二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜! 人気投票ご協力願います! ( No.221 )
- 日時: 2010/12/30 14:26
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: Ua50T30Q)
- 参照: 蓮アフ、涼南的な年越しで学園〜長を少し変えた
12月31日、午後11時の遅く。もう早いもので、いよいよ新年を迎える時間となった。新年を迎える時間は誰にでも平等にあるように、ファイアードラゴンのメンバーにもそれはある。
シベリア気団がもたらした寒さは夜になるといっそう強くなる。だからかアフロディ、南雲、涼野、蓮の4人は暖房がよく効いているアフロディの部屋に集まっていた。何故か四人ともファイアードラゴンのユニフォーム姿だった。
南雲と涼野はベッドに座り、コンビニで買ってきたお菓子を食いあさっている。二人が袋をいじる乾いた音と、お菓子を噛み砕く音が交互に聞こえる。10分ほど前からずっと食べているので、ベッドの上は茶色や黄色のお菓子のかすだらけで、一種の模様のように見える。かすだらけなのはベッドだらけではなく、南雲と涼野もだ。口の周りにチョコレートやらポテトチップスの青ノリがついている。
「もうすぐ年明けだね、アフロディ」
部屋の窓枠にもたれかかっていた蓮が、すぐ右横の壁に寄り掛かっているアフロディに声をかける。アフロディはタバコをぽいすてした人をとがめるような視線を、お菓子にありつく二名に送っていたが、蓮に向き直ると柔らかい微笑を浮かべる。いわゆる神の頬笑み(ゴッドスマイル)である。なんかかっこいい気がしなくもないが、深い意味はない。
「ふふ、そうだね。蓮。キミたちと年越しできるなんて、去年は思ってもみなかったよ」
「僕もだよ」
笑い返した蓮は急に目を細め、ベッドに座る二名を蔑すんだ眼で見やる。
「……年越し前に菓子食ってる鈍(なまくら)な人間が二人もいるなんて、思ってもみなかったな」
心底呆れた声で蓮が言う。額をこめかみに当て、ため息をつく。
「晴矢、風介。どんだけ食えば気が済むんだよ」
非難された二名のうち、南雲は顔を上げて蓮を一瞥し、自分たちがやっていることは当然だと言わんばかりの顔で、蓮と同じく呆れかえったような顔をしているアフロディに、
「こんな夜中まで起きてると腹減るんだよ。なあ、風……」
同意を求めようと涼野の方を振り向いた南雲は、風介と呼ぶことを止めてしまった。自分が食べようと思って買ったお菓子——コイケヤのポテトチップス(青のり味)の袋を、涼野がさっさと開けて、一人で食べ始めていたからである。南雲の金色の瞳にみるみるうちに怒りの色が宿り、南雲は涼野に向かって吠える。
「おい! それはオレのもんだ!」
まるで南雲が眼中にないかのように、一人でせっせとポテトチップスを食べていた涼野が、うるさそうに視線を上げる。口にポテトチップスを持っていき、がりっと噛み砕く音が聞こえた。
「仕方がない。少し分けてやろう」
「やろうって偉そうに言うな」
上から見下すような態度に南雲は腹が立ったらしい。腕を組んで、涼野を睨みつける。しかし涼野はあっさりと南雲から視線を逸らし、蓮とアフロディにポテトチップスの袋を持った手を伸ばす。
「蓮とアフロディもどうだ?」
「あ、じゃあいただきま〜す」
「少しだけいただくよ」
壁際に立っていたアフロディが涼野からポテトチップスの袋を受け取ると、窓際に座る蓮の横に腰をおろし、二人で意気揚々と分けあい始める。その間、もちろん南雲は無視されていた。
南雲の金の瞳に紅蓮の炎にも似た輝きがやどり、どんどん強くなっていくのにさほど時間は要さなかった。南雲は両手で涼野の顔を掴むと、無理やり自分の方を向くように動かす。
「オレを無視するな」
獣の威嚇音にも聞こえる低い声で南雲が注意すると、涼野ははっきりとわかるほど顔をしかめた。
「うるさいぞ晴矢。キミに渡す分はもうない」
「あんだと!?」
怒号を発した南雲は、涼野の顔から手を離すと、猛獣のように歯を見せ、罵詈雑言(ばりぞうごん)を涼野に浴びせた。言われた涼野もカチンと来たらしく、顔に深い皺をよせ、珍しく吠える。目には目をと言わんばかりに似たような言葉を並べ、言い返す。低レベルな悶着がまた始まってしまった。
南雲と涼野のにらみ合いが怖しく、アフロディは後ずさる様に部屋の隅に行く。だが、蓮は違った。
一触即発漂う空気の二人に無言でゆっくりと近づき、途中ベッドに置かれている枕を持ち上げた。巻かれていた白いタオルを近くに捨てる。おもむろに腕を振り上げ、直後持っていた枕で二人の頭を次々と殴って行く。枕の中身が擦れ合う音がした。叩かれた南雲と涼野は少しつんのめり倒れかけた。
不意打ちを食らった南雲と涼野は、ほとんど同時に立ちあがり、殴った人間に向かって牙をむく。全くいいコンビである。
「何をするのだ蓮!」
「痛いじゃねーか!」
蓮がとった行為は火に油を注ぐ行為で、怒りを何十倍にも膨らませた南雲と涼野が蓮に詰め寄る結果となってしまった。怒り心頭の二人は、顔がほのかに上気するほど頬を真っ赤にし、今にも蓮に躍りかかろうとじりじりと距離を近づける。しかし、
「ごちゃごちゃうるさい!」
二人の剣幕をはるかに凌駕する迫力で、蓮が南雲と涼野を叱り飛ばした。南雲と涼野はびくっと身を震わせる。アフロディが部屋の隅から、引きつった笑みで蓮を眺めていた。
「年明け前に喧嘩するな! 喧嘩するなら外で年を越してこい!」
立場は逆転、烈火のごとく激怒する蓮を前に南雲と涼野は身をすくめることしかできない。怒られる子供のようにしゅんとし、頭を下げている。
「分かったら返事をしろ」
逆らったら殺される……と思わせるオーラを放つ蓮が、笑顔で命令をする。何故か手に持っていたまくらを両手で軽く握ると、まくらがきしむ嫌な音がした。
南雲と涼野は決まりが悪そうにお互いを見やると、蓮に土下座をする形で頭を下げる。いつもと立場が逆転している。
「……わかったよ」
「……わかった」
「と、年明けと言えばボクは今年の最後に言いたい言葉があるんだよ」
アフロディが恐怖一色に染まった空気を払しょくするように口を開き、蓮がいつもの穏やかなオーラを発し始めた。南雲と涼野は、圧迫感から解放されて安堵のため息をつく。
アフロディの隣に再度腰かけた蓮は、
「『っふ、ボクは神だから来年も美しくあるよ』」
アフロディの声音を真似しながら、後ろ髪を払って見せた。アフロディは、小さく笑い声を上げ首を振る。
「違うよ。ボクが言いたい言葉は」
隣に座る蓮をしっかりと見据え、
「ボクのベストパートナーはキミだよ、蓮」
「いつお前のベストパートナーになった!?」
蓮は速攻で訂正に入る。その時だった。
ごーんと鐘を撃つ鈍い音が窓の向こうから微かに聞こえた。一度始まった音は夜の闇を裂きながら断続的になり、新年を迎えたことを知らせていく。