二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナズマイレブン】〜試練の戦い〜四章完結♪ ( No.357 )
日時: 2011/03/22 07:56
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)
参照: すいません;;親が帰ってきたので、コメント返しはまた後でにします

 「こっちだよ!」と元気に走っていくユウの友達を追うこと数分。川からさほど遠くないところにユウの家はあった。いや、家と言うより店でだろう。小奇麗なスポーツショップだった。客は一人もいない。ガラス戸の向こうには、バスケットボールやサッカーボールが整然と並べられている棚が見える。奥にあるカウンターでは、一人の男が上に設置されたTVに目をやっていた。恐らくユウの父親だろう。後姿がどことなくユウに似ている。
 
 ユウの友達は遠慮せずに、スポーツショップの中へと続く扉を押した。円堂たちも後に続く。少しほこっりぽい臭いがした。
 ちりんちりんとドアの上に下げられたベルが心地よい音で来客を告げ、男が「いらっしゃいませ」と気の乗らない声で応対しながら、振り返る。
 40を過ぎたくらいの黒縁めがねをかけた優しそうな男だ。直後、目を限界まで見開くと、座っていたパイプ椅子を蹴り倒しながら立ち上がった。

「あ、あなた方は雷門中サッカー部のみなさん!」

 思わぬ来客にユウの父親は、興奮で声を上擦らせながら、円堂たちを見やる。憧れの人間に会えたという恍惚の表情を浮かべていたが、すぐに真顔に戻る。
 倒したパイプ椅子を元に戻し、カウンター上に置かれたリモコンでTVを消した。ユウの父親が、リモコンをテーブルに置くのを確認すると、鬼道が前に進み出て話を切り出す。

「失礼ですが、ユウくんがエイリア学園から戻ってきたとお聞きしたのですが」

 ユウの父親は、ユウを見つめるように店の外へと目をやった。そして、小さくため息をつきながらパイプ椅子に腰を下ろす。

「なるほど。息子に話を聞きたくてここまで来たのですね。ですが、息子はごらんの有様です。毎日食事もろくにとらず、ああしてずっと川辺で一人、水の流れを眺めています。話しかけても言葉はユウスケの心に届かず、どうすればよいのかわかりません」

 ユウの父親は沈痛な面持ちで両肘をカウンターについて、頭をくしゃくしゃと掻き始めた。初めは平静を装って落ち着いた声音で話していたが、だんだん悲しむようなものになっていった。
 息子を心配する父親の気持ちに、円堂たちは同情しながら、ユウを救ってやりたいと決意を新たにした。しかし上手い方法が思いつかず、どうにもならない。

「エイリア学園に攫われて、怖い思いをしたんだろうな」

 蓮が同情するように口を開いて、円堂が何か思いついたような顔付きになる。考え込む蓮たちを見渡しながら、大声で叫んだ。

「じゃあ話は簡単だ! 大好きなサッカーをやって、嫌なことは全部忘れればいいんだ」

「そう簡単に言うけど、話しかけても無反応だったじゃないか。どうするの?」

 蓮に問われ、円堂は黙った。数秒ほど唸ると、嬉々とした表情でカウンターに近づく。カウンターから身を乗り出し、ユウの父親は少し身を引いた。円堂は、ユウの父親に顔を近づけて勢いよく尋ねる。

「そうだ、ユウくんのお父さん。ユウくんが、サッカーをやっていたときの品物ってありませんか!?」

「ス、スパイクならあるが」

 円堂の気迫に押されたユウの父親は、戸惑いながら返事をした。パイプ椅子から離れると、ボールが並べられた棚に近づく。円堂たちが好奇のまなざしを向ける中、ユウの父親は棚の一番上に置かれた箱を取り上げて戻ってきた。カウンターに置かれた箱を見ようと、雷門中サッカー部が周りに集まる中、ユウの父親は箱の蓋を外す。
 中には、紙で包まれたスパイクが入っていた。子供向きの小さいもので、緑の地にグリーンのラインが通っている。あちこちに泥がついていて、靴紐も汚れていて、相当使い込まれていることが分かる。

「これ、借りてもいいですか?」

「ああ。構わないよ」

 紙を外すと、円堂は箱の中からユウのスパイクを取り出して聞いた。断られても持って行きそうな雰囲気で蓮はひやひやしたが、ユウの父親はあっさり承諾してくれた。ユウのスパイクを掴むと、円堂は張り切って店を飛び出していく。
 蓮たちは慌てて円堂の後を追い、河川敷へと向かった。

 円堂が河川敷に降りる階段を下りた頃、蓮は染岡にユウに近づくことを止められていた。「ユウに近づいて体調が悪くなら、ここで待ってろ」と言われ、蓮は染岡の行為に甘えることにした。その際、吹雪が留守番役を買って出てくれて、蓮は吹雪と共に遠くから成り行きを見守ることになった。

「みんな。ユウくんをよろしく! みんななら大丈夫だ」

「ボクがしっかり白鳥くんを見ているから大丈夫だよ」

 階段を下りていく染岡たちに蓮が応援の言葉を投げかけ、大きく両手を振る。その横では、吹雪が染岡たちを安心させるように声を送った。別に逃げるわけではないので、蓮は少し苦笑していた。
 染岡たちは一度階段の途中で振り向くと、力強く頷いた。染岡などは、

