二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナズマイレブン】〜試練の戦い〜四章完結♪ ( No.339 )
- 日時: 2011/03/22 12:26
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)
- 参照: 停電近いのでコメント返しは後になりそうです;;
三日後。サッカーの練習をし終えた雷門イレブンは、紅葉をキャラバンに乗せ、漫遊寺を後にしていた。まだ京都の中を走り、とある駐車場に停車していた。中で少し問題が起こっていたからだ。
それぞれの席から身を乗り出しながら、後ろのある一点に視線を注ぐ雷門中サッカー部の面々。その顔には驚きと呆れが混ざり合っている。原因は、一番後ろの席で、鞄と鞄にはさまれて座る木暮だった。
「うっしっし〜」
いたずらめいた笑みを浮かべながら木暮は引くように笑う。
木暮は何故か雷門のジャージに身を包んでいた。木暮の左右にある鞄も、数えると、数が一つ増えていた。
木暮が仲間になった覚えがないだけに、円堂たちの頭には、疑問符が飛び交う。
こうして見ると、木暮はかなり小柄だ。雷門中サッカー部のメンバーは全員、足が床に届いているが、木暮は届いていない。退屈そうに届かない足をぶらぶらさせている。もう10cm背が高ければ地面に足がつくだろうか。
「なんでキミがここにいるの!?」
蓮が戸惑う円堂たちの気持ちを代弁すると、木暮は得意そうにそっくり返る。
「このイプシロンを破った木暮様が味方になるんだ。ありがたく思え! うしし〜!」
“破った”のではなく、“試合放棄”が正しい。それを勘違いしているのか、誇張しているのかわからないが、自慢げに木暮は高笑いする。 それを聞いて大半のものは呆れたように目を細めるか、相手にせず無関心な態度を取るかのどちらかだった。だが、染岡は今にも木暮を殴ろうと席を立ち上がり、吹雪にたしなめられた。
蓮は通路を挟んで隣に座る春奈と目を合わせ、苦笑しあう。そして、春奈の横から鬼道が殺気に溢れた刺々しい視線を送ってくることに気づいた。春奈は兄が殺気立っているのに気づかず笑いかけてくる。
鬼道は無表情。しかしゴーグルの奥から発せられる力は恐ろしいほど強い。怒気を孕んだそれは、大抵の人間なら黙らせられるだろう。しかし蓮は屈せず、言い訳を必死に考えていた。
その三人を余所に(よそに)瞳子は、木暮の足腰の力を買ってこのチームに入れたことを説明していた。
「木暮くんはDFに向いていると思ってこのキャラバンに入れたわ」
おぉ、と納得する声が上がる。そしてよろしくな木暮、と挨拶が飛び交う中で、
「き、鬼道くん! 僕は春奈さんと今日初めて話したんだよ!」
蓮は、鬼道の誤解を解こうとやっけになっていた。
両親を事故で失い、二人きりの兄妹なせいか、鬼道は春奈をとても大切に思っている。かつて春奈と施設にいた頃は、いじめられっこの春奈を守っていたと言うのだ。
だが少々度が過ぎることもある。いい例が春奈とあまり親しくなりすぎると、春奈に恋心を持ってるのではと疑われることだ。
鬼道のことはチームメイトから注意されていたので、春奈とは軽い付き合い。が、今回春奈には自分の過去を打ち明け、同情の気持ちを抱かせてしまった。 最近、春奈の方から声をかけてくることが多くなってきて、同時に鬼道がいかめしい顔付きでこっちを見てくるのが増加したのも気のせいか。
疑わしきは罰せずなどと言うが鬼道の場合、疑わしきは罰す。疑いをもたれようものなら、とことん追及するのが彼のやり方だ。
