二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナズマイレブン】〜試練の戦い〜四章完結♪ ( No.346 )
- 日時: 2011/03/17 16:31
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)
- 参照: 最後のコメントは消したなり。
それから雷門中サッカー部は、広い公園に来ていた。
円堂が練習をしたいと我を張り、瞳子も許可をしたので練習をすることになったのだ。公園には人口芝が植えられ、抜けるような青空の下に緑が広がる。雷門中サッカー部はユニフォームに着替えていた。
広いので練習できるスペースは十分にあるが、ゴールはない。
だが円堂がいる背後にゴールがあると思い、みなは思い思いに行動していく。
その中で蓮は、FWの位置に立たされ、染岡と共に駆け上がっていた。風丸たちを敵と見立て、抜くように鬼道に指示された。
当の鬼道は、少し離れた場所からじっと蓮の動きを観察している。
「抜かせるか」
足の速い風丸が、ボールをキープする蓮にスライデイングタックルをしかける。蓮は冷静に、空いている左サイドにパスを出した。すぐさま染岡が受け取り、ぼうっとする木暮を抜いた。そしてボールは再び蓮の元へ。
塔子と壁山が前に立ち塞がるが、蓮は塔子の左に行く素振りを見せた。
「ダメだよ、白鳥」
塔子と壁山が左に注意を向け、右側への注意が薄くなった。その隙を突いて、蓮は塔子と壁山の間を通り抜ける。
二人がフェイントであったことに気づいて、しまったという顔をした時には、蓮はすでに円堂の目の前に飛び込んできていた。一対一の決定的チャンスである。
「早いな、白鳥!」
試合ではふらつく蓮の姿しか見ていなかっただけに、円堂は蓮を見直した。
——そういえば白鳥は落し物や地震にすぐ反応するよな。そういえばイプシロンのボールもカットしていたな。
蓮が何かと敏感だったことを思い出し、円堂は納得する。蓮が右足を引いた。円堂も腰を下ろし、両手を前に突き出してシュート受ける体勢になる。
「くらえっ!」
勇ましい掛け声と共に蓮がボールを蹴った。
円堂から見て左側に向かって、まっすぐ飛んでくる。だがそれは円堂からするとかなり取りやすいボールだ。円堂はボールの元へ歩くと、両腕で包みこむように受け止めた。蓮は悔しそうな顔で肩をすくめる。
「あ〜。やっぱり止められた」
「なかなかいいシュートだぞ! 白鳥!」
円堂は蓮を褒めながら、ぐっと親指を立てて笑いかけた。蓮は照れ笑いをしながら、円堂に頭を下げる。
その光景を見ながら、鬼道は顎に腕を当てぶつぶつと独り言を呟いていた。
「白鳥は身体能力が高いようだな。だが……」
染岡と共に駆け上がり、風丸を相手にしたときのこと。今度は風丸が逆にフェイントを仕掛けた。右に動くように見えるようわざと身体を右に向けた。すると蓮はがら空きの左側を突破しようとし、風丸がほくそ笑む。
「あっ!」
蓮は進路を塞がれ、すれ違いざまにタックルを仕掛けられた。身体がバランスを崩した僅かな瞬間、ボールは風丸の足に張り付いていた。鬼道が片手を挙げて、それ以上動かないように指示する。
「あ〜僕の馬鹿ぁ。何度同じミスを繰り返せばすむんだ」
蓮は自分を責め、右手で拳を作り自分の額を軽く叩いた。そこへ腕を組んだ鬼道が近づいてきて、蓮は叩くのをやめる。
「おまえはフェイントに弱いようだな。反応が速すぎて、逆にフェイントを食らっている」
「フェイントなのか本気なのか、見極めるのが苦手なんだよなぁ」
「それと、お前は吹雪のようなパワーファイターも苦手だな。よく“ボールウォチャー”になっているぞ」
「……強引に突っ込んでくる子に気圧されてしまうんだ」
鬼道に自分の弱点を指摘され、蓮はしゅんとなりながら言った。
大人しい蓮は、普段から強気な人間に押されてしまうことがある。それがサッカーのプレーにも影響しているらしく、サッカーをこなす上で荒々しいプレイヤーは天敵だ。
相手が放つオーラや雰囲気に飲まれてしまい、ボールウォチャー(相手オフェンスやボールの動きに対応できず、ボールをただ見ているだけの状態になってしまった選手)になってしまうことがよくあるのだ。
「じゃあ、オレが特訓してやろうか?」
特訓を終えて、染岡とこちらに来た吹雪——アツヤがからかう様に提案して、蓮はむっとした顔付きになった。反射的にその提案を突っぱねる。
「おまえには頼まない」
