二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜☆番外編更新中 ( No.256 )
- 日時: 2011/02/14 15:27
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: Ua50T30Q)
- 参照: もうすぐ本編再開します
しかし矢庭に、幼い南雲と涼野は、顔を綻ばせた。それを見た幼い蓮は、黒い瞳をまだ涙で濡らしながら、柔らかい笑みを浮かべる二人を、戸惑いがちに見る。
怯える小動物のように身体を少し丸め、身体を少し震わせている様子は、完全に気弱な性質の哀れだった。
そもそも幼い蓮が泣きじゃくっているのも、南雲と涼野と喧嘩したのもあるが、本来の理由は瞳子にこっぴどく叱られたからである。
お日様園に戻った蓮は、すぐさま瞳子に捕まり、相当長い時間お説教された。悪いのは蓮だけではないが、瞳子はとりあえず蓮を怒ったのだろう。
当時の瞳子は、お日様園の子供にとって頼れる姉であると同時に、恐怖の魔王のような存在だった。魔王に叱られれば、抵抗できないほど蓮は気が弱い。つまりは一方的に瞳子が怒鳴り、幼い蓮は頭を下げる一方と言う構図に必然的になるわけだ。最後には、晴矢と風介に謝ってきなさい、と命令され、泣く泣く外に二人を探しに出た。
ものの、二人は見つからず途方に暮れ、ああして大泣きしていたと言う事実があった。
あまりにも小さな自分が情けなさすぎて、恐ろしい現実を拒みたくて、蓮はすさまじいレベルの精神的ダメージを受けていた。
思考の回路は完全にシャットダウンされ、口をあんぐりと開けたまま、彫像のように凍りついている。何も感じず、何も聞こえていないようだ。目の前で三人の仲直りが進んでいると言うのに、声もかけない。
「なくな、れん」
怯える幼い蓮の肩に、幼い涼野が小さな手を置き、見据えた。
その顔に悲しみや怒りの色はなく、いつものような無表情。しかし、口角が僅かに上がっている。
幼い涼野の横では、幼い南雲が白い歯を見せて笑い、
「おとこがなくなんて、なさけないぞ」
茶化すように言って、ひとさし指で幼い蓮の頬をつっついた。二人の穏やかな態度に、幼い蓮は若干困ったような顔を作る。
が、すぐに幼い蓮は服の袖で涙を拭うと、ぷーっと左右の頬を膨らませ、不機嫌そうな声で幼い南雲に言い返す。
「ないてないもん」
すると幼い南雲は意地の悪い笑みを作り、幼い蓮を指差して、嘲笑う。
「ほんとおまえって、おんなのこみたいだな!」
「ぼくはおとこだもんっ!」
幼い蓮は、怒って両腕を上げながら、高い声で叫ぶ。その声音に恐怖を与えられるような凄みはなく、むしろ可愛く思える——子犬が大型犬に吠えるようなものだった。
その態度を幼い南雲は楽しんでいるらしい。幼い蓮を挑発するような台詞を吐いて逃げ出した。負けず嫌いな幼い蓮はすぐさま挑発に乗り、幼い南雲の後を追いかける。固まっている蓮の回りを時計回りで走り回り、追いかけっこをする。
その様子を幼い涼野は、冷ややかな視線で見送っていた。
「はるやー! まてー!」
「やーだな!」
幼い蓮が待てと愛くるしい声を張り上げながら追いかけ、幼い南雲は楽しそうに振り向きながら、べーと舌を出す。悔しがる幼い蓮が一層大きな声を出す。
小さい二人の間で飛び交うはしゃぎ声や笑いあう声は、先ほどまでの喧嘩が嘘のように思わせるものだ。
それを傍観していて、追いかけっこに参加したくなったのだろう。今までぼうと突っ立っていた、幼い涼野が急に走り出す。
幼い南雲の前に立ち塞がり、進路をふさいだ。進路を塞がれた幼い南雲は立ち尽くし、後ろから追いかけてきた幼い蓮が彼の背中を叩いた。
「やったー! ぼくのかちだぁ!」
幼い蓮は嬉しそうにぴょんぴょんとジャンプする。馬鹿にされたことが悔しくて追いかけていたはずなのに、いつのまにか鬼ごっこになっていたらしい。
勝者の幼い蓮ははしゃいで幼い涼野に駆け寄り、敗者の幼い南雲は嫌そうな顔で幼い涼野に噛み付く。
「ふうすけ! おまえのせいでれんにまけたじゃねーか!」
「きみが、れんをからかうからいけないのだ」
幼い涼野は小馬鹿にするように鼻を鳴らした。すると幼い三人はますますうるさくなる。笑い声や怒鳴り声がどんどん大きくなる。
「ん」
「れん、ずるいぞ!」
「はるやがわるいんだよ!」
三人がはしゃぐ声で、蓮はようやく我に返った。
何が起こったのかわからないらしく、目を瞬かせる。意識に再起動がかかった頃、幼い自分が、幼い南雲と軽くもめている光景を目の当たりにし、仲直りしたらしいことを悟る。
「あ、仲直りできたんだ」
蓮がポツリと言葉を漏らすと、幼い三人は一斉に顔を上げる。
今まで蓮がいることに気づかなかったらしい幼い蓮は、強張った顔で成長した蓮を見上げた。
この頃の蓮は人見知りが激しく、初対面の人間には警戒気味な態度を取る。慣れれば嘘のように傍若無人に振舞うのだが。
見上げた自分の弱気な態度にすっかりなれてしまった蓮は、“流す”と言う技術を身につけた。目眩を起こすことなく、幼い三人の目線に合わせるようかがむ。
幼い南雲がサッカーボールを捨てたらしく、足元にサッカーボールが転がっているのに気づき、拾った。
「よかった。ついてきた甲斐(かい)があったよ」
蓮が微笑むと、幼い南雲は胸を張り、幼い涼野と幼い蓮の肩に親しげに腕を回し、抱き込むように自分の近くに引き寄せる。幼い涼野も幼い蓮も驚いたように瞠目し、幼い南雲にされるがままになっていた。
「あったりめーだろ! ふうすけとれんがいないとサッカーたのしくないんだよ」
幼い南雲が断言し、幼い涼野が得意げな顔をした。
「わたしたちはさいきょうなのだ」
「はるやもふうすけもだいすき!」
幼い蓮が嬉々とした表情で言う。それから不思議そうな目で蓮を見やる。
「ところで、おにいちゃんだぁれ?」
「やまだ たろうおにいちゃん。うちゅうじんらしいぞ」
蓮が改めて自己紹介しようとする前に、幼い涼野が紹介してくれた。が、余計な一言がくっついている。 それを聞いた幼い蓮は、うちゅうじん!? と幽霊でも見たかのような顔で、また身体をわなわなと震わせながら蓮を見上げる。どうも本気にしているようだ。
「は、はるやとふうすけ、たべちゃだめだよ!」
「いやね、僕は瞳子さんの友達だよ。生物学的にも人間だから」
蓮が苦笑いを零しながら話すと、幼い蓮は安心したように笑顔を見せる。
「そっか! たろうおにいちゃんは、ねえさんのおともだちなんだね!」
「う、うん」
蓮は戸惑いがちに頷いた。
“太郎”と呼ばれるのは何やら複雑で、せっかくなら“蓮”お兄さんと呼ばれたかったなぁと内心後悔する。と、その時蓮はあることが気になった。
〜つづく〜