二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜久々本編☆ ( No.313 )
- 日時: 2011/03/04 15:43
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)
「え。じ、じぶんで……?」
「ま、まじかよ」
蓮の壮絶な過去を聞いた春奈と木暮は、驚愕と戸惑いでそれ以上のことは言えなかった。木暮は黙って俯き、春奈は言葉を選ぶようにえっとを何度も繰り返している。蓮は急にこんなこと言ってごめん、と申し訳なさそうに謝った。
「話は続けない方がいいかな」
「先輩、つらいとは思いますけど、話してください」
自虐的な笑みを浮かべ話をやめようとする蓮に、春奈は話を続けるよう懇願する。すると、蓮は覚悟を決めたような顔になり、回想するように竹林へと目を向けながら、淡々と切り出した。
「今の両親から聞いた話だから、ほとんど覚えていないんだけど」
春奈と木暮が、話しを聞こうと身を乗り出す。
「元々僕の生みの両親は仕事運に恵まれない人で、僕を生んだときから既に生活は貧しかった。でも、しばらくはなんとか貧しいながらも生活はやっていけた。けれどある時……金融会社の一つとトラブルを起こして、両親は幼い僕を連れて、夜逃げ同然に家を飛び出した」
記憶喪失になっても、蓮は両親が海に身を投げる当日のことはうっすらとだが覚えている。
当日、両親はお金がないはずなのに、ファミレスに連れていってくれた。そして、好きなものを何でも食べていいと言っていたことを覚えている。元々物欲があまりない自分は困った。どうして、と尋ねると、両親は寂しげに笑いながら、自分の頭を撫でた。その、寂しげな笑みがいまだに脳裏にこびりついて離れない。大きくなって、『最後の晩餐』と言う言葉を知った。両親の一連の言葉は、幼い自分が、この世に未練を残さないために、と言う彼らなりの優しさだったと思う。この時までは、両親は自分をまき沿いにするつもりだったのだ。
「それで海に……」
悲しげに春奈が零した。そして両手で顔を覆い、さめざめと泣き始める。
「先輩……わたし、先輩のこと何も知らずにあんなことをいってごめんなさい」
消え入りそうな涙声で春奈が頭を下げ、蓮は彼女の肩に両手を置いて、気にしてないよとにっこりと笑いかける。
木暮は考え込むように下を向いていたが顔を上げ、話に口を挟む。
「でも、普通そういうやつって『むりなんとか』って、小さい子供もよく巻き込まれてるだろ」
蓮は首を振り、再度自虐的に笑った。
「ところが、僕の生みの両親は何を思ったのか……僕を近くの店に置き去りにして、二人だけで海に飛び込んだ。その時ね『すぐに帰ってくるから』って言ってたんだ。でも、母さんはさ、最後に僕を抱きしめてこう言ってたかな。『蓮、せめてあなただけは幸せになって』って。考えるとおかしいことだらけだ」
両親の気が変わった理由は今もわからない。途中まで、母は自分を抱いたまま、父と共に崖下にある海を見つめていた。海は早くおいでとでも言うように、崖下で音を立てていた。
両親は長いこと海を見つめていたが、急に海に背を向け、しばし歩いた。近くの土産物屋で自分を下ろした。交互に自分を抱きしめ、すぐに帰ってくるから待っているのよ、と母は言って幼い自分は、無邪気に頷いた。そして大きな背中はどんどん遠くなり——二度と帰ってくることはなかった。
蓮は難しい顔になって恨みがましく呟いた。そして、苦痛を耐えるような顔になり、ぐっと唇をかむ。
「記憶喪失になっても、両親が自分から遠ざかっていくところまでは覚えているんだ。忘れられるのなら、その場面も忘れたかった」
感情を抑えた声で蓮は言ったが、無意識に作った拳は震えてた。声も心なしか震えていた。その様子を、木暮は複雑な顔で眺めていた。
今まで泣いていた春奈は、袖で涙を拭うと、控えめに蓮に話しかける。
「先輩は」
話しかけて、後悔するようにはっとした表情になった。しかし蓮をしっかりと見据え、話を続ける。
「先輩は自分だけが生き残ったこと、どう思っているんですか?」
春奈の声に迷いはなかった。
蓮は静かに首を振り、複雑な顔で木暮と春奈を交互に見やる。
「わからない。あの時、親と一緒に海の藻屑(もくず)になればよかったのか、生きててよかったのか……答えはまだ見つからない。でも、生きててよかったと思いたい。だって、雷門のみんなに会えたから。だからさ、今はそう断言できる」
初めは沈んだ声音だったものの、最後はだんだん明るい調子になった。
生きているから、雷門サッカー部の仲間に会えた。風介に会えた。はっきりとはわからないが、仲間と会えた嬉しさに感謝しながら、蓮は自信を持って断言する。その言葉を聞いた春奈が安心したように微笑み、木暮は悲しげに目を伏せた。
