二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜☆番外編更新中 ( No.269 )
- 日時: 2011/02/19 10:57
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: Ua50T30Q)
- 参照: バレンタインも書くので長くなりますなう
たいやきを食べ終り、手持ち無沙汰(てもちぶさた)となった蓮は、何気なく自分の足元に視線を落とした。そこには、サッカーボールが置いてある。サッカーボールを見た途端、蓮は何も考えずに立ち上がっていた。たいやきが入っていた紙袋をベンチに置くと、サッカーボールを持ち上げ、軽く放り投げた。頭で小さくボールを突き、ひざ上に落とすと、そのままリフティングを始める。なかなかきれいな姿勢で、軸がぶれていないリフティングだった。単調なリズムで。サッカーボールは軽やかな音を立てながら、流れるように宙に舞う。リフテイングに夢中になっている蓮は気づいていないが、蓮の後ろでは、幼い南雲たちが口をあんぐりと開けている。食い入るように、蓮のリフテイングを見つめていた。
「おっと」
幼い南雲たちの視線に気づき、集中力をわずかに切らした瞬間。蓮は、ボールを蹴り損ねた。サッカーボールは蓮の膝から少し離れた地点に落下し、バウンドして転がり、止まった。すぐさま三人はベンチから降りると、ボールを拾っている蓮の足元に駆け寄った。幼い蓮は、尊敬の眼差しで蓮を見上げ、幼い南雲と涼野は、意外そうな顔で蓮を見る。
「たろうおにいちゃんサッカーじょうずだね!」
「おにいちゃんはすごい」
「おまえ、いがいとサッカーうまいんだな」
幼い蓮と涼野は、素直に感嘆しているものの、幼い南雲は余計な一言が付加されていた。どうも上から見られているような言い方に不快感を覚える蓮であったが、相手が子供あることも考慮して、笑顔で答える。
「これでもサッカー部員だからね」
「じゃあこれからサッカーやろうぜっ!」
幼い南雲が高らかに宣言し、4人は一斉に拳を宙に突き上げた。
サッカーの技量はあきらかに蓮が一番優れていた。幼い三人はまだサッカーを始めたばかりらしく、リフティングもままならないし、シュートも、GKでもない蓮がとれる弱いものである。ついでに言うと、パスも蓮があっさりカットできるもの——とはいえ、蓮はパスカットは得意分野である上、10年近くやっていてカットできない方がおかしいのだが。蓮にボールをとられるたび、幼い三人は最初は悔しそうな声を上げ、地団太を踏んだ。しかし、次第にサッカーが楽しくなってきたのかひっきりなしに笑い声を上げるようになる。前に円堂がサッカーが好きな奴に悪い奴はいない、と言ったのを蓮は思い出した。確かに、サッカーに熱中する幼い三人はとても楽しそうで、蓮もまた心地よい高揚感(こうようかん)を感じていた。サッカーを通じて、幼い3人の内面を垣間見えた気もした。
蓮が幼い三人を抜くドリブルを披露したとき、公園にある人物が入ってきた。その人物を見るなり、蓮は駆け出し、一方的にまくし立てた。
「目金くん! 今までどこ行ってたんだ!」
「す、すみません」
目金は平謝りし、手に掴んでいた箱を見せる。それを見た瞬間、蓮が眉根を寄せる。
箱の中身は、ちょうどこの頃流行っていたあるアニメのキャラクターのフィギュアだった。金髪のツインテールにセーラー服のような服。赤いブーツ。非常に精巧な造りで、アニメからポンと飛び出てきたかのようだ。
「この美少女フィギュアを買いたかったんですよ〜」
頬を染め、恍惚(こうこつ)の表情を浮かべる目金の声は上擦っていた。鼻からも、赤い水が垂れていた。蓮は珍しく蔑むような視線を目金に送っていたが、矢庭(やにわ)に笑顔を作る。ただし幼い南雲たちに見せた優しいものではなく、血管が浮かんでいるものだが。
「そのために僕を利用したわけか」
顔は笑っていても、声のトーンは恐ろしく沈み、怒気を孕んでいた。殺気すら感じさせる、ひどく恐ろしい声だった。目金はひーっと半泣きになりながら震え上がり、怖い笑みを浮かべながら、間を詰めてくる蓮からじりじりと後ずさる。顔に汗がどんどん張り付く中、愛想笑いを浮かべ、蓮の興味を他へと移そうと話題を切り替える。
「と、ところで白鳥くん。あなたもサッカーが上手い男には会えましたか?」
その言葉を聞いた途端、蓮の足が止まった。今思い出したような顔つきになり、自虐的な笑みを浮かべ、寂しげに首を振る。
「僕の勘違いだったみたい」
「さあ、帰りますか!」
元の世界に帰りたい一心の蓮は、元気よく声を張り上げ、怯えて身をすくませる目金の肩を叩いた。なに怯えてんの? と目金をちゃかす辺り、自分が怯えさせたことを全く感じ取っていないらしい。蓮がくるりと三人に背を向けると、幼い蓮は、え〜っと非難の声を上げた。
「たろうおにいちゃん、もうかえっちゃうの?」
「れん、わたしたちもかえらないとねえさんにおこられるぞ」
幼い蓮が残念そうな顔で聞いて、幼い涼野がなだめるように言った。『たろうおにいちゃん』と聞いて目金が噴出しかけるのを、蓮は横目で睨んで黙らせた。それから、幼い三人の前へと歩み寄り、同じ目線になるようしゃがむ。
「そう悲しい顔しないでよ」
優しく微笑みながら、蓮は幼い三人の頭を順番に頭をさすった。最後に撫でられた幼い涼野が顔を上げ、まっすぐに蓮の瞳を見つめてきた。
「またあえるか?」
「Need not to know」
反射的に蓮の唇が動き、英語を紡ぐ。その瞬間、蓮の脳裏に今日のワンシーンが鮮やかに再構築された。最後、自分を見た男は、黒髪のショートに黒曜石のような黒目。青と黄が鮮やかなジャージを着ていた——そう、求めていたのは今の己自身だった。そのことに気づいた瞬間、蓮はくすっと笑い、立ち上がった。そして周りを明るくする笑みを見せ、幼い3人に呼びかける。
「何年かすればまた会えるからさ!」
英語がわからないのか幼い三人はポカンとした表情で立ち尽くしていた。別れることにぎゅっと胸を締め付けられるような寂しさを覚えたが、それを振り払うように蓮は、幼い3人に背を向けて大またで公園の出口に歩き出した。未来に、今の南雲と涼野の元へ帰るために。
「帰り方教えて」
戸惑いながら並んで歩いてくる目金に、蓮は落ち着いた声音で問うた。すると目金は立ち止まり、眼鏡のつるを持ち上げ、
「白鳥くん、立ち止まって目を閉じて下さい」
目金より数歩先、公園の出口がある車止めの前辺りで、蓮は言われたとおりに止まる。直後、世界が無音となった。風の音、人の話し声、全てが聞こえなくなった。目を開けようとしても、目に何かに押さえつけられたように開かなかった。ふわふわと無重力の宇宙に放り出されたように、身体が持ち上がっていく奇妙な感覚に襲われる。と、身体が持ち上がるような感覚が消え、不意に冷たい感触が頬に当たった。
〜つづく〜