二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナズマイレブン】〜試練の戦い〜四章完結♪ ( No.336 )
日時: 2011/03/12 15:52
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)
参照: 白ハト=リアティ、黒ハト=ミスティ

第5章 希望と絶望 

 暗い部屋だった。何も見えない暗闇だけが広がり、肌を突き刺すような寒さが場を満たしている。
 その時、スイッチが入る音ともに黄色いスポットライトが上下灰色スーツ姿の男の姿を浮かび上がらせた。
 背ばかりがひょひょろとした男。緑の髪はかにの横足のように跳ね、頬は何かにえぐられたようにくぼんでいる。そして意地が悪そうな切れ長の黒い瞳。肌は生気を失ったような白さで、見ていて気持ちが悪い。
 そして、男の右肩には一羽のハトが止まっていた。白いが毛並みはくすんでおり、羽毛はぼさぼさだ。ただ色素が薄い金色の瞳だけはぎらぎらと暗闇を照らす街灯のごとく輝いている。

「ようやく戻ってきましたか。バーン、それにガゼル」

 男は誰もいない暗闇に語りかけた。しばらく男の声が反響していたが、すぐに静寂に包まれる。ややあって、ようやく不機嫌そうな声が返ってきた。

「なんだよ、研崎」

「父さんから何か命令でもあったのか?」

 パッと赤と青のスポットライトがつき、バーンとガゼルの姿を浮かび上がらせる。二人の長い影が床に広がる。
 赤いスポットライトに照らされるバーンは目の下に黒い切れ込みが入った南雲、青いスポットライトに照らされるガゼルは涼野その人だった。
 しかし、服装はいつもと違う。二人ともユニフォームのようなものに身を包んでいる。
 バーンは赤と白が基調のユニフォームに、下は黒に近い灰色のハーフパンツ。左腕に白いキャプテンマークをつけている。ユニフォームは赤い長袖で、白地のシャツ部分、胸元には紫のボタンのようなもの。周りを炎をかたどった赤い模様が描かれている。
 ガゼルは青と白が基調で、下は藍色のハーフパンツ。何故かユニフォームの両袖はまくりあげており、邪魔ではないかと思いたくなる。
ガゼルのユニフォームはバーンのものと同じく、胸元に紫のボタンのようなでっぱりがある。デザインは傍目には白い部分がキャンディーに真下からYの字をしたから突き刺した形に見えた。

 バーンとガゼルは声どおり、嫌そうな顔で腕を組み、研崎を睨んでいる。それを見た研崎は静かに首を振った。右肩の白ハトが落とされまいとして、鍵爪に力を入れる。研崎は小さく呻いた。

「いいえ。旦那さまは、“ジェネシス”の面倒を見るので忙しいのですよ」

 バーンとガゼルはほとんど同時に鼻を鳴らし、腕を解いた。

「だろーな。オレラらなんかよりグランの方がお気に入りだからな」

 バーンは他人事のように言った。どうやら研崎と話すのをめんどくさいと思っているらしい。先ほどからしきりに欠伸をして、研崎の顔をしかめさせている。

「だからこそ、父さんは、グランが率いる“ガイア”に、エイリア学園最強のチームであることを認める称号——“ジェネシス”を与えたのだろう」

 ガゼルもまた話を早く終わらせたいようだ。自分とは関係がないと言わんばかりの口調で述べ、バーンにかえるぞと声をかけ、研崎に背を向ける。
 それを見た研崎はニタァ、と笑い、帰ろうとするバーンとガゼルの背中に問いかけるような言葉を投げかけた。

「バーン、ガゼル。なに他人事のように言っているんです?」

 その瞬間、バーンとガゼルの足が止まった。靴音が反響し、辺りに響きわたる。
 二人は振り向いて、めんどくさそうな視線で研崎に目をやった。研崎は気味が悪い笑みを浮かべながら、言葉を続ける。

「あなたたちは、それでもマスターランクチームのキャプテンですか?」

「何が言いたいんだよ!」

 問いかけれたバーンは研崎に向き直り、つんけんな調子で返した。横ではガゼルが抗議するような瞳で研崎を睨みつけている。
 研崎は無言だった。気持ちが悪い笑みを口元に浮かべ、口を閉ざしていた。その時、

「ガゼルにバーン」

 若い男の子のような声がした。バーンとガゼルは身を震わせ、刺々しい視線を研崎の右肩に止まる白ハトに向ける。睨まれた白ハトの顔が、まるで人間のように歪む。嘲笑の形に。そしてパクパクと動く薄桃色の嘴は、流暢な日本語を紡いでいく。

