二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナズマイレブン】〜試練の戦い〜四章完結♪ ( No.356 )
日時: 2011/03/19 16:19
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)
参照: 2ページになりそう。

「ユウくん?」

 円堂が問い返すと、男の子はしっかりと頷いた。

「ユウはとてもサッカーが上手くて、この前エイリア学園に連れて行かれちゃった。でも、何とか逃げ出して、帰ってきたんだ。でも、帰ってきてから様子が変なんだ」

「変って?」

「話しかけても返事しないし、大好きなサッカーもやらなくなったんだ」

 その言葉にエイリア学園に何かされたのかな、と円堂は考える。同意を求めるように雷門イレブンをちらりと見た。
 何か思うところがあるのか蓮だけは物思いにふけっていたが、円堂の視線に気がつくと顔を上げてにこりと笑った。他の仲間たちも、似たようなことを考えているのか、円堂の視線をしっかりと受け止めて返し、小さく首を縦に振った。

「じゃあ、オレたちが話しかけてみるよ。ユウくんはどこにいるのかな?」

「ユウは川辺にいるよ。いっつも一人でいるんだ」

 温泉街をまっすぐ進むと橋があった。石で作られた、幅2メートルほどの橋。車は通れず、往来するのは自転車と歩行者ばかり。橋を渡ってしまえば、そこは住宅街と旅館が混在する少し変わった景色へと変貌する。右手の建物の真下には川が流れている。横幅は2,3メートルありそうだが、深さはあまりない。川の流れは穏やかで、簡単に向こう岸に渡れそうだ。対岸には、多くのみかんの木が群生している。よく熟れたオレンジ色が自分の存在を主張するようになっている。壁山がそれを見てよだれを垂らしながら橋を渡り、木暮にたしなめられていた。
 
 サッカー部の人数が十何人もいるのだ。通行人の邪魔にならないよう、円堂たちは橋の脇に寄りながら、身を乗り出してユウスケの姿を探していた。
 その時、春奈が何かに気がついて、ある一点を指差しながら、大きな声を上げる。たまたま側にいた蓮は、ジャージの袖を鷲掴みにされ、春奈と同じ方向に強制的に向かせられた。

「キャプテン! あれがユウくんじゃないですか!」

 春奈が指差す先には、遠目だが、男の子の姿がはっきりと捉えられた。小学校低学年くらいの栗色の髪を持つ少年。短パンにTシャツと活発そうな格好だ。ずっと下を向き、川の水面を見続けている。騒ぐわけでも動くわけでもなく。じっと彫像のように佇んでいる。

「あれがユウくんだな。よし、みんな行くぞ!」

 円堂はユウの姿を確認すると、雷門サッカー部に声をかけてユウの元に直行する。
 橋を渡りきり、河川敷へと降りる階段の元まで走ると、一気に駆け降りた。川は飲めば体調不良を起こしそうな色をし、陽光を鈍く反射して煌いていた。魚が住むどころか、人の飲み水としても使えそうにない川だ。
 愛媛の河川敷は、雷門町の河川敷と違い、整備がされておらず砂利だらけ。そのせいで円堂たちは、足元の石に足をとられそうになったが、懸命にユウの元に寄った。

 だが、途中で蓮の足が遅くなってきた。円堂たちがどんどん遠ざかっていく。苦しそうに喘ぎながら、懸命に足を引きずって円堂たちの後を追おうとする。蓮の異変に気づいた吹雪が、立ち止まって蓮の元に戻り、「大丈夫?」と心配そうな顔付きで声をかける。蓮は「へーきへーき」と気丈を振舞うが、息は荒くなる一方で、声も弱々しかった。

「肩を貸すからいっしょに歩こうよ」

 吹雪が蓮に片手を差し出しながら笑いかけ、蓮は返事をする代わりに持てる限りの力で笑みを見せた。吹雪が差し出した手をしっかりと掴んだ。吹雪は蓮の腕を自分の肩に回し、空いた手で蓮の身体を支える。

 一方、蓮たちから離れた場所では。
ユウが、円堂たちの靴が砂利を踏みしめる音に反応したのか、一瞬だけ振り向いた。その瞳は、生気を感じない光の灯らない目だった。ユウはすぐに視線を川の方に戻してしまった。