「……お前はオレと違って、幸せなのか」
木暮が羨むような嫉妬するような声で呟き、蓮はすぐに否定した。
「そんなことないよ。木暮くんだって、キミを大切に思ってくれる人がいるだろ?」
言って、蓮は春奈に目配せする。
春奈は、はっとしたような顔つきになり、木暮に詰め寄る。
「ねえ、木暮くん。悔しくないの?」
「え?」
予想外の質問をされたのか、木暮は瞬きをする。春奈は早口でまくし立てた。
「毎日毎日、やりたくもない修行をやらされるのよ! 悔しくないの!?」
「た、確かにフィールドにも立たせてもらえないし、悔しいけどな」
春奈の勢いに気おされたのか、木暮はとりあえずと言った感じに春奈に話をあわせる。すると、春奈は満足そうに頷いて、溌剌(はつらつ)と宣言した。
「じゃあ、わたしと白鳥先輩と一緒に特訓するのよ!」
「勝手に決めるな!」
「ちょ、なんで僕まで数に入ってるの?」
「いいの、いいの! 人数は多いほうがいいでしょ?」
何故か自分も含まれていることに驚いた蓮が、木暮と共に抗議の声を上げる。しかし、春奈はどこふく風で、先輩である蓮に敬語も使わずに軽くいなした。二人の意見を無視して勝手に話を進める。
以前、鬼道が春奈は一度言い出したら聞かないのだ、と苦々しく呟いていたのを蓮は思い出し、心内で苦笑いをした。
「木暮くん、ポジションは?」
「し、しらねぇよ。オレ、ベンチ(控え)だからな」
木暮の話によると、仲間にいたずらをする罰として、自分自身、試合に出せてもらえないのだという。しかし話を進めると、過去には出させてもらっていたが、自分勝手なプレーをするため、あっけなくベンチ入りとなったらしい。
因果応報とは彼のためにある言葉だろうな……と蓮は口に出さずに思いながらも、どこのポジションとして練習させるか悩む春奈に」助言をする。
「修行で鍛えられた身軽さを見ると、DFに向いていると思うよ」
「あ、そうね。DFならいのじゃないかしら!」
春奈は手を叩いて喜び、木暮が憤る。
「二人で勝手に決めんな!」
「まあまあ」
蓮は木暮をなだめるように優しくにっこりと笑いかけた。周りを明るくする、笑み。それを見た木暮は少し目を見開いた。
「ね、こんなふうにキミを気にしている人はいるんだよ。春奈さんみたいな人。そのことに気づけないキミは、馬鹿だって言ったんだよ」
「あ、さっきの馬鹿ってそういう意味だったんですか」
誤解が解けたのか春奈が神妙な顔付きで頷く。
木暮は唇を尖らせたが、その顔に怒りや警戒の色は泣く、もうすっかり春奈や蓮と打ち解けたようすだった。
「うるせーよお前も忘れんな。ところで、一つ聞いていいか? お前はどうやって立ち直ったんだ?」
「ね、木暮くん。キミはサッカーって好きかな?」
蓮は優しい顔で木暮に尋ねる。初めて自分から人に過去を話したが、心は自然と落ち着き始めた。
「罰としてやらされるから、微妙だな」
「僕はすごく好きだ」
言いながら、蓮はリフティングの真似事をする。ボールがある“つもり”で、両膝を交互に動かした。その間、蓮は楽しそうに笑っていた。しばらくすると足を下ろして、足に履いた雷門のスパイクを見つめながら、感慨深げに語り始めた。
「立ち直れたのも、サッカーのおかげなんだ。生みの両親が死んでから、連れて行かれた施設で、サッカーが得意な子たちと仲良くなってさ、その二人のおかげで立ち直れたんだ。ボールを蹴るのに夢中になると、だんだん悲しみが和らいでいった。それに、その二人も、僕を明るく励ましてくれたおかげたんだ。サッカーとその二人のおかげで、両親がいなくても、前に進める勇気が生まれてきたんだ」
サッカーとの思い出を話す蓮は、今までと違いとても嬉々とした表情で、力強く、明るい声で話してくれた。話を聞く春奈や木暮も穏やかな表情で聞いていた。
でも、と蓮はきゅうにしおらしくなり、悲しげに目を伏せ、木暮と春奈は、心配そうに蓮を見つめた。
「ど、どうしたんだよ」
「でも、その二人の顔も記憶と共に忘れてしまった。僕を立ちなおさせてくれた命の恩人で、とても仲のよい二人だったのに。二人は、今、どこで何をしているんだろう」
サッカーを始めたきっかけは人それぞれだ。
蓮はボールを追いかけていると、ふっと自分がサッカーを始めるきっかけは何だったのだろう、と思うことが小学生の頃からよくあった。
周りの子は父の影響とかテレビでと言うが、蓮の場合仲がいい友達であることは確かだった。それは覚えている。が、その彼らの顔と名前を全く思い出せない。記憶喪失になったのは小学校3年生。
その頃には、サッカーを始めていたから、始めたのはもっと前だ。そういえば、ぶっとんでいる記憶のほとんどは、施設で過ごした頃の記憶。意識が回復した同時に別の学校に転入させられたため、友達関係に困ることはなかった。