「おまえたちはジェネシスの座を求めると思うよぉ〜」

「リアティ、口を慎みなさい(つつしみなさい)」

 研崎はリアティを叱ったが、リアティは喋り続ける。

「元々大仏。あ、間違えた。元々父さんに認めてもらうために、ここまで頑張ってきたんでしょ〜? なのにさ、ジェネシスの座を雷門と戦ってもいない“ガイア”に与えるなんておかしくな〜い?」

「……父さんの意思だ。私は気にしていない」

「オレもだ」

 ガゼルは、リアティから目をそらしながら自分を納得させるように呟いた。バーンも弱弱しい声で同意する。
 リアティはそんな二人を愉快そうに眺めていたが、不意に両翼を広げ、空中に飛び立つ。羽音が立ち、研崎の髪が揺れた。そのまま自分から目をそらしているガゼルの周りを円を描くように飛び回る。

「ふ〜ん。でもさ、不公平はよくないとリアティは思うんだよねぇ〜。今すぐ雷門を倒せば、大仏だって認めてくれると思うよぉ〜?」

 からかう声がガゼルの周りでくるくる回る。ガゼルはいつもの冷静な表情で——俯いていた。バーンはずかずかと飛び回るリアティに近づくと、リアティを片手で下に落とすように叩く。リアティはくすんだ羽を数枚落としながら落下し、地面に叩きつけられた。羽を伸ばして痙攣を起こしている。

「リアティ、旦那さまを『大仏』と呼ぶのは止めなさい」

 呆れたように研崎がため息をつきながら、研崎がリアティを両手ですくい上げる。
 研崎の両掌の中で起き上がったリアティは、ぴょーんと飛びおり、くすんだ羽を上下に動かして、宙のある一点に“止まっている”。そして嫌そうに、

「いいじゃ〜ん。めんどくさいし〜」

 口答えし、黙る。くるりと向き直り、リアティはバーンの前まで飛んだ。
 バーンは苦しそうな顔で頭を抱え、涼野はその横で明らかに悲しげな顔をしていた。リアティは、のんきに飛びながらそれを楽しそうに眺めている。

「雷門とは戦えば蓮が……」

 バーンは言葉を切った。
 頭が起きて欲しくない最悪のビジョンを見せつけてくる。雷門のユニフォームを纏う蓮がいる。周りには円堂を初めとする“今”の仲間たち。蓮はこちらに向かって、鋭い視線を投げかけてくる。きっと怒っているのだ。正体を隠し、普通の友達として付き合ってきたから。どうして嘘をついたんだ、と極限まで低められた声が問いかけてくる。そして。僕はお前を許さない、と蓮は低い声で続けてくる。可能性が高いビジョン。

「蓮とは、蓮とだけは戦いたくない」

 ガゼルは苦しそうに言葉を吐き出した。
 神などいないと改めて思った。神はいるとしたらこんなむごい仕打ちをしないだろう。かつて分かれた大切な人間とどうしてこんな最悪なタイミングで会ってしまったのだろう。もし会わなければ悩むことなどなかったのに。学校を破壊することに罪の意識は覚えなくても、彼に手を下すことだけはためらわれる。何故、何故なのか。理由を問う声が、脳内をぐるぐると巡る。

「ん〜? おまえたち、まだ幼馴染との関係ひきずってるんだぁ〜? あははっ!」

 リアティが馬鹿にするように高笑いをする。バーンとガゼルは何も言えず、恨めしそうにリアティに鋭い視線を送る。するとリアティは嘲笑の表情で二人を見つめ、今まで黙っていた研崎が二人に現実を突きつける。

「バーン、ガゼル。あなたたちは、自分たちがエイリア側の人間だということを忘れていませんか? それに白鳥は記憶喪失。何年かかってもあなたたちのことなど、絶対に思い出しませんよ」

 バーンとガゼルは思わず互いに見つめ合った。はっとしたような全く同じ顔。どうやら、全く同じことを考えているようだ。楽しかった幼少期には戻れない、と言うわかりすぎている現実のことだ。そして、自分たちがいかにかりそめの付き合いを楽しんでいるか。
 
彼らが見合う横で、リアティが一層高く笑う。人間なら抱腹絶倒と言うところか。羽を激しく上下に動かし、脚をばたばとさせている。

「そぉ〜そぉ〜! それにさぁ〜今、思い出したりしたら白鳥って子、かわいそうだよね。友達が実は敵側の人間だったなんてねぇ〜」

 バーンが再度リアティを黙らせようと近づき、それを察したリアティは素早く定位置である研崎の右肩に止まった。それから再度中に飛び、バーンとガゼルを見下ろす位置で止まる。

