二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナズマイレブン】〜試練 ( No.360 )
- 日時: 2011/03/22 12:20
- 名前: 携帯しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: ZgrHCz15)
- 参照: お知らせあり。
謎の石が砕けたことを、驚くことを許さないように、野太い男の声がした。ユウがびくっと身を震わせ、円堂の背中に隠れる。ジャージの裾を強く握り締め、目をきつく閉じて身を縮めていた。
ユウの様子がおかしいことに気がついた円堂たちは、一斉に声の方を見つめ——蓮と塔子だけが。はっとした顔つきで、声の主を眺める。
以前夕香が描いた、『あやしいおじさん』の絵がそのまま実体化した連中がそこにいたからだ。
背丈は円堂たちより遥かに高く、ニメートルはある。血の気を感じない肌の色をした顔で四十代を過ぎたおじさんに思える。連中に、髪は一本もなく、禿げ頭である。目を覆うのは、黒いフレームに赤いガラスをはめ込んだ怪しいデザインのゴーグル。濃い紫のハイネックセーターを着込み、上に丈の長いジャーンパーを羽織っている。連中は、分身の術でも使ったように、同じ背格好の奴らが五人横にならんでいる。
蓮は夕香の絵を思い出しながら、塔子に視線を向けると、塔子は頷いた。どうやら様子を見よう、と同じことを考えていたらしい。
横に並ぶ男たちは、円堂たちに気がつくと、苦虫を噛み潰した顔になった。五人は一斉に舌打ちし、
「ちぃ。雷門連中が、何故ここにいる」
「関係ない。奴らを潰し、あの小僧から石を取り返すのだ!」
男の一人が強く言い放ち、円堂たちに詰め寄ってくる。
蓮たちは、男たちを睨み据えながら、ユウを守るように円堂を取り囲み、円堂は両手を広げ、戦う意思を男たちに示す。辺りにいた人々は円堂たちから離れ、不安げに様子を伺っている。
「ガキごときに、なにができる!」
不意に男の一人が、両腕を振り上げて蓮たちに躍りかかってきた。出さない辺り、どうやら、銃やナイフなどは持ち合わせていないようだ。
蓮は、それを確認すると、不適な笑みを浮かべ、勇敢にも男に突っ込んでいく。たじろいでいた円堂たちが、止めようと手を伸ばすが、蓮は上手く身体を動かして避けた。
「白鳥先輩!」
「うわっ!」
春奈が止めるように蓮の名前を呼んだ直後。恐怖で固まっていた木暮の身体が男の強烈なタックルで宙に舞った。それを合図に、残りの男たちも攻め混んでくる。
雷門はめちゃめちゃだ。男に怖じけづき、逃げ出すもの。恐怖で固まり、男たちを見送ってしまうもの。何人かは、男たちに立ち向かったが、大人の力には敵わず、吹っ飛ばされ、身体が地面に叩き付けられた。
「みんな!」
円堂は、叩き付けられた風丸たちを気遣かう声を飛ばす。だが、仲間の心配をしている暇はなかった。三人の男たちが、円堂に近づいているのだ。距離はもう、30センチメートルとない。ユウが裾を掴む力が、一層強くなるのを、円堂は感じた。
「大丈夫だ、ユウくん」
円堂は庇うように、片手を広げて、迫り来る男たちと対峙する。男たちは、円堂の背中からユウを引きずり出そうと、片手を伸ばした。円堂になすすべはなく、男たちのての一本が、円堂の手を払いのけ、裾を握る小さな手に伸ばされた。円堂は、悔しそうに後ろを向いた。ユウが泣き叫ぶ。
その時、男の手がユウの腕を掴む寸前で凍り付いた。円堂が反射的に前を見ると、地面に華麗に着地し、にっこりと微笑む蓮と吹雪の二人がいた。
「頑張ったけど、危なかったね、キャプテン」
「ぎりぎりセーフだよ。円堂くん」
二人に労いの言葉をかけられ、円堂は状況を理解できないまま辺りを見渡す。
四人の男たちが、そっくり返った姿勢で氷の彫刻になっていた。透明な氷は、陽光を受けて、その輪郭を際立たせ、光を反射して七色に輝いている。氷らされた男たちは、罰を受けて氷にされた囚人のようだ。周りにいる仲間たちは、つついて遊んだり、感心そうに眺めている。
円堂は、氷の一つに歩み寄る。ひんやりとした冷気が、肌をくすぐる。
まだ怯えているのか、ユウは円堂の背中から恐々と顔を出しながら、氷の男を見上げていた。円堂は、手でグーを作ると、氷を軽く叩いた。中々固く、拳がじんじんする。そして、手が冷えた。
「よく凍ってるでしょ?」
蓮が吹雪を伴いながら円堂の元に来て、得意そうに言った。
「もしかして、〈アイスグラウンド〉と〈アイススパイクル〉で氷付けにしたのか!」
円堂が気づいて声を張り上げると、蓮と吹雪は互いを見合い、小さく笑い声をたてた。
「そうそう! 二人の合作『氷のエイリアン』だよ。ねー吹雪くん」
「キミとの合作、とても楽しかったよ」
蓮が冗談めかした調子で、吹雪に同意を求めた。吹雪は吹雪で、楽しそうに答えた。
あまり捻っていないタイトルに円堂は、思わず失笑した。
しばらく和気あいあいと話していた三人だったが、春奈の何気ない一言で、それは止まる。
「あら? 木暮くんは?」
木暮の姿が、忽然と消えていた。
〜つづく〜