちょうだい。明日の朝8時に雷門中学校のグラウンドに来てもらえるかしら?」
「わかりました」

 蓮が頷くと、瞳子は玄関の方へ進みだした。女性ものの靴を優雅に履くと、勝手に鍵をいじる。カチャ、と鍵が外れる音がした。

「私は準備があるから、そろそろ帰らせてもらうわ」
「はい。今日はいろいろとありがとうございました」
 
 そんなことを言いながら、瞳子はドアを押して出て行ってしまう。蓮は深々とお辞儀をしたが、瞳子が振り返ることはなかった。

 瞳子を見送った蓮は、朝食を食べた席に円堂と共に腰かけ、愚痴をこぼしていた。

「ああ……明日まで一人だぁ。息子が旅立つのに、誰も送ってくれないなんてさみしぎる」

 蓮は思いっきり机につっぷし、悔しそうに足を前後に揺らす。

「母ちゃんと父ちゃん、帰ってこないのか?」
「うん。研究者だからさ、滅多(めった)に帰ってこないんだ。今日は久しぶりに帰ってきてたけど、また仕事に行った」
「夕飯は一人で食べるのか?」
「うん。食材は買い込んであるから、自分で作って食べられるんだ。う〜一人だよ。ろんりーだよ」

 そこで円堂が、ふっと思いついたように口を開く。

「だったらオレの家にこないか? 一人で食べるより、みんなで食べる方が楽しいって」
「いきなりお邪魔して大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。そうときまったら、母ちゃんに電話しなきゃ! 電話、借りるぜ!」

 円堂はすくっと立ち上がると、電話をかけ始めた。


〜つづく〜