二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜参照が5000突破です ( No.298 )
日時: 2011/02/28 15:01
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)
参照: http://blogs.yahoo.co.jp/rmnjr654/28801245.html

「ところで、なんで雪の中、外に出たりしたの?」

 蓮が紅茶を啜ってから、呆れたように尋ねると、アフロディはマグカップを机に置いてにこりと微笑む。顔色もよく、身体は震えなくなっていた。

「キミの様子が気になったからだよ。ところで、ボクが隠したもの……見つけてくれたかい?」
「すぐに見つかった。ジャージのポケットに入っていれば、誰だってわかるよ」

 当然そうに答えながら、蓮は脳裏に昨晩の夕食のときを思い出す。
 その日の夕食時、妙にアフロディの機嫌がよかった。鼻歌でも出てきそうなほどニコニコと笑い、しきりに時計を気にしていた。
 しばらくして、チャンスゥに呼び出された蓮は、ジャージを椅子に引っ掛けて出て行った。そして帰ってきたら、ジャージがかなり重くなっていた。

「それで」

 アフロディが楽しそうに口を開く。

「なに?」
「ボクが、美しさを追求して作り上げた作品の感想を聞きたいな」

 その言葉を聞いた途端、蓮の顔が強張った。南雲と涼野に渡された紙袋が置かれた机に近づくと、その上にあった洒落た紙で包装された箱を取り上げる。

「……まだ、その。食べてない、かな」

 蓮が遠慮がちに言って、アフロディは目を丸くする。

「バレンタインまで待ってくれていたのか」

 蓮は首を横に振る。

「いや、キミのポイズンクッキングが怖いだけだ。チナンが、前にキミの料理を食べて3日間生死をさ迷ったことがあるだろう」
「あれはボクの料理が素晴らしすぎて、気を失ってしまったんだよ」

 アフロディが後ろ髪を払って断言した。これは本人の勘違いである。
 何週間ほど前か、チナンがアフロデのが作った料理を食べて、3日ほど寝込んだことがある。蓮がチナンを見舞いに行った時、『あれは……人がくえるもんじゃねぇ』と息も絶え絶えに言っていたのをはっきりと覚えている。そう、だからこそ食べれないのだ。

「蓮」

 アフロディは蓮に呼びかけると、両手で毛布の端を掴む。体育座りの上から毛布を引っ張り、全身を毛布ですっぽりと覆うと、身体を少し丸めた。

「確かに、ボクの料理が素晴らしいから、気絶するのが怖いのはわかる。けれど、食べないのは、失礼な行為だと思わないかい?」

 少しずれているが、アフロディの言いたいことが蓮はよくわかった。いくら料理下手でも、アフロディだって一生懸命作ったのだろう。それを食べずに捨てられてしまう行為は、相手を嫌いだと言うようなものだ。
 黙って箱と睨みあっている蓮を見て、アフロディは悲しげに目を伏せる。

「ボクは蓮が作った料理を食べなかったことはないのに、キミはボクの料理を食べてくれないんだね」

 アフロディが寂しそうに語るのを聞き、蓮は申し訳なそうな顔をして、アフロディを見た。するとアフロディは急に柔らかい笑みを浮かべる。

「蓮はギリシア神話が好きかい?」
「ケルト神話とかなら好きだけど」
「ギリシア神話によると、白鳥はアフロディーテの聖なる動物なんだ」
「つまり、なに」
「ボクの命令は絶対なんだよ」

 蓮はしばらく考え込むように俯いた後、唐突に英語を発音した。

「TO APHRODITE(アフロディーテ様)」

 その言葉にアフロディは瞠目したが、蓮は気にせずに流暢(りゅうちょう)な英語でアフロディに語り続ける。アフロディは何も言わずに黙って聞いていた。

「Goddess revered, to thee I pray:My soul-subduing griefs allay(崇拝する女神様、あなたへ私は祈ります。私の心を覆いつくす苦悩を鎮めてください)」

