二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.31 )
日時: 2010/10/17 15:03
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 2lvkklET)

 風景が流れていく。
 今は雷門町の商店街の大通りをキャラバンは進んでいた。商店街だけあり、左右にはコンビニやら八百屋やら多くの店が軒先を並べている。
 そこを歩く人々は世界の危機が迫っているにも関わらず、悠然と歩いたり、走ったりしている。実感がないのか、それとも諦めてしまっているのか。

「で、これからどこに向かうんですか?」

 風景に目を向けるのをやめ、蓮は座席から少し身を乗り出して前に座る瞳子に話しかける。

「奈良よ」
「奈良? どうしてそんなところに?」

 と、蓮はいいかけはっと気づいた。“ニュースでやっていたあの事件”か……

「財前(ざいぜん)総理が誘拐されたの……ひょっとして、エイリア学園のせい?」
「あら、なかなか鋭いわね。そうよ。ここのところ、ニュースでずっと騒がれている総理誘拐事件——それはエイリア学園の仕業なのよ」
「どうしてそんなことが……」
「その後に、エイリア学園のセカンドランクチーム”ジェミニストーム”を名乗るやつらからの映像があったの。……だからこそ、証拠がないか探しにいくのよ」
「ジェミニストーム……」

 いやな感覚を覚えながら、蓮は通り過ぎていく空を見上げた。
 晴れているはずの空なのに、どうしてか心は曇っていくだけであった。

 高速道路を使って奈良まで行くにはそれなりの時間がかかる。新幹線で京都まで乗り、そこで乗り換えればさほど時間はかからない。しかしキャラバンは新幹線ではない。渋滞に巻き込まれたり、サービスエリアに寄ったりしていたら、あっという間に深夜になってしまった。
 今は大阪あたりのサービスエリア内で睡眠の時間をとっている。雷門イレブンは座席に体を寄りかからせ思い思いの体制で眠っていた。長いみんなの寝息だけが、静寂の空間に響き渡る。

「寝れない……」

そんな中で蓮は一人で眠れずにいた。元々深夜型のせいで、無理に寝ようとしても眠れなかった。

「深夜アニメって体に毒だよね、うん」

 仲間にいえない趣味に思わず独りごつ蓮であった。

「買い物にでも行くか——」

 隣で眠る円堂を起こさないようにそっと席を立つと、音を立てないようにイナズマキャラバンを降りた。
 車と車の間を通り抜けると、眩しいサービスエリアの光が目に飛び込んでくる。まだ夜の七時か八時のようにしか思えない明るさだ。煌々(こうこう)と輝く、看板を過ぎ、自動扉を通り抜ければ、そこは土産物コーナーだ。
 タコのイラストを印刷したクッキーやらせんべいやらの箱が高く積み重ねられている。そのうちのひとつ——在庫が一個だけしかない箱に蓮の視線は釘付けになった。
 タコ焼きが印刷されていて、表の箱にはでっかく赤い文字で「たこせんべい」の文字。この前テレビで紹介されていた一品。人気がありすぐに売れてしまうそうだが……今日に限ってはなぜか残っていた。当然、蓮は手を伸ばして——

「あ」

 声がかぶった。
 横から白くほっそりとした腕が伸びてきたからだ。この時間だから親父かその奥さんだろうと思い、手を伸ばした人物を見やる。
 驚いたことにそれは蓮とさほど年の変わらないように見える少年だった。背は蓮とほぼ同じくらい。体格は普通。朝起きてすっちゃかめっちゃかに跳ねたかのような短い青白の髪。そして翡翠(ひすい)をはめたような美しい青緑の瞳。服は青いシャツの上に長い袖の服を重ね着していて、下は紺のスラックス。靴は茶色いブーツのような素材のものだ。顔はきれいなのに、与える印象はどこか冷たい。どんなことにも動じそうにない冷静な顔つき。
 あれ、僕この人のことを知っている……?
 しばらく沈黙が続いて、

