二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナズマイレブン】〜試練の戦い〜え、参照6000? ( No.376 )
日時: 2011/03/26 18:21
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: ZgrHCz15)
参照: 1ページ目w

 『影山 零治』の名を聞いた途端、円堂たちは計ったかのように瞠目した。中でも鬼道はひときわ大きく目を見開き、驚きの光を宿している。口まで無造作に開けられている。
 普段、わりかしら落ち着いている鬼道が、ここまで感情を顕にするのを蓮は初めて見た。誰が見ても感情を理解できるはっきりとした顔つき。蓮はその顔と円堂たちの顔を交互に眺めていた。

 鬼道はふらつく身体を支えるように、一歩後退した。顔中に冷や汗が張り付き、表情も凍り付いている。風丸が「おい、鬼道。大丈夫か?」と声をかけ、鬼道は戸惑いながら返事をする。思い詰めた顔で憎憎しげに塀をにらんだ。
 一方、影山がわからない蓮は、呆然とした表情で鬼道と風丸を見ていた。その横で、円堂が円堂にしては小さな声を上げた。

「か、影山がいるんですか!?」

「……ね、影山って?」

 蓮が遠慮がちに尋ね、円堂と風丸が同時に声を上げた。鬼道は鉄扉の方に走っていく。

「あ、そっか。白鳥はフットボールフロンティアの時にはいなかったもんな」

「あいつは卑怯(ひきょう)が服を着たような男だ。ところで、白鳥は『帝国学園』を聞いたことがあるか?」

 風丸は恨みがましく呟いてから話を切り替えて、蓮に聞いた。蓮は首を縦に振る。

「今年雷門が勝つまで、四十年間優勝し続けた王者の学校だろ?」

 蓮が生まれるずっと昔から、フットボールフロンティアで優勝を続けてきた帝国学園は、サッカーをやらないものですら名前を聞いたことがあると口をそろえる有名校だ。
 ただし、『帝国』の名かどうかは不明だが、通うには相当のお金が必要なのだという。一方で、中には帝国学園であることを誇りに思い、他校を見下す暴慢(ぼうまん)な人間もいると嫌な噂も絶えない。

「そうだ。そして、影山は帝国学園が四十年間勝ち続けた時代の監督、いや帝国の選手たちには『総帥(そうすい)』と呼ばれていたから総帥と呼ぶことにするか。総帥だった男だ」

 響木が説明して、蓮は初めて気がついた。
 帝国学園が勝ち続けていた間は、影山がずっと監督をしていたのだ。いくら帝国が強いとはいえ、選手は毎年入れ替わる。能力が高い選手が集まる年もあれば、全くと言っていいほど強くない年だってあるはずだ。いや、なければおかしい。“永遠の強さ”なんてありえない。
 
 授業で習った『平家物語』の一説に、『たけき者も遂(つい)にはほろびぬ、偏(ひとえ)に風の前の塵(ちり)に同じ』がある。勢いが盛んなものも、いつかは滅び去り、その姿は風の前の塵と同じだというわけだが、サッカーもそうだ。
 サッカーが上手かった友人は怪我し、サッカーができなくなってしまった。年をとった選手は引退する。大会で勝つ国は毎年変わる。——ずっと頂点に君臨し続けるのは無理だ。

「40年も無敗なんて、おかしい気がする。偶然にしては勝ちすぎだ」

 思ったことをそのまま言うと、鉄扉と睨み合いをしていた鬼道が首だけを蓮の方に向け、

「白鳥は鋭いな。あいつは——影山は、帝国が勝ち続けた四十年間の間、巧みに裏から手を伸ばし、帝国の相手校を潰してきた。ある時は相手校に喧嘩を起こすよう仕向け、ある時は相手校を試合で叩き潰し、またある時は鉄骨を落として相手校を怪我を負わせた」

 感情を押し殺した声で淡々と言った。感情を表に出さないように振舞っているようだが、顔は時折悔しそうに歪み、唇を強く噛んでいた。感情を隠すように時々前を向いた。
 苛立ち紛れに鉄扉を蹴ろうとしたのか、片足を引き、男がいることを蓮に注意されてしぶしぶ止めた。
 気持ちのやり場がないらしい。鉄扉の変わりに足元のコンクリを強く蹴りつけた。強く。何度も。何度も。その度に背中の青いマントが舞い上がる。頭の中の“影山”に攻撃しているのだろうか。
 蓮は目を細め、悲しそうに鬼道を眺めている。

 
〜つづく〜