「そうなのか、春奈?」
「そうよ、お兄ちゃん。白鳥先輩はわたしと木暮くんにつらい過去を打ち明けてくれたの」
鬼道が確認するように春奈に尋ね、春奈は同情の眼差しを蓮に向けながら頷いた。蓮は、優しい眼差しとナイフの切っ先のような怒気を同時に受け止め、作り笑いで応対していた。
そのうち鬼道と蓮の間に横たわる異様な空気に気づいた円堂たちの視線が、自然とそちらに集中する。固唾を呑み、成り行きを見守っていた。
「……ほう、過去を打ち明けられたのか」
落ち着いた声音だが蓮は背筋を寒気が走り抜けるのを感じた。円堂たちが唾を飲み込む音がはっきりと聞こえる。
同情とも哀れむともつかない視線が背中に突き刺さる。
同情するなら助けて、と蓮は一応振り向いて、円堂たちに助けの視線を送るが、みなことごとく蓮から視線をそらした。一之瀬なんか親指を立ててごまかした。まさに万事休す。
蓮は油切れ掛かったブリキのように首を動かしながら、鬼道のゴーグルに目をやる。中の赤い切れ長の目が、探るような目つきでこちらを睨んでいた。
「先輩はわたしたちとは違うけど、悲しい形で両親を失っているの」
春奈が沈んだ口調で鬼道に語り、鬼道の目が見開かれた。円堂たちが驚いたように蓮へと視線を向ける。木暮だけは眉根を寄せていた。
蓮は四方八方から飛んでくる視線を受け止めながら、春奈に目配せをした。控えめに春奈は首を縦に振ると、
蓮は鬼道を見ながら、淡々と自分の過去を語った。ついでにどうして春奈に話すことになったのかもきちんと説明した。
長いこと語った蓮を、鬼道は、円堂はずっと無言で見つめていた。
鬼道の表情は疑うようなものから、徐々に哀れむようなものになっていた。そして勘違いして申し訳ないという思いも顔に表れ始めていた。円堂たちも複雑な表情で蓮の話を聞いている。
やがて蓮が語り終えると、
「……春奈、円堂の横に座れ。白鳥は俺の横に座れ」
鬼道は静かに指示を出し、蓮は春奈と席を入れ替えた。
隣に座る鬼道はいつもの落ち着いた顔つき。ゴーグルの奥の瞳は穏やかな色をしていて、蓮は心内でほっとため息をつく。鬼道はお冠ではないらしい。
「すまない白鳥。オレは勘違いをしていたようだ」
すまない、と開口一番に鬼道は蓮に謝った。
何を、と聞こうとしたが聞くのも気が引けるので、蓮は聞かずにおいた。
「ううん。気にしていないから」
「一つ気づいたが」
鬼道は前置きすると、
「この前まで自分がお荷物だと感じていることを隠していたな。それは両親の死に方と関っているんじゃないか?」
円堂たちがどよめく。
蓮は考え込むように目を伏せると、訥々(とつとつ)と語りだした。
「多分。何となくだけど、自分が迷惑をかけると、相手がいなくなる気がして怖いんだ。両親みたいに永遠に帰ってこないかも、って」
「だがオレたちは消えたりしない。むしろ思いをぶつけてもらわないと困るな」
安心させるように鬼道が口元に笑みを見せ、蓮は持ち前の明るい笑みを向けた。雰囲気が少し明るくなった気がする。
「そうだね」
「ところで」
鬼道は辺りを窺いながら、ぎりぎり聞き取れる位の声で蓮に耳打ちする。
興味があるのか座席の近くにいた何人かが身を乗り出して声を聞こうとしたが、蓮と鬼道に睨まれ、後ずさった。
「白鳥。お前は春奈のことをどう思う?」
蓮は鬼道の耳にそっと口を寄せ、ひそひそ声で、かなり早口で語りかける。
「明るくて優しいし……いい子だと思う」
「そうか。ならいい」
満足げに笑うと鬼道は腕を組んで春奈を見た。春奈は可愛らしく小首をかしげ、取り巻きの後ろにいる目金がポツリと呟く。