 長い言葉を一度切ると、アフロディに微笑みかける。そして息を吸い、ゆっくりと一音一音がアフロディに聞こえるよう、はっきりと丁寧に発音する。

「In the smile of you(あなたのその微笑みで)」

 蓮が言い切ったとき、アフロディは笑って見せた。神の微笑とも表現したくなる、美しくも静かな笑み。蓮は唇の口角をわずかにあげ、

「そこまでやられちゃ仕方ないなぁ」

 母国語に戻して、困ったように笑う。持っていた箱の包み紙を破くと、中に入っていた箱のふたを開ける。中にはきれいな正方形にきられた生チョコが並んでいた。ココアがうまい具合にチョコに降りかかっていて、おいしそうに見える。しかし、アフロディの料理の恐ろしいところは、見た目だけは美味しそうである事なのだ。
 蓮はあの世に行く覚悟をしながら、近くにあるプラシチックでできた楊枝(ようじ)に生チョコをさすと、目を閉じながら口に入れた。直後襲ってきたのは、卒倒するような味でもなく意識を失うようなひどいものでもなく。蓮は目を開け、信じられないと言わんばかりに言葉を漏らす。

「え、嘘」

 生クリームとチョコレートが生み出す、何ともいえないうまさのものだった。そこにココアのパウダーが絡まることで甘さは増し、風味のよい甘さが舌の上に広がる。

「…………」

 アフロディが人並みに上手いチョコを作ったことが信じられず、蓮は呆然としていた。その顔を眺めていたアフロディは、満足そうな笑みを顔に作る。

「その顔、おいしいって言っているんだね」

 蓮がアフロディに顔を向け、口を開こうとすると、アフロディは首を横に振る。

「ふふ。何も言わなくてもいい。キミのその顔だけでボクは満足だよ」
(僕を喜ばせたかったんだ。ありがとう)

 蓮は心の中でアフロディに短く礼を述べた。
 
「ところで蓮、今日はキミの部屋に泊まらせてもらうよ」
「は?」

 急な申し出に蓮が問い返すように聞いたとき、アフロディはベッドから降り、身体に巻いていた毛布を広げ、ベッドの上にきれいに伸ばしていた。そして毛布をきれいに伸ばし終えると、毛布の中に潜っていった。そして頭だけを出して寝転がりながら、蓮を見上げる。

「自分の部屋に戻るのがめんどくさいんだ。じゃあ、おやすみ」

 手短に挨拶を済ませると、アフロディはくるりと身体の向きを変え、蓮に背中を向けてしまった。長い金髪がベットの上で広がる。言うまでもなく、泊まる気まんまんのようである。

「僕はどこで寝ればいいんだよ」

 蓮は悪態をつくと、ベットに腰掛けた。アフロディはそうとう右にずれて寝ているので、身体を踏んだりはしなかった。
 蓮は再度生チョコレートをプラシチックの楊枝で、口まで運んだ。口をもぐもぐさせると、ゆっくりと飲み込む。蓮の喉元が少し膨らんだ。そして振り返って、アフロディの背中に目を落とし、

「なぜ“神”は僕に“作物”を与えたの?」

 わざと遠まわしに聞いてみた。本当はどうして僕に作ったのだと聞いた。アフロディはその意図を理解しているのか、僅かに笑い声を立てた。

「……キミに喜んでほしかったからだよ。“神”もまた人間なのさ」

 アフロディは蓮に背を向ける体制のまま、当然そうな口調で言った。
 蓮はまた生チョコを忙しく口に運びはじめた。

「白鳥、いますか?」

 アフロディが蓮のベッドを占領したまま眠りに落ちた頃、ドアが控えめにノックされ、ジャージ姿のチャンスゥが蓮の部屋の中に入ってきた。手には、キャンディ缶のようなものを持っている。

「あ、チャンスゥ」

 蓮は窓の縁に座り、ぼうっと外を眺めていたが、チャンスゥに気づくと立ち上がり、彼の近くまで駆け寄った。チャンスゥはドアを静かに閉めながらゆっくりと部屋に入ると、こちらに背を向けて眠っているアフロディを見た。

「おや、アフロディ?」

 蓮は、アフロディがここに来た経緯を必死にチャンスゥに説明する。どうやらアフロディはチョコ自分が食べているか気になったため、寒い中わざわざ外に飛び立ち、蓮の部屋の様子を伺っていたこと。そして戻ろうとしたら部屋が締め切られてしまい、寒い中、自分に助けを求めに来たこと。
 それらをチャンスゥは黙って聞いていたが、思い当たる節でもあるのか、だんだん顔が強張ってきた。蓮が話し終えると、腕を組んで、

「……実はアフロディを締め出したのはわたしです」

 と心底申し訳なそうな声で白状した。普段はしっかりしているチャンスゥがアフロディを締め出したのは意外だったので蓮が瞬きをしていると、チャンスゥは決まりが悪そうな顔で話を続ける。

「明日の練習についてアフロディの部屋を訪ねたところ、部屋の鍵が開けっ放しだったもので、何も考えずに閉めてしまいました」
「かわいそうなことにアフロディ、凍死寸前だったよ」
「……面目ないです」