「この染岡様がいりゃあ、サッカーの楽しさなんてすぐに思い出せるぜ」

 軽い口調だが頼もしいことを言って、親指を立てた。蓮は吹雪と共に親指を立てて返す。染岡はまかせろ言うように笑うと、階段を駆け下りていく。円堂はユウから少し離れた場所で染岡たちを待っていた。
 染岡たちが円堂に駆け寄ると、円堂は先陣を切ってユウに近づく。相変わらずユウは、円堂たちを無視していた。円堂は片手にスパイクを持ち、ユウの肩を掴んだ。
 ユウは小さな身体を震わせ、青ざめた顔でこちらを振り向く。円堂の手を乱暴に払いのけ、逃げ出そうとする。

「安心してくれ。オレたちはキミの敵じゃない」

 円堂が安心させるようにユウに語りかけながら、借りてきたスパイクを前に出した。それを見た途端、ユウの顔付きが変わる。怯えた顔が不思議そうな顔になる。

「あ、そのスパイク」

 ユウが言葉を零すと、円堂は明るく白い歯を見せて笑った。

「キミのお父さんからもらったんだ。お父さん、すっげー心配してたぜ!」

「……キミたちはだあれ?」

 少しは信頼してくれたようだが、まだ警戒心が残っている顔でユウが聞いてきた。円堂は、ユウにスパイクを返すと、片手で染岡たちを示しながらはっきりと答える。

「雷門中サッカー部だ」

「え、雷門中? じゃあぼくを助けてください!」

 その言葉を聞くと、ユウの顔から警戒心が消えた。真剣な声で助けを求めてきた。
 円堂たちはもちろん承諾し、ユウに守るという意志を見せるためポーズをとったりして見せた。    
 ユウは安堵したような怖がるような表情で、辺りを窺いながら話を続ける。

「何とか逃げてきたのですが、追っ手が来ていて」

「大丈夫だ。オレたちがついている」

 鬼道が断言し、ユウの肩に両手を置く。そしてユウを守るように、雷門中サッカー部の中に入れ、ゆっくりと階段に向かい始めた。

 ユウが近づくたび、蓮は異様なだるさに襲われる。身体がふらつき、また吹雪に身体を支えてもらった。
 ユウは雷門中サッカー部に守られながら階段を上りきると、はっとした顔でズボンのポケットに手を突っ込んだ。

「あ、そうだ。ぼく、この石を押し付けられたんです」

 ユウが円堂に差し出したのは、ペンダントだった。500円玉ほどの大きさで、6角形にカットされた紫色の石に、首にかけられるほどの長さの黒い紐が通されている。
 
 円堂はその石を見て寒気を覚えた。石の色は禍々しい紫で見ていて気持ちが悪い。宝石のようにきれいにカットされているのだが、どうしても綺麗とは思えなかった。底が見えない奈落のような闇を感じさせた。見ていると引き込まれそうで怖い。
 その時、円堂は風丸の声で我に返った。見ると、全員が焦った顔で蓮に注目している。

「白鳥、おい! 大丈夫か!?」

 見ると、吹雪に身体を支えられた蓮が呻き声を上げていた。苦痛で顔をゆがめながら、荒い息共に必死に言葉を吐き出している。風丸が耳を近づけて掠れた声を一生懸命聞こうとしている。

「この石見ると……すごく……くる、しい」

 蓮が苦しんでいたのはこの石のせいだったらしい。 どう見てもアメジストの変種などにしか見えないのだが、なにやら特殊な力があるようだ。風丸はこわばった顔でユウが差し出す石をにらみながら、鬼道に目をやる。

「鬼道、もしかすると白鳥がジェミニストーム戦のときにふらふらしてたのは、この石のせいじゃないか?」

 鬼道は腕を組むと、用心深くペンダントに顔を近づけ、顔をしかめた。

「これが、やつらの言っていた“エネルギー”である可能性が高いな」

「これが”エネルギー”……」

「でも、これはただの石にしか見えないッスね」

 風丸は石をじっと見つめ、壁山が恐々とペンダントを覗き込みながらのんきに呟いて、近くにいる蓮が喘ぎながら、必死に円堂たちに懇願する。

「おねがい。はやく……こわすかなにか……して」

 その言葉が通じたのか、円堂たちは憎憎しげにユウの掌を睨んだ。気にはなるが、仲間を苦しませる“嫌な”ものであることには変わらない。早く壊すに限る。
 染岡がジャージの袖をまくりながら、どかどかと大股でユウの差し出す掌まで近寄った。

「あっても白鳥が苦しむだけだし、さっさと壊しちまおうぜ」

「よし、じゃあオレが……」

 近くにいた円堂がユウの掌に乗せられたペンダントに手を近づけ、紫の石に円堂の指が触れた瞬間。石が欠けた。円堂の指が触れたところだけがポロポロとビスケットのように崩れる。円堂が驚いて石から指を離した瞬間、石に縦横無尽に亀裂が入り始めた。ガラスがきしむような音を立てながら、ヒビは蜘蛛の巣状に広がる。
 やがてガラスが割れるような音がし、紫の石は木っ端微塵に割れた。砕けた欠片はユウの手から零れ落ち、その姿をパステルカラーの砂に変えて消えていった。パステルカラーの砂は地面に落ちて消えるか、風に流されて見えなくなる。
 
 わずか5秒ほどの出来事を、円堂たちは瞬きもせずに凝視していた。石が砕けると同時に、蓮が喘ぐのをやめた。呼吸もいつもどおりに戻り、顔色もよくなっている。
 しばらく無言が続き、円堂がようやく声を張り上げた。

「え、く、砕けた!?」

「ようやく見つけたぞ小僧め!」

 石のことが気になるが、悩んでいる暇は与えられなかった。
 男の声がして、ユウが円堂の背中に隠れる。

〜つづく〜