「……シスコンですね」
その後、蓮は鬼道と長いこと話し合っていた。春奈と鬼道の過去について散々聞かされた。勘違いは奇妙な友情へと変わったらしい。
「風丸?」
その夜、目が覚めた蓮は窓の外から声がすることに気がついた。眠い瞼を擦りながら窓の鍵を外し、窓を開ける。涼しい夜風が蓮の前髪を舞い上げた。風が声を運んでくる。
「どうしたんだよ」
心配するような円堂の声。窓の上から聞こえてくる。蓮は脇に丸めておいたジャージの上を羽織ると、みなを起こさないよう注意しながら外へと出た。木々がざわめく音を聞きながらキャラバンの屋根を見上げると、果たして円堂と風丸の後姿が見えた。二人とも足を崩して座っているようだ。蓮の方を向かない辺り気づいていないのだろう。風丸の青いポニーテールが暗闇の中でも、確認できるほど揺れている。
「円堂。オレたちはこのままでエイリア学園に勝てると思うか?」
「もちろんだ。みんな努力して、この前まで勝てなかったジェミニストームにも勝てたじゃないか!」
風丸が真剣な声で聞いて、円堂が明るく答える。風丸の表情は伺えないが、蓮は風丸が何か悩んでいる様子であることをうっすらと感じ取っていた。無言で二人の姿を見上げ、様子を窺っている。
「でも、この前のイプシロン戦はどうだ? デザームの放った必殺技にオレたちは、何もできなかっただろ」
「…………」
現実的な問題を風丸に突きつけられ、円堂は言葉を返せなかった。しばらく沈黙が二人を支配し、不意に風丸が沈黙を破るように呟く。
「“神のアクア”があれば」
“神のアクア”と言われても蓮ははっとした。“
神のアクア”は、フットボール・フロンティアの雷門中の決勝戦の相手——世宇子(ぜうす)中学校が使った飲み物だ。一見、ただの水であるが実は身体能力を一時的に向上させるドーピングアイテムなのだ。蓮は実物を見たことはないものの、円堂たちから話は聞いていたので知識はあった。苦戦した様子や、世宇子のキャプテン、アフロディなる人間が強いこと。美しくも華麗な選手らしい。アフロディと言う人間に蓮は興味を覚えたが、会うことはできないと諦めていた。
そして風丸は円堂に詰め寄る。横を向いたので、風丸の顔の輪郭が月に照らされはっきりと見えた。必死な顔つきで円堂を説得しようとしている。
(風丸くん、今すぐ強くなりたいの……?)
蓮は風丸の思いを読み取ろうと、目と耳に意識を集中させた。風丸の顔を見上げ、声を聞く。
「なあ、円堂。世界を救うためなら、“神のアクア”を使っても許されるんじゃないか?」
「風丸!」
円堂は非難するように風丸の名前を呼んだ。
「だってそうだろ!? エイリア学園もドーピングしているって鬼道が——」
声を荒げ、風丸は言葉を続けようとしたが、円堂に肩をつかまれて言葉を切った。
円堂は風丸の両肩をつかみ、風丸を見据えながら諭すように言う。
「あいつらがドーピングをしていたとしてしても。オレたちまでやったら、オレたちはエイリア学園と同じだ。勝つためにドーピングをするのはずるだ。努力すれば必ず勝てる」
力強く言い切った円堂の言葉を聞きながら、蓮は心の中で円堂に問いかける。
(でも努力で追いつけないときはどうすればいいんだ? 円堂くん)
すぐに効果が出ればいい。しかし努力の成果が出るのが遅ければどうなるのだろうか。このキャラバンの旅で求められるのは“早い成長”だ。エイリア学園は短期間でどんどん強くなる。こちらも素早く進化しないと敵わない。でもそのスピードに追いつけなけなくとも円堂はしっかり待ってくれるようだ。それが嬉しくもありプレッシャーでもあった。