 氷のように冷たかったアフロディの肌を思い出しながら蓮が呟くと、チャンスゥは沈んだ声で眠っているアフロディの方に身体をむけ、深々と頭を下げた。しかし当のアフロディは夢の世界へ行っているので、返事はない。沈黙が場を支配し、気まずい空気が漂う。
 雰囲気が重くなっていくのが嫌で、蓮はそれを払拭するようにチャンスゥに明るい声をかける。

「それはさておき、明日の練習のことかな?」

 その声に頭を切り替えたのか、チャンスゥは口元に柔らかい笑みを浮かべた。今まで手に持っていた缶を持って蓮に近づき、そのまま差し出した。

「ハッピーバレンタイン、ですよ」
「あ、ありがとう!」

 蓮は、はしゃぎながら受け取る。チャンスゥから渡された缶は、ドーム型の蓋を持つキャンディ缶だった。何故か赤い龍をかなり可愛くデフォルメしたものが描かれ、蓋を開くと一つ一つ梱包されたチョコとクッキーが入っている。蓋を閉めると、蓮は笑顔でチャンスゥに頭を下げ、窓の脇に置かれた机の上に缶を置いた。机の上は、チョコレートだらけだった。包み紙に包まれた箱や、ポッキーや、コアラのマーチの箱が机の底が見えなくなるほどに乱雑に並べられている。

「ずいぶんもらいましたね」

 蓮を目で追っていたチャンスゥが素直な感想を漏らすと、蓮は苦笑しながら振り返ってチャンスゥに顔を向ける。

「えっと。部屋から帰ってきたら、こんなことに」

 控えめに言い訳を言って、恥ずかしそうに顔を伏せた。
 南雲や涼野にお菓子をもらってから部屋に帰ると、机の上にはチョコレートとメモがたくさん置かれていた。それらはアフロディ・南雲・涼野・チャンスゥを除いたファイアードラゴンの仲間たちからのもので、決まって「お返し楽しみにしているぜ」と書かれていたのだった。

「そういえばアフロディたちからチョコはもらいましたか」

 チャンスゥは窓辺まで歩くと、蓮に顔を向けながら聞いた。蓮は顔を上げ、慈しむように目を細めながら小さく頷いた。

「言葉では表現できないおいしさだった、かな」
「そうですか」

 チャンスゥが満足げに頷き、蓮はニッコリと笑う。その時、ベットの上のアフロディがもぞもぞと動く。二人から顔は見えていないため気づいていないが、赤い瞳を片目だけ開け、布団にもぐりこむようなしぐさをしながら聞き耳を立てている。

「3人に作り方を教えたら嬉しくなるよね」

 チャンスゥは虚を衝かれたような顔つきになったが、すぐににやっと笑った。

「さすが白鳥。気が付いていましたか。ほぼ完璧ですが、あなたは一つだけ間違えている」
「ん?」

 蓮が意外そうに目をわずかに見開くと、チャンスゥは窓辺に腰掛けた。そして墨のような黒に塗りつぶされた空に視線を投げかける。

「一週間ほど前のことです。南雲と涼野が、いつにもなく真剣な顔でわたしの元を訪ねてきてこう言ったのです。『バレンタインに手作りのお菓子を渡したいやつがいる。しかし、自分たちだけでは作れないので、チャンスゥに手伝って欲しい』とね。まあ、渡したい相手があなたであることは、すぐに察しがつきましたがね」
「手作りにこだわらなくても、気持ちだけでも十分なのにな」

 必死そうな顔でチャンスゥに頼み込む南雲と涼野を脳裏に思い浮かべながら、蓮は足を揃えてチャンスゥの横に座る。チャンスゥは蓮に視線を向けず、まだ空を見つめている。蓮も空に目をやる。もう雪は止んでおり、グラウンドの向こうには、街明かりが瞬いている。今日は、あそこで何人の恋人が過ごしているんだろうと蓮がぼんやり考えていると、チャンスゥが口を開く。

「白鳥は優しいから無理して手製にこだわる必要はない、とわたしも答えましたよ。しかし彼らは首を縦には振りませんでした。普段、あなたはよく南雲や涼野に手料理を振舞っているでしょう? 二人とも、たまには自分たちが逆の立場に立って蓮を喜ばせたい……と言ってましたよ」

