二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.39 )
- 日時: 2010/07/16 10:32
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: ErINZn8e)
フィールドの中に一歩足を進めると、ドクンと蓮の胸が高鳴る。同時に心臓の鼓動がいつもよりはっきりと感じられた。この感覚は小学校のとき以来だ。強い相手と戦えると思う——ワクワクした感覚。傘美野の時は必死で思えなかったけど、サッカー前は本来こういうものなのだろう。
ゴール前をゆっくりと通り過ぎ、しっかりと持ち場に足をつける。風丸がもともといたゴール前のDF。あたりを見渡すと、心なしかこちらがスカスカな気がする。DF、FWが欠けたフィールドは不安を駆り立たせる。
「大丈夫かな」
「白鳥! 無理するなよ!」
心配そうに蓮が呟くと、背後にいる円堂が大きな援を送ってきた。蓮は一度振り向くと、大丈夫! と言う意味合いをこめて円堂に大きく手を振った。
「……蓮。キミのプレイ、見させてもらおう」
そのずっと後ろ——ゴールから数メートル離れた木の後ろに涼野がいた。もちろん誰も気づいていない。
やがてキックオフの、後半開始を合図するホイッスルが空気を振るわせる。今ボールは雷門側にある。豪炎寺が鬼道へとボールを蹴った。
「行けるか……?」
鬼道は敵に近づかれると、遠くにいた一之瀬にロングパス。一之瀬がそのままドリブルをし、一気にゴールへ近づく。
「行け! 豪炎寺!」
と見せて、左側にいた豪炎寺にボールを回す。SPフィクサーズのDF陣は一之瀬に気を取られていたのか、左サイドはガラ空。豪炎寺はゴール前へ進むと、ボールを空中へと蹴り上げ、自分自身もジャンプした。
「<ファイア・トルネード>!」
ボールより若干高い位置にジャンプしていた豪炎寺は空中で体をクルクルと回転。同時に彼の左足に炎が渦を巻きながらまとう。その左足を上からボールに叩きつけると、ボールは炎の塊(かたまり)となってゴールへまっすぐ向かう。エースストライカーの必殺技<ファイア・トルネード>。目の前で見ると、迫力が違う。
「負けるか! <タフネス・ブロック>!」
SPのGK——30代前半ほどのふくよかな男は、両手を胸の前でクロスさせ、手を腰の位置まで持ってくる。そして強靭(きょうじん)な胸元で、炎をまとったボールにぶつかっていった。ボールと体がぶつかる。GKは初めこそふんばっていたものの、とうとう足元から崩れた。ボールがネットに入った。
「よっしゃあ!」
そこから先の試合は完全に雷門のリズムで流れていった。蓮がDFに入ったことにより、ボールを上手いことカットし、味方へパス。蓮の持ち味の俊敏さは、どうやらDFとしても上手く役に立ったらしい。結局のところ、SPフィクサーズの誰もが円堂の元へ来ることなく、試合は終了した。
「白鳥! お前、30分プレイできたじゃないか!」
時間が長くなったことに円堂が歓声を上げる。しかし今回はたいして技も使わなかったし……
「今回はワザを使わなかったから——」
今気がついた。自分は技を使うたびに、身体の力が吸収されていくような感じがする。この前フィーとの戦いでも、技を使った瞬間に意識を失った。つまり……技さえ使わなければプレイはできるのかもしれない。
蓮と円堂が話し合っていると、SPフィクサーズの少女がこちらに歩み寄り、にこやかに笑いかけてきた。
「さすが全国大会で優勝した雷門イレブンだね」
「え!?」
「いやぁ〜それほどでも……」
驚いている蓮の横で、円堂は頬を赤く染め、へこへこと頭を下げた。しかしすぐにはっとしたような表情になり、
「え! どういうことだよ!?」
「知ってたよ。あんたたちが全国大会で優勝した雷門イレブンだって。……あ、自己紹介しなくちゃな! あたしは財前 塔子(ざいぜん とうこ)。塔子って呼んでよ」
そう塔子はにこやかに自己紹介をしたが、”財前”と言う名字に、雷門イレブンの間には少なからず衝撃が走った。
「そ、総理大臣の娘!?」
「そっか〜。よろしくな、塔子!」
ただ一人、円堂だけは臆することなく塔子に話しかける。SPフィクサーズの視線が少々鋭い気がするのは気のせいだろうか。
「それにしても……どうして無理やり試合を挑んできたの?」
蓮が尋ねると、塔子は凛とした表情になり、
「あたし、パパを助けたいんだ。エイリア学園のやつらはパパを誘拐しておいて、今も堂々とあちこちで破壊活動を繰り返している。それが悔しいんだ。でも…
…一人じゃ無理って悩んでいたらあんたたちが現れた。雷門中なら行けるかもって思ってさ、力試しをさせてもらったんだ。無理に試合させて悪かったと思ってる」
と、申し訳なさと強い決意が混じったような 複雑な顔で塔子は頭を下げた。
騒動の顛末(てんまつ)が、塔子の悪く言えば自分勝手な思いのせいだったので、雷門イレブンに少し不穏な空気が流れる。しかし謝ってくれたんだからいいだろ、と円堂が言ったので許す方向に雰囲気が変わる。
「いいぜ塔子! オレたちと一緒に財前総理を救おうぜ!」
「い……いいのか! ありがとう!」