「……そうだな」
片手で肩に置かれた円堂の手を払いながら、風丸は暗い調子で答えた。円堂がもう片方の手も外すと、風丸はまた前を向き、俯いてしまった。落ち込むように丸められた背中が蓮の黒い瞳に焼きつく。
「悪い。一人で考えさせてくれ」
風丸が沈んだ声で言って、円堂は無言で立ち上がる。そのまま地面へと降りる梯子の方へ進もうとしたとき、風丸が円堂を呼び止める。
「円堂。一つだけ教えてくれ」
円堂がゆっくりと振り向いて、
「この戦いは、いつになったら終わるんだ?」
蓮が答えられずに硬直している円堂を見ていると、後ろから小ばかにするような声が聞こえた。
「ふん。うつうつ悩みやがって」
「あ、アツヤ!」
円堂たちに悟られないよう、蓮は小声で叫びながら振り向いた。後ろにいたのは吹雪。しオレンジの瞳。逆立つ白い髪——アツヤだ。
気づかれたか心配なので後ろを見ると、円堂と風丸は対峙したまま固まっていた。
「よう白鳥。眠れないのか?」
「……なんだっていいだろ」
アツヤは蓮に歩み寄り、嘲笑めいた顔で蓮に声をかけた。蓮は強張った顔でアツヤを睨んだ。口調も自然と荒くなる。
「……お前、少しは瞳にある黒を薄めたようだな」
蓮の黒い瞳をじっと観察しながらアツヤは言った。今回は胸の奥にまで刺さるような視線ではなく、あくまで”観察”するような視線だ。恐ろしさは感じられない。
「わかるのか?」
蓮は強張った面持ちを崩さずに尋ねた。
アツヤは鼻を鳴らすと、白い歯をむき出しにして獰猛に笑う。すべてを見透かし得意になったような表情だ。
「ああ。でも、お前の分厚い黒の層は並大抵のことじゃ剥がせないな」
唐突に今日感じた懐かしい感じが身体の奥底から、這いずって来た。身体の内を焦がすような熱い思い。頭はしびれ、全身は火照る。蓮は暑さにふらつきながら、額をキャラバンの側面に当てた。心地よい冷たさが額を冷ます。
南雲や涼野の顔を思い浮かべながら、蓮は身体の熱にうなされるように言葉を零す。
「思い出そうとしても、思い出すことができない。手を伸ばせば届きそうな位置にあるのに、するりと僕の掌を通り抜けてしまう」
「……通り抜けた方がおまえの幸せになるからだろ」
アツヤを問いただそうと後ろを向いたとき、アツヤは”消えていた”。そこにいたのは穏やかな顔付きの——士郎の方だ。
「あれ? ボク、どうして起きているのかな」
アツヤとしての意識がないらしく、吹雪はせわしく辺りの様子を窺っていた。白いマフラーが風になびいている。
「アツ……暑いからじゃない?」
蓮は適当なごまかしをでっちあげると、
「わかったよ!」
吹雪は突っぱねるように同意した。
「へ?」
話がかみ合わずに蓮が聞き返すように声を出すと、吹雪は驚いた顔で連のほうを向いた。どうやら、蓮に気がついていなかったらしい。
吹雪は取り繕うように作り笑いを浮かべると、ゆっくりと蓮から後ずさる。
「ご、ごめんよ。独り言なんだ。じゃあ、おやすみ!」
言うが早いか吹雪は逃げるようにキャラバンの中へ消えていった。揺れる白いマフラーを目で追いながら、蓮はため息をついた。寒くないのか無色透明のまま空気と同化した。
キャラバンに背を当てたまま、蓮はずるずると崩れた。冷たさをジャージごしに感じながらしゃがみこむ。
地面にキャラバンの黒い影が伸びている。吹雪の中にある”アツヤ”と言う”影”を隠そうとした吹雪。でも、自分はもうアツヤのことを知っている。
(そういえば吹雪くんと僕が同じってどういうことだろう?)
〜つづく〜