二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナズマイレブン】〜試練 ( No.354 )
- 日時: 2011/03/19 10:36
- 名前: 携帯しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: ZgrHCz15)
- 参照: 携帯なのでコメント返しできません(-_-;)
「僕達、あまり歓迎されていないみたいだね」
蓮が、隣にいる吹雪に声を潜めて話しかけて、
「そのようだね」
吹雪は静かな声で同意。蓮の脇にいる染岡が、不安げな面持ちの吹雪と蓮を守るように、前に立ちふさがり、
「ったく。愛媛はどうなってるんだよ」
小さく悪態をついた。
京都を立って早くも数日が過ぎ、蓮たちは愛媛にやってきていた。
愛媛は、日本でも有名な温泉地の一つだ。現在蓮たちがいる市街地は、小高い丘の上にある。まっすぐ進めば川とぶつかり、やがて埠頭(ふとう)に出る。埠頭は工業地帯特有のもので、遠くからでもうっすらとクレーンの姿を確認することができる。
道の左右には、小綺麗な旅館風の建物と土産屋が軒を連ねている。旅館の近くには無料の足湯もある。円形の石造りの台座には、同じく石を削って彫られた龍が、開けた口からお湯を注いでいた。時折、風に乗って硫黄の香りが漂って来た。
この時期、愛媛は込み合うのが常なのに、温泉街は閑散としていた。土産屋は全てシャッターを締切ってしまい、いくつかの足湯は水が濁っている。人の姿もほとんど見受けられない。
活気が見られず、寂れた温泉街のようだ。蓮が以前TV番組で見たときには、ひなびた雰囲気の温泉街だったのだが、名残すら見られない。閉じられたシャッターに張られた張り紙を、蓮はやるせない表情で眺めていた。
そして僅かにいる人々は、刺すような視線を、立ち止まっている蓮たちに向けてくる。罪人を見る瞳そのもの。言葉にせずとも、蓮たちが歓迎されていないのは明らかだ。
円堂が人々の警戒を解こうと、大きく手を振りながら近づこうとして、人々に逃げられた。
「オレたち嫌われているんッスかね」
壁山が遠くなる人々の背中を悲しげに見送りながら、肩をすくめた。短気な染岡などは、人々に文句を言おうと足を一歩踏み出していた。鬼道がなだめ、一生懸命引きとどめていた。
「こんな状態じゃあ、話も聞けないよ」
染岡の背中から顔を出して、辺りを見渡しながら、蓮は嘆いた。
情報は紅葉とネットが教えてくれた、サッカーが上手い子供が誘拐されている、と言う事実のみ。現地で話を聞けば、何とかなるだろうと踏んだ円堂たちだが、考えは甘かった。
愛媛では子供たちがさらわれるせいで、現地の人々は観光客のような外部の人間を疑うようになっていたのだ。
「誘拐事件のせいで、皺寄せが、僕達よその人間に来ているのかも」
勘が鋭い蓮がずばり言い当てて、鬼道が顎に手を当てて考え込む。円堂たちは、蓮の意図を掴めないらしく、怪訝な顔つきで蓮を眺めている。壁山は栗松と確認しあいながら、議論していたが、双方わかっていなかった。とちんかんな言葉が飛び交う。
「それもあるだろう。しかし、観光客が減った苛立ちもあるのではないか?」
「死活問題だしね」
円堂たちの顔色が険しくなった。今の言葉で風丸や夏未は理解したようだが、壁山や栗松はきょとんとしている。
そのことに気がついた鬼道が、説明をした。
「つまり、だ。愛媛の人々は、生活への不安と、オレたちが誘拐事件の犯人ではないかと言う猜疑心からあんな態度をとっているのだろう」
「そうなのか!」
円堂が納得したような、していないような、声で叫んだ。すぐにう〜んと悶えている辺り、わかっていないのだろう。
壁山と栗松が困った顔で互いを見つめあっているのを見、蓮は助け舟を出す。
「子供が誘拐されたのも、観光客が来ないのも僕達のせいかもって疑っているんだ」
「ひ、ひどいッス」
「むきー! オレたち何もしていないでヤンス!」
蓮のシンプルな説明で理解した、壁山と栗松は憤る。
でも、と蓮は制し、二人をなだめるように言葉を続ける。
「でも忘れないで。愛媛の人たちは、不安なんだ。僕達は、その不安を取り除きに来たんだ」
「え、それ本当!?」
その時、円堂たちのものではない高い声がした。
蓮たちが声の方に目をやると、茶色い髪をした男の子がいた。興味津々でに視線を蓮たちに投げ掛けている。
「どうしたのかな?」
皆を代表して円堂が、男の子の前に進み出て、目線が対等となるようしゃがんだ。
男の子は、必死な声で円堂に頼み込んできた。
「お兄ちゃん! ユウを助けて!」
〜つづく〜