 蓮は面映い(おもはゆい)のか、照れ隠しするように頭をかいた。それを見ていたチャンスゥの笑みがますます深くなり、優しい口調で話を続ける。

「作った当日の二人はとても一生懸命でした。本とにらみ合いながら、慣れない手つきながらも材料を混ぜたり、オーブンレンジを何度も何度もしつこく念入りに確認する姿は、あなたに見せてあげたかったくらいです」

 チャンスゥが蓮の顔色を伺うように横を向くと、蓮は窓にもたれかかり、長い息を吐いていた。
 蓮は身体の底から熱いものを感じていた。嬉しさ、照れといった感情が綯い交ぜになり、身体のうちを焦がすような熱となって、全身をほてらせていた。
蓮は、身体から湧き上がる熱に身をゆだねながら、ぼうっとした顔をチャンスゥに向ける。

「そういえばアフロディにも教えたよね?」

 その言葉にアフロディははっとした顔で毛布を掴んで固まる。だが起き上がると怪しいと思わったのか、起き上がらずに耳をそばだてていた。

「アフロディも彼ら同様、わたしに泣きついてきたのです。ただ南雲や涼野と一緒に見るのは難しそうなので、彼らより後で一人で見守ることにしました。アフロディは、少しでも目を離すとあなたが3日は寝込むような料理を作ろうとするので苦労しました」

 チャンスゥが淡々と言って、蓮は苦笑する。アフロディは顔をしかめながら、毛布を握っていた。

「あなたに倒れられては困りますからね……アフロディからすると一生懸命なのでしょうが、こちらが逆に大変でした」
「おつかれさま。アフロディたちが作ったものは全部うまかった。今日はおいしいものだらけで幸せだった」

 蓮がチャンスゥをねぎらって、チャンスゥが安堵の笑みを浮かべた。彼らの後ろでは、アフロディが満足げな顔で目を閉じている。

「でも不思議だなぁ」

 ポツリと蓮が呟き、アフロディは目を開ける。

「どうしてあんなにおいしかったのかな」
「それは彼らが、あなたを大切に思って作ったからでしょう。誰かを大切に思いながら作られた料理は、必ず美味しいはずです」

 チャンスゥが蓮を諭すように語りかけ、蓮の黒い瞳が揺れる。振り向き、机の上に置かれたアフロディたちのお菓子を双眸を緩めて見つめる。

「あなたにはあなたを大切に思ってくれる仲間がいる。素晴らしいことですね」

 その言葉を聞くと、蓮はがっくりと頭を垂れる。

「……ああ。これを気づかせるための作戦だったのか」

 敗北感に満ちた声で悔しそうに言って、チャンスゥは勝ち誇った笑みを向け、得意げに語る。

「ふふ。南雲や涼野が、あなたのことをどう思っているのか気になりましてね。あなたとチナンに本日は入れ替わっていただきました。偶然とは言え、聞けて嬉しいでしょう?」
「じゃあ、朝言ってた“完全なる戦術”は……」
「南雲と涼野があなたへの本音を出し、そして手作りのお菓子を渡すと言うわたしが作り上げた完全な2月14日のストーリーです」
「パーフェクト・ストーリーかな。でもずいぶん分の悪い賭けだ」

 蓮がにっと口元をゆがめ、チャンスゥはふふと小さく笑い声を上げた。

「話が出なかったら、わたしが話をその方向へ持っていくつもりだったのですが、その必要はなかったようですね」
「筋書き通りでも、今日は我が人生で最高なバレンタインだったよ。ありがとう」

 周りを明るくする笑みを見せながら、蓮は礼を言った。
 脚本家のチャンスゥと、そこに寝ているアフロディ、南雲と涼野に。たぬき寝入り中のアフロディは口角を持ち上げると、毛布を頭の上まで引っ張って潜り込んでしまった。チャンスゥは静かに笑うと、蓮の肩にそっと手を置く。

「ですがわたしがしたのはここまで。続きの脚本はあなた自身で描くのです」
「あ、そっか。アフロディと晴矢と風介に渡さないと」

 蓮は毛布に潜ったアフロディを見て、

「あの三人は僕の——」

 口を閉じた。静かに首を振り、楽しそうに、

「いや。彼らはエルフ、かな」



 そして2月15日未明——蓮は赤い包装紙で包んだ箱を片手に持ちながら、ある人物の部屋の前に立っていた。ドアノブを掴むと、音をできるだけ立てないよう注意しながら、そっとドアを開けて部屋の中に入る。
 