蓮はアツヤに厳しい視線を向け、アツヤは小ばかにする笑みを返してくる。二人の間に漂う形容しがたい空気は、円堂たちを当惑させた。遠巻きに二人の様子を眺めている。
見かねた染岡が二人の間を割るようにして入り込み、双方をなだめる。
「おい、吹雪そんな口調で言うなよ。白鳥、お前は吹雪が嫌いなのか? よくこいつと楽しそうに話しているじゃないか」
「そっちはDFの吹雪。FWの吹雪とは違う」
「どっちも吹雪だろ」
警戒するような低い声で蓮が言い放ち、染岡は呆れた声を出して頭を抱えた。
“アツヤ”の存在を知るのは相変わらず蓮だけのようだ。FWになると性格が変わるのは、『試合のときは熱くなりやすい』と言うのが円堂たちの共通認識のようだった。
アツヤは蓮を嘲笑の表情で見つめ、蓮の面持ちがますます固くなっていく。そこへ、颯爽(さっそう)と瞳子と紅葉が現れた。
円堂たちの視線は自然とそちらに向き、アツヤは最後にもう一度口元を歪めて蓮を見た。その挑発的な表情に蓮は怒りを覚えたが、表には出さずに瞳子を見た。アツヤも瞳子を見る。
「次の目的地は愛媛よ」
瞳子は円堂たちを見渡しながら言って、紅葉に向き直る。
「紅葉さん、説明してもらえるかしら?」
「みなさまは、愛媛で子供が誘拐される事件についてご存知でしょうか?」
「誘拐事件? エイリア学園と何の関係があるんだよ」
染岡が聞いて、紅葉は淡々と答える。
「サッカーが上手い子供たちが次々と誘拐され、行方不明になっているのです。そしてその誘拐犯連中は、『エイリア学園』と名乗っています」
『エイリア学園』と言う単語を聞いた途端、円堂たちの顔色が不安げなものになる。“名乗っている”だけではエイリア学園かどうか判断がつかないため、鬼道や蓮は難しい顔をした。
「エイリア学園の名前をかたっているのかよ!?」
「僕たちをおびき寄せるため、かな」
信じられないと言わんばかりに染岡が声を張り上げるのを聞いて、蓮がふっと脳裏によぎった可能性を呟く。本当は頭で考えていただけなのだが、いつの間にか独り言になっていたようだ。円堂たちがええっ!? と一斉に驚きの声をあげてから、蓮はそのことに気がついた。
目を丸くして円堂たちの驚愕の視線を受け止める蓮は、迷子の子供のようだ。
紅葉はおろおろする蓮を余所に説明を続ける。
「わかりません。ですが、命からがら誘拐犯の元から戻ってきた子供たちは、みな『エイリア』と言う単語を呟いているようです」
エイリア学園である可能性が濃厚になるにつれ、円堂たちは腕を組んだり、顎に手を当てたりと各々の姿勢で考え込み始めた。風丸が腕を組んで唸る横で、頭を使うのが苦手な円堂はすぐに音を上げた。退屈そうに持っていたサッカーボールをいじり始める。
その時、明るいノリの曲が辺りに響き渡った。円堂たちは、顔を上げ、音の震源——鬼道へと一斉に注目した。鬼道は口をぽかんと開けていたが、すまないと言う様に片手を挙げると、ポケットに手を突っ込みながら円堂たちから離れていく。聞かれたくない相手なのだろうか。鬼道はポケットから携帯を取り出すと、円堂たちから2mほど離れたところで立ち止まって、通話ボタンを押した。
「オレだ」
『鬼道!』
電話口から鼓膜が破れそうな大声がして、鬼道は反射的に携帯から耳を離した。離れている円堂は、電話の内容に興味があるのか鬼道の下へと歩み寄ってくる。後に何故か蓮が続く。鬼道は円堂と蓮の姿を確認すると、声量を落として電話の主に話しかける。
「氷冷(ひょうれい)か? どうした?」
『今どこに向かっている!?』
「え、愛媛だが」
氷冷の焦っている声に、鬼道は戸惑いながら答えた。すると電話の向こうが無言になる。電話の向こうからは、命令する怒号とバタバタと走り回る音がする。しばらくして氷冷がかなり早口で、
『実は佐久間と源田が』
そこから先は聞き取れなかった。
『こら〜!』
可愛らしい間の抜けた声がした直後、氷冷が怒鳴る声がした。どうした、と鬼道が電話に語りかけるが、返ってきたのは無機質な、つーつーと言う音だけだった。氷冷は電話を切ってしまったようだ。
「い、今の声は洞面(どうめん)か?」
鬼道が呆然としていると、円堂が明るく声をかけてきた。
「どうした、鬼道?」
「帝国学園のメンバーから電話があったが……すぐに切られてしまった」
「何かあったのかな?」
蓮が不安そうに目を細め、鬼道は首を振る。
「わからない。だが愛媛につけばはっきりするだろう」
この時、鬼道はかすかだが異様な胸のざわめきを覚えた。心臓を作る細胞一つ一つが、何かを訴えるかのようにむずむずするのだ。だがすぐに消えてしまったので、鬼道はさほど気にはしなかった。
〜つづく〜