「どうせばれるんなら早いほうがいいよねぇ? ねぇ、早く雷門倒しちゃいなよぉ。プロミネンスとダイヤモンドダスト——どっちが先にジェネシスになるのかみものだねぇ〜」

 それ聞いたガゼルは歯を少しむき出してリアティを見、バーンはリアティに剣突(けんつく)を食わせる。

「おい、土鳩(どばと)! 話はそれだけか!」

 リアティは叱られてもけろりとしていた。滑るように部屋を縦横無尽に動き回り、バーンを小ばかにする調子で声を投げかける。

「な〜に怒ってるのぉ? 優しいリアティはおまえたちに助言してあげただけなのにぃ〜」

 バーンが両手で挟み込むようにリアティを捕まえようとして、リアティは素早く上へと飛んでかわす。掴み損ねた両手と両手が重なり、拍手(かしわで)を打ってしまった。
バーンは悔しそうに舌打ちをすると、リアティを嫌そうな顔で眺めているガゼルの肩を掴んだ。

「おい、土鳩の相手しないで帰るぞ」

 ガゼルは無言で首を縦に振り、こちらを気味悪い笑みを浮かべながら見続けている研崎に背を向けた。リアティは不適に笑うと、再度研崎の右肩に止まる。バーンとガゼルを浮かび上がらせるスポットライトが消え、彼らが闇と同化した時、

「ですが、バーン。ガゼル。だんな様に逆らうのも結構ですが、エイリア学園以外にあなたたちの居場所はないのですよ。それを心に刻んでおきなさい」

 研崎は釘をさすように口を開いた。返事も物音もなかった。ただ暗闇が広がるばかりだ。

「ちぇ〜。おもったより手ごわいなぁ〜」

 めんどくさそうにリアティがため息をつく。研崎は闇を見つめながら腕を組み、ポツリと零した。

「あの二人では、恐らく雷門を倒せないでしょう」

「幼馴染がいるからかぁ〜。でもね〜羽崎ぃ」

「……研崎です」

 研崎は肩に止まるリアティを見ながら切実に訴えた。しかしリアティに軽くかわされた。

「いいじゃ〜ん、羽崎で。でもね〜羽崎。人間は簡単に変わることができるんだよ? 強い友情で紡がれた(つむがれた)絆なんて、見せかけさ」

「しかし、ガゼルとバーンにとって、白鳥の存在は大きすぎるようですが」

 リアティは得意げに笑う。

「へへ〜わかってないなぁ、羽崎。バーンとガゼル、白鳥の絆は例えるなら谷と谷にかけられた一本の丸太橋さ。ちょっと手を加えてやれば、丸太はすぐに谷の底さぁ〜」

「ふむ、では策があるのですか?」

 研崎が尋ねると、リアティは自信満々に、

「あの二人はリアティのために必要なんだぁ〜。でもいきなりじゃ退屈だからぁ〜」

「から?」

「今回、少しだけ手を加えて二人が改心するか見てみようよぉ〜」

 やがて光が消え、辺りは再度闇に包まれていた。だが闇の中に爛々と輝く二つの金色の円があった。パッと赤いスポットライトがその姿を照らし出す。そこにいたのは、北海道でキャラバンの屋上にいた黒いハト。ライトの光で赤みを帯びた黒い体毛が輝いている。

「……バーン、ガゼル」

 黒いハトは闇を睨みながら、若い女の子のような声で呟いた。

*同時刻、沖縄。

『なんと、雷門がジェミニストームを……』

 商店街のTVをショーウィンドウ越しに見つめる男がいた。オレンジのフードつきパーカーに身を包み、その顔はうかがえない。しかし男は次々に移り変わる画面を食い入るように見つめていた。

「円堂、みんな」

 切なく彼らの名を呼びながら。


〜つづく〜
今回はリアティってなんだって思いになる話でしょうか。今回はバーンとガゼルの状況を描いてみました。そしてとある人をwwあまりにも空気が進んでいたので、です。

そして今回の地震について。私のところは震度4。
地盤が固いのか大きな被害はありませんでした;;
家でぼっちでしたので、とても不安でした。親と連絡がついたときには、思わず涙が;;

東北地方の被害が尋常ではなく、ニュースを見るたびに心が痛みます。
皆様はどのようにお過ごしですか?
安全に時が過ぎることを祈るばかり。
そしてこの小説が少しでも、みなさまの気持ちのやすらぎになるのなら幸いです