二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜番外終了♪ ( No.309 )
日時: 2011/03/02 08:01
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)

 春奈の後をつけていた蓮だが、途中で春奈に気づかれたらしく、上手いこと逃げられてしまった。かと言って、雷門の仲間の元に戻ろうとしたが、どの場所に案内されたのか全くわからない。蓮は一人でグラウンドをとぼとぼと歩き、石造りの屋根をぼんやりと眺めていると、

「木暮くん! わたしの話を聞いて!」

 春奈の悲鳴のような抗議する声が聞こえ、続けて木暮が怒鳴り返す声が聞こえた。そのままひと悶着が起きているのか、春奈と木暮が互いに罵り合う声がする。声は、塀の裏側、つまり校舎の外から聞こえる。蓮は校門を潜り抜けると、すぐに塀よりの竹林の中に、春奈と木暮を発見した。春奈が蓮に背を向ける形で立ち、その向かいに腕を組んで嫌そうな顔で春奈を見つめる木暮の姿。

「さっきから、おまえはうるさいんだよ! おまえは親に置き去りにされたのか?」

 木暮がむっとしながら春奈に尋ね、春奈は首を振り、必死に木暮に語りかける。蓮は、ゆっくりと春奈と木暮に歩み寄る。

「違うわ。でも、わたしの親も飛行機事故で死んだのよ。木暮くんと同じで、親はいないの、だから……」

 それ以上、春奈は言葉が出ないのか口を閉じてしまった。
木暮は春奈の言葉尻を捕らえ、反論してきた。

「事故? それなら、違うじゃんか!」

 言葉が続かず、答えに窮する春奈の横に蓮がやってきた。何か言いたげな表情で、黒い瞳をだまって木暮に向ける。木暮は警戒するように目を細め、蓮を睨みつけた。しかし、蓮は何もせず何も語らず木暮を見つめ続ける。風が吹き、蓮の黒い前髪と春奈の青いボブカットが静かに揺れる。そうやって、二人は長いこと木暮と対峙していた。

「……白鳥先輩?」

 蓮の考えが読み取れない春奈は、蓮の顔を覗き込みながら尋ねるように声をかけた。いつもなら怒ったり笑ったりと、表情を映すはずの黒い瞳。今日は何も訴えかけては来ない。どうやら蓮自身が感情を押し殺しているようだ。まるで感情を木暮に悟られたくないかのように。

「おまえも何のようだよ!」

 しびれを切らした木暮が声を荒げて尋ね、蓮は静かに問う。

「聞いたよ。キミ、親に置き去りにされたんだって?」
「それがなんだよ」
「キミは馬鹿だ。どうして親への恨みの八つ当たりを周りの人にするんだ」

 蓮が木暮をあざ笑うように言って、木暮は反論できずに俯き、春奈は目を見開いた。どかどかと春奈は蓮に近づき、胸倉を掴みそうな勢いで蓮に食って掛かる。

「先輩! そういう言い方はないですよ!」

 怒りで鼻息を荒くする春奈と対照的に蓮は平静だった。春奈に怒鳴られても顔色一つ変えず、ただ怒鳴られるがままになっている。それから、春奈は木暮の境遇がどんなに不憫であるか述べ、それから蓮の無神経さをひたすらなじった。蓮は無表情のまま、口をつぐんでいた。ただ、先輩はお父さんとお母さんが死んでいないから、木暮くんの気持ちがわからないんですよ! と、春奈が勢いのまま言ったとき、蓮の瞳がわずかに見開かれた。           そのことに気づいた春奈は、言葉を失った。今の言葉を言った直後から、明らかに蓮の表情は変っていた。無表情だった顔に動揺の色が見えている。

「おまえにオレの気持ちがわかるか」
「……わかるよ。悲しい、かな」

 木暮がポツリと呟き、蓮が悲しげに零した。
 春奈と木暮が同時に蓮を見るが、蓮は沈痛な面持ちで自分の過去を思い出すように話を続ける。

「親に置き去りにされるってさ、悲しいよね。置き去りにされたら、言いようのない孤独と不安感だけが身を支配して、泣く事しかできなかった」
「え、おまえも親に置き去りにされたのか?」

 蓮は首を振る。そして自分に言い聞かせるように言った。

「木暮くんとは違うんだ。でも置き去りにされたのは事実。遠い昔、たった一人で置き去りにされた」

 春奈は暗い表情で話し続ける蓮を見て、尋ねるか迷ったが、思い切って聞いてみることにした。

「白鳥先輩、何があったんです?」

 蓮は言いたくないかのように視線を下に向けた。話すか話すまいか迷っているのか、時折視線をちらちらと春奈に向けている。
春奈は、蓮の過去に何かあったことをここまでの態度で悟っていた。しかし、暗い過去と言うものはなかなか話したくないものだ。自分だって、つらい思い出を思い出してしまうから、話したくない気持ちはわかる。

「……へんなこと聞いてすいません。実はわたし、おとうさんとおかあさんが飛行機事故で死んでいるんです」

 蓮が話しやすいように、と春奈は自分の過去を蓮に打ち明けた。蓮は驚いたように目を見開き、話して、と目で合図して来る。春奈は、淡々と語り続ける。

「“音無”は今の引き取ってくれた両親の苗字なんです。その頃、事故で親が死んだことは頭でわかっていても、当時のわたしは、頭の中で裏切られたような気持ちになっていました。お兄ちゃんがいなかったら、木暮くんのようになっていたと思うんです」

 そこまで言うと、蓮は悲しそうな顔をした。何か言おうとしているのか、口が陸に上がった魚のようにパクパクと動いている。

「……僕は」

 そこまで言うと、蓮は言葉を切った。木暮のほうへとゆっくり歩み寄り、木暮から少し離れた場所で立ち止まる。そして、重々しい口を開く。

「僕の生みの両親は、自分で海に身を投げたんだ」

 長いため息と共にゆっくりと言葉を吐き出した。

〜つづく〜
はい、久々の本編なのに暗くて申し訳ありません;;
これから一気に5章へ加速しますので、頑張りますb