二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜☆番外編更新中 ( No.271 )
日時: 2011/02/19 12:22
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: Ua50T30Q)


「わっ」

 小さな悲鳴を上げながら、蓮は目を開けた。
いつのまにか太陽の位置が、真上からずいぶん右の方に傾いていた。色づいた木の葉の間から零れる木漏れ日(こもれび)が眩しく、蓮は思わず目を細める。どうやらどこかに横になっているらしい。ここがどこか確かめようと、辺りに視線を彷徨わせた時、蓮の黒い瞳に覗き込んでくる涼野の顔が映りこんだ。

「ふ、風介!?」

 涼野の名を呼びながら、蓮は弾かれたように起き上がり——自分がベンチで横になっていたことを悟る。
辺りを見渡すと、塗装のはげた遊具の数々。公園の外では、帰宅途中の小学生が元気に走っている。最後に自分の脇に座る涼野を見た。今の自分がよく知る見慣れた涼野風介だった。今日もまた、見慣れた私服に身を包み、買ってきたらしいアイスのビニール袋を向いている。今感じた冷たい感触はこのアイスだろう。

「蓮。キミは風邪を引きたいのか?」

 棒つきのチョコレートバーを口に加えながら、涼野が聞いた。まだ状況を整理し切れていない蓮は、ますます困惑するばかりだ。

「ふえ?」

 当惑する蓮の顔を見て、涼野はアイスを口から離し、呆れたようにため息をこぼした。

「こんな寒い時期にベンチに眠るなど……自殺行為もいいところだ。風邪を引いたらどうする」

 冷たい口調だが蓮を気遣う内容である涼野の言葉を聞き、蓮はようやく頭が回り始める。アイス食べているキミの方が自殺行為だよ、と心内で抗議しておき、そ知らぬふりを装って、涼野に尋ねる。

「風介、僕、何してた?」
「私がこの公園に来たときは、蓮は既にこのベンチで眠っていたぞ」

 涼野がアイスを口の中で溶かしていくのを見ながら、どうやら『現在』に戻ってきたらしいことを蓮は悟る。その証拠にベンチの側には、消えかかった魔方陣がある。戻れたことに嬉しさを覚えながらも、同時に様々な雑念が脳内を占拠し始める。

「あれ、目金くんと都市伝説が本当か実験して……どうやって戻ってきたんだ。それに目金くんはどこに——もう、なんで美少女フィギュアなんか……」

 思考が迷走し、ぶつぶつと独りごつ蓮の横で、涼野は涼しい顔でアイスを食べ終える。アイスの棒を破ったビニールに戻し、すぐ脇にあるゴミ箱に捨てた。そして難しい顔をする蓮に、淡い笑みを向けた。

「その顔だと、成功したようだな」
「色々あったけど楽しかったよ。でも、やっぱり今が一番だ」

 蓮は苦笑し、断言する。

「こうして“今”の風介や晴矢と話している時間が一番楽しいから、さ」
「ところでキミは、ブランコは立って漕ぐのが好きらしいな」
「空に飛べる気がするからだよ。一番高いところまで行ったら、鳥のように飛べる気がするから!」

 蓮がそう言って、涼野は予想していた通りと言わんばかりに唇の両端を持ちあげ、ポツリと納得したように呟く。その顔は、晴れ晴れとしたものだった。

「……やはりそうか」

 “今”の涼野もまた、蓮と同じくサッカーが上手い男を心の中で求めていたのだろう。そして蓮と同じようにわかった。そのことを頭で理解しつつも、蓮はわざと問い返してみた。

「なんで?」
「キミに教える義務はない」

 からかうように涼野に返され、蓮はあっそう……と笑った。その時、公園の入り口から南雲がこちらに歩いてくるのが見えた。涼野と同じく、蓮が知る南雲晴矢その人。今日もまたジャージの上のような上着に黄色みがかかった黄緑の短パン。二人とも私服なのに、一人だけ雷門のジャージを着ているのが恥ずかしいと蓮が思っていると、南雲は蓮の右隣に腰掛けた。
「おう、蓮。あほ面こいて寝ていやがったが、ようやく起きたか」

 にっといたずらめいた笑みを浮かべる南雲に対し、蓮はすぐさま反論する。

「あ、あほ面とはなんだ!」
「なあ、蓮」

 南雲は蓮の反応を無視し、語りかける。

「昔、この公園で会った男を覚えているか?」
「ああ、ちょうどこのくらいの時期だったね」
「このくらいの時期になると、いつもそいつを思い出すんだ。でよ、最後にあいつ『何年かすれば会える』とか言ってただろ?」
「うん」
「それって今年のことだったんだな。しかもあいつの所属は雷門だ」
「会えたんだ」
「まあな」

〜つづく〜