目に星を宿した塔子は、嬉しさのあまり跳び上がった。同時にSPフィクサーズがざわつく。すぐさま、SPフィクサーズの一人が、中年で顔が四角に近く、色黒な男が顔色を変えて塔子の前に出てきた。
「塔子お嬢様! 危険です!」
その男を見た塔子は思い切りむくれた。
「なんだよスミス! あたしは円堂たちと一緒に、エイリア学園からパパを助けるんだ!」
「危険です! 総理だけではなく、あなたまで誘拐されたらどうするのですか」
「あたしは子供じゃないんだ! 誘拐なんてされないよ!」
ここから先は水掛け論。スミスが危ないから止めろといくら言っても、塔子は子供の様なわがままで……時には核心をついた言葉で反論。それが永遠に自分の尾を噛み続けると言うウルボロスのごとく続く。
そんな騒動を数メートル離れた木陰から、涼野が見物していた。相変わらず感情があるかないかわからないような顔つきだが、その双眸(そうぼう)は緩められていた。彼の澄んだ青緑の瞳には——塔子とスミスを仲裁しようと奮闘する蓮の姿が映っていた。
「彼は変わっていないね」
涼野の真後ろの木から声が飛んできた。少し低い少年の声。その声を聞いた途端、涼野は目つきを鋭くした。だが振り向かない。
「グランか。何の用だい?」
声の主『グラン』にそっけない返答をした。グランは少しだけ笑った。
「相変わらず白鳥くんにご執心だね。……ガゼルがなかなか帰ってこないから、心配して見に来た。それだけのことさ」
『グラン』と呼ばれた声の主は、落ち着いた口調で微笑しながら答えた。涼野……いやガゼルは相変わらず蓮を見つめながら、淡々とした調子で話す。
「キミは私の心配をする人間ではないだろう。父さんの命令か?」
「ううん。オレが勝手に来ただけだよ。バーンだってキミがいないのを気にかけている」
「バーンが? だが私は——しばらくそちらに帰るつもりはない。雷門のことをもう少し調べたい」
「だったらすぐに調べられるよ。ほら」
グランがそう言った同時に、蓮たちがいる場所でくぐもった爆発音がし、もうもうと茶色の土煙が広がっているのが見えた。
「……なるほど。彼らと雷門を戦わせるのか」
「そう。フィーたちから一転奪い取ったんだろう? その実力ってやつを見てみたいからさ」
一方その頃蓮たちは、土煙に視界を奪われていた。やがて波が引くように砂煙が治まり、ようやく目を開けてみると——そこにはさっきまではいなかった人間たちがいた。
全部でおよそ11人。ふくよかな男から、標準体型の少女に見える人物まで……色々混ざっているが、彼らはダイビングで着用するようなスェットを身につけていた。そして首からはサスペンダーが下げられ、さらに腰のあたりにある丸いリングにつながっている。正三角形を下にした形の物体があり、その中央には青く丸い石の様なものがはめ込まれている。スェットの色は灰色で半袖、下は膝小僧の上まである。袖と身体のラインの外側にあたる部分は、白いぎざぎざが付いている。
(だ……だれだあいつら!?)
謎のサッカー集団を見ていた蓮は、急に息が荒くなってきた。何故だか心臓が脈打つスピードがいつもより速い。速すぎて、逆に胸が痛くなってくる。立っているのに耐えられず、胸を押さえたまま地面にがっくりと膝をつく。
「白鳥!」
近くにいた円堂が異変を察知し、蓮に駆け寄る。見る見る間に蓮の顔は青ざめて行き、半ば気を失いかけようとしていた。そのまま前に倒れそうになり、円堂が慌てて両腕で抱きかかえる。顔がこちら側を向くように抱きなおし、
「おい白鳥! 白鳥!」
必死に呼びかけながら円堂が体をゆする。だが蓮は目を覚ますどころか呼吸だけが荒くなっていき、顔にはびっしりと汗が張り付いてしまっている。
「お前たちは何者だ!」
蓮と円堂の横で、塔子が威嚇をするように声を上げた。するとその中の一人——緑の髪を抹茶ソフトクリームのように逆立てている人間が進み出て来た。
「我らはエイリア学園セカンドランクチーム”ジェミニストーム”なり。愚かな地球人どもよ……こうしてわざわざ挑戦しに来てやったことを感謝しろ」
「エイリア学園! パパを返せ!」
塔子がジェミニストームに飛びかかろうとして、スミスが後ろから抑えにかかる。暴れる塔子を尻目に、鬼道が警戒気味に声を上げる。
「ジェミニストームと言ったな? オレたち雷門に何の用だ」
「全国大会優勝校である貴様らを倒し、世界中に我らの恐ろしさを示すのだ」
「要するにオレたちを倒すと言うことか」
「この試合は逃げることは許されない。もし貴様らが逃げると言うのなら、この奈良にある学校をいくつか破壊させてもらおう」
「そんなことはさせない!」
先ほどからずっと蓮の介抱をしていてようやく終わった円堂が、大きな声で叫んだ。その横では顔色がだいぶよくなった蓮が、少しハイテンポの息を吐きながらジェミニストームを睨んでいる。
「オレたちだって強くなっているんだ! 今度こそ、エイリア学園にだって負けやしない!」
「……愚かな」
相手チームのキャプテンは憫笑した。
「地球にはこんなことわざがある。”弱い犬ほどよく吠える”」
「吠えるのが無駄かどうか……やってみなきゃわからないよ」
〜つづく〜
グランも出してみたり。ガゼル率が高いですね^^;
世界への挑戦でも、今ガゼルばかりを使っています。