 中は一面の黒だったが、だんだん目が暗順応し、中の様子がわかってくる。床には、乱暴にユニフォームとハーフパンツが脱ぎ散らかされ、薄闇の中にぼんやりと黒く浮かび上がっていた。ユニフォームを丁寧に扱う蓮はすぐに近づいてしゃがむと、箱を傍らに下ろし、ハーフパンツを丁寧にたたんで床に置く。続いて、ユニフォームを拾うと、ひっくり返す。エース番号である『10』の文字。これは試合上のエース番号ではなく、“ユニフォームを雑に扱うエース番号”にしか思えない。それなら納得できる。蓮はユニフォームもきちんと折りたたむと、ハーフパンツの上に重ねて置いてやった。
 
 下ろした箱を掴みなおすと、そっとベッドへと近づく。目的の人物——南雲は、ジャージ姿のまま、大の字になって眠っていた。毛布は蹴飛ばされ、足元でぐちゃぐちゃになっている。呼吸をするたびに、腹が動いている。
 蓮は抜き足差し足で南雲に近づくと、枕元にそっと箱を置いた。それから、帰ろうと南雲に背を向けた途端、右手首が鷲づかみにされた。
 反射的に身を震わせ、蓮はおそるおそる振り向くと、蓮の手首を掴み、ニタニタと得意げに笑う南雲の顔があった。暗闇の中で、金色の目が楽しげに輝いている。

「よい子は寝てないとプレゼントもらえないんだよ?」

 からかう調子で蓮が言うと、南雲は蓮の手首から手を離し、上半身を起こしながら、へっと鼻を鳴らす。

「あいにくだけど、オレはいい子じゃねえ。けどプレゼントは欲しいな」
「ちぇ、起きてたのか」

 悔しそうな顔で蓮が唇を尖らせると、南雲は挑発するような顔で蓮を見上げた。

「ったく、人が寝てるときに渡そうなんて趣味が悪いぜ」

 蓮はむっつりと押し黙ったが、南雲の枕元に置いた箱を取り上げると、そのまま南雲に差し出した。南雲は歯を見せて明るく笑うと、ぶんどるように蓮の手から箱を奪う。

「言われなくてももらってやるぜ」

 南雲はそのまま包み紙をはがしにかかり、蓮はそれをぼうっと眺めていた。だが、しばらくして南雲を呼びかける。

「ねー晴矢」
「あん?」
「……あのたまごポーロ、人生で食べた中で一番おいしかった」

 独り言のようにぼそっと零し、蓮は遠慮がちに下を向いた。
 しばらくして顔を上げると、南雲が底意地の悪い笑みを浮かべて自分を見ていることに気づき、ついむきになって蓮は怒鳴る。

「って、こら! なにまじまじと見つめてんだよ! だいたい晴矢はいつも……」

 その後、蓮が調子に乗って色々言い募る中、南雲は包み紙を破り終えた。中には茶色い箱があり、名詞ほどの大きさのカードがセロテープで止められていた。南雲はそれを雑に剥がすと、自分の前に持ってきた。
 カードには綺麗な筆記体で、『To  elf From elf』の文字。

「ん? To elf From elf? あんだこれ?」

 いぶかしむ南雲の声を聞きながら、蓮は内心ほくそ笑んだ。
 自分が仕掛けたなぞなぞ、きっと晴矢たちはわからないだろう。
 “elf”は英語でいたずらっ子の意味。普段自分に散々いたずらをしかける悪ガキと言う軽い皮肉と、自分を感動させる可愛い“いたずら”をしたと言う感謝を込めての『To elf(エルフへ)』。最後の『From elf』は複雑だ。一個だけ激辛のお菓子を入れたと言ういたずらの警告と、こっちもキミたちを感動させるような“いたずら”をするんだというダブルの意味がある。恐らく、誰もわからないだろう。蓮は心の中で、アフロディたちを思い浮かべながら呟いた。

(いたずらなお菓子を作ったキミたちに、とっておきのいたずらを返すよ)


〜終り〜
今回は完全にアフロディのターンでしたねww蓮がまた英語をのたまってますが、あれはアフロディーテ祷歌の一文から引用してきました。上に参考にしたサイト様があるので、興味のある方はどうぞw

追記
ようやく完成、そして意味不明デスヨねww
最後のは、蓮が自分を唸らせる料理を作ったことを、わざと「いたずら」と表現しています。
だからお前らを唸らせてやる料理を作る! と宣言しているのが「from elf」の意味です♪

もうすぐ本編も進めますが、話題がかなり暗いです。蓮の過去話、ですが本当に暗くなることをお約束します;;