二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜☆番外編更新中 ( No.287 )
日時: 2011/02/22 18:14
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: Ua50T30Q)
参照: バレンタイン前編で〜す


「誰?」

 鬼のような笑顔を浮かべながら、蓮はチナンを問いただす。対するチナンは今までと違い、落ち着き払って蓮の問いに答える。

「それは言えないぜ。褒美の、那須アルパカ牧場にご在住の、アルパカ先生の生プロマイド&アルパカ先生のレアグッズがもらえなくちっまう」

 その言葉を聞いた蓮はむっつりと押し黙る。
“アルパカ”と言う弱点を攻められれば、よくも悪くも暴走するのがチナンと言う男だ。どうやら犯人はそのことをよく知るファイアードラゴン内の誰かだ、と予想を蓮は立てていた。
チナンからもう少し情報を引き出せないかと、蓮は欲張ってチナンに鎌をかけるが、それ以上は何も引き出せなかった。

「おまえアルパカのために安請け合いしたのか」

 蓮は予想以上に口が堅いチナンを苛立ち気味に睨みながら言った。するとチナンはいきり立ち、一方的にまくしたてる。

「アルパカではない! アルパカ“先生”だ! 言ってみろ!」
「……アルパカ先生」

 だいたいアルパカに“先生”なんて敬称つけんのお前くらいだろ、と苦々しく思いながら、蓮は顔をしかめてチナンの言う通りにした。それを見たチナンは、満足そうに頷く。

「よし、いいぞ。話戻すけど、頼むから入れ替わってくれ! 明日の練習はジンソン監督に頼んで、俺たち二人とも休みにしてあるし、俺は『白鳥』として、那須アルパカ牧場に出かけるから、見比べられる心配はない」
「わかったよ」

 必死に懇願してくるチナンに蓮はとうとう折れた。

「そこまで言うなら、受けてやる」
「お〜マジか!」
「なんかよくわからないけど、僕がチナンのふりをすればいいんだね?」
「おう!」

 幸運を祈るとでも言うようにチナンはぐっと親指を立てた。

 そして迎えた2月14日。その日の朝、蓮は約束どおりチナンに扮していた。チナンに扮すると言っても、チナン愛用の緑のニット帽を頭に被っただけ。朝はジャージ姿。ジャージはみんな同じだから変える必要がない、とチナンが言い張るため、蓮は自分のジャージを着たままチナンのニット帽を頭に被っていた。蓮とチナンの髪の長さがほぼ同じであるため、後姿は非常に酷似している。が、正面から見ればチナンの格好をした蓮であることは誰が見てもわかってしまうような、とても似たとはいえないものだった。
 
そんなチナンに扮した蓮は、廊下の突き当たりの窓の前に立っていた。窓からグランドを覗こうと思ったのだが、今日は雪が降っていて窓には水滴がびっちりと張り付いている。ジャージを着込んでいても少し肌寒い。
チナン(蓮)は手で窓についた水滴を払うと、窓に映った自分の姿を見た。自分でも笑ってしまうくらいチナンに似ていない。窓の中の『チナン』も苦笑いしていた。

——アフロディたちにばれるだろうなぁ

ぼんやりとそんなことを考えていたとき、チナン(蓮)は自分の肩が叩かれるのを感じた。びっくりして顧みると、ばれてはいけない人物の一人——南雲がそこに立っていた。

「や、よぉ! はる……南雲!」

 不意打ちにどぎまぎしたチナン(蓮)は、やぁ晴矢と言いかけるのを必死に訂正して、何とかチナンのふりをした。かなりおかしい言動だったが、南雲は気にする素振りも見せずに、チナン(蓮)の隣の壁に寄りかかり、適当な挨拶をする。

「よぉ、チナン」
「今日は、バレンタインだね……だぜ! 僕は……俺はチロルチョコを用意したけど、南雲は?」

 南雲の態度に安堵の息を漏らしたチナン(蓮)は、親しげなチナンになりきり、明るい口調で南雲に話しかける。まだなりきれていないのか、時折『蓮』の口調に戻りかかっている。

「お前には安いチョコで十分だろ。ほらよ!」

 よほど鈍いのか、南雲は本物のチナンと思い込んでいるらしい。ポケットから何かを取り出すと、チナン(蓮)に向けて放り投げた。きれいな放物線を描いてとんできたそれを、チナン(蓮)は片手で掴んだ。拳を広げてみると、『ブラックサンダー』と、中には、印刷された袋。
 
「少しは高いチョコレートを買って来いよ」
「う〜ん、チナンは安いもので済ませるのが好きだからね」

 チナン(蓮)がうっかり地に戻ってしまい、南雲が目を瞬かせる。何やら不審げな空気が二人の間に漂い、チナン(蓮)は適当なごまかしを言って場を取り繕う。

「あ、いや! こっちの話だぜ!」
「そうか」

 南雲は大して気にも留めなかったようだ。
 平静を装いつつも、心内でチナン(蓮)は大きなため息をついていた。

「でもな、ジンソン監督にはきちんとしたの渡せよ」
「ジンソン監督にはチョコボールをやったぜ!」

 南雲に注意され、チナン(蓮)は自信満々に言った。
 ちなみにこれは本当のことで、チナンは昨晩ジンソン監督にチョコボールをプレゼントしたらしい。チナン本人の自己申告によると、相当受けはよかったらしい。

「監督にも容赦ねえなぁ」
「何言ってんだ! 金のエンゼルつきなんだ……ぞ! そこらの菓子より高級だぞ!」
「マジかよ。でも、手作りの方が高いんじゃねーのか?」

 驚きと呆れが混ざり合ったような表情で、南雲がぽつりと呟く。
 そんな言葉を聞き、チナン(蓮)はわずかににやりと笑い、無邪気を装って尋ねる。

「ところでよ、南雲は手作りとかしないのか?」

 その問いの後、僅かだが南雲の顔に動揺が走る。明らかに慌てながら、チナン(蓮)に向かって、つんけんな口調で返す。


「う、うっせぇ!」
「あ〜その顔はしたんだね……だな!」

 意地悪い笑みを浮かべながら、チナン(蓮)はからかうように言い切った。南雲は顔をしかめて無愛想に黙っていたが、好奇心で輝くチナン(蓮)の瞳に観念したらしく、

「ああ、作ったよ」

 ため息と共に言葉を吐き出した。すぐにチナン(蓮)は、納得したように首を何度も縦に振りながら、

「そうか愛する涼野に作ったのか」
「ちげーよ」

 南雲は間髪いれずに否定した。しっかりとチナン(蓮)の瞳を見つめ、

「いいかチナン! オレが渡す相手は……相手は……」

〜つづく〜