「ええっと、君それ買うの?」

 たどたどしく蓮が口を開いた。
 少年は澄んだ青緑色の瞳をまっすぐ蓮に向けてくる。何もいわない。遠慮しているのか、蓮の出方を伺(うかが)っているのか。

「いいよ。僕は他にほしいものあるし! いらないから! ほら!」

 遠慮しているのかと思った蓮はおもむろに箱を取り上げると、その少年の体に無理やり押し付けた。少年は相変わらずの仏頂面で箱を受け取ったが、

「すまない」

 そう低い声で言うと、わずかに口元をほころばせ笑って見せた。なかなかかわいい笑顔だった。レジのほうへと消えていく。
 だが数分後、少年は右手でたこせんべいの箱を抱えつつ、左手にパンパンに膨らんだビニール袋を持って蓮の元に戻ってきた。そのことに蓮が呆然としていると、少年は左手を突き出して生きた。

「え? これ僕にくれるの?」
「詫びだ。受け取ってほしい」
「あ、ありがとう」

 遠慮がちにそのビニールを受け取ると、少年は蓮のジャージをじっくりと見やり、

「ところで、キミは雷門の人間か?」
「あ、ジャージでわかるか。FFで優勝したときはいなかったけど、新入り。雷門を知っているってことは、君もサッカーやるの?」

 すると少年は静かに首を縦に振った。

「ああ。だがキミのようにちゃんとした学校のチームではない」
「地域のサッカークラブか。それもいいと思うよ。サッカーへのかかわり方は『学校』だけじゃないし」

 それを聞いた少年は若干微笑みを作った。冷たい顔立ちでも、笑うとなかなか愛くるしい少年である。

「キミとは気が合いそうだな。名前を聞いてもいいか?」
「白鳥 蓮。キミは?」

 その時少年は少しばかり目を大きく見開いた。あれ? と蓮が少しばかり疑ったが、少年はすぐにいつもの真顔に戻り、

「私か……私は涼野。涼野 風介(すずの ふうすけ)」

 やはり懐かしい名前だった。
 どこかで会ったような気がする。でも彼の名前は知らなかった。ひょっとしてよく言う前世ってやつかもしれない。

「風介くんかぁ。なんかFWでもやってて、速そうだ」

 蓮は自分の口から出た言葉に驚いた。初対面の人間をいきなり名前で呼んだからだ。いつもなら名字で呼んでしまい堅苦しいとか笑われるところなのに。何故か涼野には親近感を覚えたのだ。

「あ、いきなり名前で読んだりしてごめん!」

 慌てて謝っておいた。
 涼野は、相変わらず感情変化が乏しい顔で考えはよくわからない。眉をひそめないあたり、怒っているのだろうか。そう蓮が頭を下げながら考えていると、

「別にかまわない」

 それから少し間を空けて、

「私も蓮と呼びたいと思っていた」

 微笑しながら言った。

「じゃあ”風介”って呼ばせてもらうね」
「白鳥くん」

 背後から声がかかり振り向くと、瞳子がいた。
 今日はやけに顔がこわばっている。

「あれ、瞳子監督?」

 首をかしげる蓮の横で、涼野は蓮に背を向けた。そしてスタスタと出口に向かって歩き出してしまう。片手を挙げて、

「客人か。私は邪魔になりそうだから失礼する。……また会おう、蓮」
「あ、またね! 風介!」
 
 蓮は飼い主を見つけた犬のように、涼野に向かって大きく手が千切れるのではないかと思うくらいに何度も振った。
 涼野は、遠ざかっていく蓮を一瞥すると

「やっと見つけたぞ……蓮」

 そうつぶやいたが誰も気づかなかった。

〜つづく〜
ガゼルとーじょー! そして修正完了。涼野の私服が全身、発表されたので、修正しておきました。
あれ? バーンはどうしたと考える方。彼も出てきますよ〜!
蓮との関係は……きをなが〜くしてお待ちください!