「お〜いユウくん」

 気さくに円堂がユウの背中に声をかけるが、ユウは振り向かなかった。
 川のせせらぎが耳に涼しく、わりかしら温暖な愛媛の気候に汗をかいている円堂たちの気分をさわやかにした。

「こんにちは、ユウくん!」

 聞こえていないのかと思ったのか、円堂は先ほどよりも大きな声でユウに話しかける。しかしユウが動くことはなかった。円堂たちなど川辺の石のように思っているのか、何の反応も見せない。円堂たちとユウの間に響く川のせせらぎが空虚感を増大させた。

「弱ったなぁ」

 困ったように円堂は頭をかく。そして蓮と吹雪の姿が見えないことに気がついた。慌てて辺りを見渡し、後ろを向いたとき蓮と吹雪の姿を見つける。

 吹雪の肩に腕を回し、反対の腕で支えられながら、蓮は重い右足で踏み出し、引きずるように左足を前に出して進んでいた。苦痛に耐えるように唇をかみ締め、唇の輪郭がうっすらと赤色に浮かび上がっている。大地を一歩一歩踏みしめるような歩き方で、速度はかなり遅い。時折ふらついて倒れそうになり、吹雪が懸命に起こしていた。吹雪は蓮の歩調にあわせゆっくりと歩く。文句も言わず、蓮を励ましていた。

 ゆっくりとこちらに向かってくる蓮と吹雪のため、鬼道たちは一歩身を引いて道を開ける。蓮のつらそうな表情を見ながら、不安げに前へ進む蓮を凝視していた。
 円堂はだるそうな蓮に駆け寄ると、蓮は吹雪に身体を預けたまま目を閉じていた。

「キャプテン。白鳥くんのこの症状って、ジェミニストームのときと似ているよね?」

 蓮の顔には汗がびっちりと顔に張り付き、乱れた呼吸をしている。確かにジェミニストームとの戦いのときに起こした症状によく似ている。胸が痛み、頭がぼうっとする。ただ胸を押さえていないし、歩ける等ジェミニストーム時に比べれば幾分か軽い気もする。
 円堂は、蓮の頬を平手で軽く叩きながら呼びかける。

「白鳥大丈夫か?」

「……う、ん。へーき、だよ」

 すると、蓮は黒い瞳を半分ほど開き、ゆっくりと上半身を起こしながら、うわ言のように答える。息を吐くテンポは大分短くなっているが、頬の赤みは増し、黒い瞳は潤んでいる。熱があるように見えた円堂は、自分の額を蓮の額に押し当てた。少し熱かったので、反射的に身を引く。それを見た雷門中サッカー部は蓮をいたわる様に一瞥してから、警戒気味に辺りを見渡す。エイリア学園が近くにいると思ったのだ。

「まさか近くにエイリア学園がいるのか?」

 しかし辺りにはユウ以外誰もいない。
ユウに話しかけても無視されるだけなので、円堂たちは一度引き上げることにした。今度は円堂がぐったりしている蓮の肩を支え、来た道を引き返す。
 何故かユウから距離を置くたび、蓮の顔色がどんどんよくなった。頬の赤みは健康的な肌色に戻り、潤み閉じられていた瞳が完全に開かれる。姿勢も正しくなり、歩くスピードも早くなった。やがて円堂の支えなしでも平然と歩き回るようになり、円堂たちを安堵させた。

「もう大丈夫だよ!」

 階段を上り終えると、蓮は今までの症状が嘘であったように元気に跳ね回って見せる。円堂たちは微笑みながら蓮に視線を向ける。ジェミニストームのことを知らない木暮には、春奈が今までのいきさつを説明をしていた。
 しかし蓮が回復したことを喜ぶこともつかの間、ユウから話を聞き出せなかったという事実は雷門中サッカー部を悩ませていた

「話は聞けなかったな」

 風丸が残念そうに言って、円堂たちが一斉に頷く。

「う〜ん。どうすればいいのかなぁ」

 蓮が呟くと、ユウの友達である男の子がある提案をしてきた。

「だったらユウの父さんに話してみたら? ユウの家はすぐ近くなんだ」