過ごした施設に彼らはいたのか。そういえば妙に懐かしい雰囲気がする涼野は、その仲がよかった人間の一人なのかもしれない。
頬に冷たい感覚がし、涼野はぱっと目を開けた。見ると、片手にコンビニ袋を提げた南雲が、自分の頬にアイスクリームを当てているのが目に飛び込んできた。
涼野と南雲は清水寺に来ていた。今いるのは、かの有名な清水の舞台。遠くには緑の山が見え、その裾野に張り付くように京都の町が広がる。
辺りには老若男女問わず様々な人間がいるが、私服の中学生二人はその中から見るとかなり浮いているように見える。
「ああ、晴矢か」
「なにぼうっとしてんだよ。凍てつく闇はどうした? ガゼルさんよぉ」
涼野は不機嫌そうに南雲の名を呼びながらアイスをぶんどり、嫌味を言う南雲をきっと睨みつけながら、手すりに背を預ける。南雲は、退屈そうに手すりに両肘をつき、手の上に頬を乗せている。
「蓮がおひさま園に来たのは、この位の時期だったと思っていただけだ」
むっとしながら涼野が答えると、南雲は変らずに頬杖をつきながらも、話に乗ってきた。
「覚えてるぜ。あいつ、父さんの元に来たときはずっと泣いていたよな」
「両親は蓮を置き去りにして、海に身を投げたのだ。あの頃の蓮には、何もわからなかったのだろう」
涼野は連を擁護するように言った。
おひさま園に長いこといた涼野はさまざまな子供を見てきた。
おひさま園は孤児を保護する目的で立てられたものだから、当然ここに来る子供たちは、何らかの理由で親を失った。事故、病気……上げればきりがないが、初めは誰も彼も慣れずに不安そうな目をしているものだ。
もちろん泣いているものもいたが、蓮はかなり特殊だった。まず3日間ずっと泣き通し。どっからそんなに涙が出ているのだと思うくらい、父と母の名前を呼んで泣いていた。幼い涼野は、泣き虫なこの少年が何故か気になっていた。
「それから泣き止むと、ずっと木の下で塞ぎこんでたな」
南雲が哀れむように呟き、涼野は同調する。
「ああ。魂が抜かれたような生気のない顔色で、焦点の定まらない目で、ぼんやりと地面を見ていたのは今も忘れられない」
それから親がいないことを悟ったのか、ずっと一人で幼い蓮は外にいた。子供でもよじ登れる程の木の下で体育座りになって塞ぎこんでいた。
肌から血の気はうせ、土色になっていたし、瞳は光を宿していなかった。生きる気力を失った、焦点が定まらないぼんやりとした瞳。誰かが声をかけても反応しない、生きる人形と化していた。
当時の蓮は、今の明るい表情を見せる蓮からは想像がつかない程ひどく落ち込んでいたのだ。
「んで、お前は何を思ったのか、蓮が塞ぎこんでいるのを、蓮が寄りかかる木に登ってみていて……あいつの上に落ちた」
南雲がからかうように言って、涼野は無言で俯いた。
幼い涼野は蓮が気になり、蓮が落ち込んでいる様子を、太い枝に座って見下ろしていた。すぐ下では、幼い蓮がずっと地面を見ている。時々声はかけたが反応はない。何をしようとしたのか幼い涼野は、枝の上に立ち——うっかり足を滑らせて、木から落下した。
さほど高さはなかったから、もしそのまま落ちても怪我はなかっただろう。しかし、ちょうど幼い涼野の落下点にいた幼い蓮は、哀れにも下敷きに。砂埃が軽く立った。小さく呻き、大の字でうつ伏せになった。ちなみに落下した幼い涼野は、幼い蓮の背中の上で正座をする体制で着地していた。
『だいじょうぶか?』
幼い涼野は正座をしたまま、幼い蓮に話しかけた。幼い蓮は瞳を潤ませながら、顔だけを動かして振り向き、幼い涼野に向かって頷いた。始めてみる、人間らしい顔付き。
幼い涼野は蓮の背から立ち上がると、幼い蓮の前に回りこみ、手を差し出した。
『わたしはふうすけ。キミは?』
『れんだよ。ぼくは、れん』
幼い蓮は差し出された手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。
今思うと、この出会いがすべての始まりだった。
「それからキミと私、蓮の3人で遊ぶようになったのだろう」
少し話してからと言うもの、幼い蓮はしきりに幼い涼野に懐いてきた。やがて南雲も含めた三人で遊ぶようになり、よくサッカーをした。すると、幼い蓮は表情も日に日に明るくなった。笑顔が非常に愛嬌があるものだとこの頃からわかり始めたのもこの頃だったはずだ。
「んなの、昔の話じゃねぇか」
「そうだな」
南雲が呟き、涼野は自嘲気味に笑った。
ところで、と南雲が続ける。
「ところで、そろそろイプシロンが漫遊寺を攻める時間じゃねぇのか?」
〜つづく〜
蓮の過去話編はなんともいえません;;書いていて切ないです><
蓮とガゼル&バーンとの関係の源、みたいなものを書いてみたかったんです。