二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナズマイレブン】〜試練 ( No.392 )
日時: 2011/04/02 13:43
名前: 携帯しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 8gvA/W.A)
参照: これからケータイ投稿が増えるかも。

 自室へ引き上げて行った蓮を追いかけ、南雲と涼野は、食堂を飛び出た。

 二階に上がり、蓮の部屋前に来ると、扉は開け放たれていた。南雲程大雑把でない蓮は、マメに扉を閉めるはずだ。南雲と涼野は嫌な予感に駆られた。
 そのまま、部屋に足を踏み入れると、蓮は案の定、ベッドの上でうつ伏せになっていた。額の下で組まれた手を枕がわりにしている。ジャージや、靴下も脱がずそのまま倒れている。蓮の下にある毛布には、皺が寄っていた。

「……蓮、大丈夫か?」

 南雲が静かにドアを閉め、涼野はベッドの縁に腰掛け、気遣うような調子で声をかける。蓮は伏せたまま、顔だけを激しく横に振った。それきり動くことはなかった。
 涼野が対応に困った様で、腕を組む。顔つきも、どこか心配そうに見える。
 そこへ南雲が涼野の横にやって来た。南雲は、うつ伏せの蓮を、憐れむとも小馬鹿にするともつかない視線で眺めた。ややあって、蓮の背中にはっきりとした声音で問いかける。

「蓮。お前、誕生日嫌いだろ?」

 涼野が青緑の瞳を珍しく驚いたように大きく見開き、南雲を見た。その直後、しっかりした肯定の返事が聞こえる。

「ああ、嫌いだ」

 蓮は顔も上げずに返事をよこした。
 頭の中が、自分でも気が狂いそうなほど、様々な感情がごった返しているからだ。きっと今、親友二人の顔を網膜が認識したら、爆弾が爆発するように感情を押さえきれなくなる。
 けれど、この二人だけは、どうしても素の自分を露にしてしまう。心配するような視線を背中に感じ、言葉が喉までせり上がってきた。
 その優しい心は嬉しかったが、頭を支配するマイナスの感情にあっさり吸収されてしまう。だんだん優しい視線を感じるのが苦痛になってきた。蓮は、心内で二人に詫びながら、自虐的に思いを訥々と吐き出した。

「僕は、自分勝手に落ち込んでいるだけ。気にしないで、晴矢、風介。……誕生日は、生まれてきたことを祝う日だよね? 僕は、両親だけを死なせ、生きるためだけに生まれてきた。そんな自分に『生まれてきたことをおめでとう』なんて、祝われる資格なんてないよっ……!」

 独りでに声が震えた。
 晴矢と風介の顔も見ていないのに。誕生日は、生まれたことを祝福される日。両親を死なせ、のうのうと生き残る自分に、祝福される権利はない。誕生日はただ大人になったことを己だけで喜び、祝う必要などない。——自分だけは。
 幸せな、何をもって幸せとするかはわからないが。幸せなその他大勢は祝われてほしい。
 自分の誕生日は嫌なくせに、蓮は人の誕生日を祝うのは大好きだ。相手が喜ぶのが好きと言うのもあるが、幸せな時間を共有することで、自分の『祝ってほしい』気持ちに嘘をついているのだった。

「ごめん。今日は一人にさせてくれ」

 二人がいると、心はざわめくばかり。心のそこから、二人に出ていくよう頼んだ。自分の心情を察してくれたのか、すぐに扉が閉まる音がした。初めて上半身を起こして、降りあおぐと、二人の姿はない。気遣って何も言わずに出ていったに違いない。追究しなかった幼なじみの行為が胸に染みる。
 しかし、所詮しょせんは気休めだ。一人だと今度は、孤独感に苛まれる(さいなまれる)。全く人の心は、沈むときは何処まで沈めばきがすむのだろう。
 蓮は嘆息すると、仰向けになり、孤独感に身を委ねる。ふと天井に視線をはわせると、鍋の蓋みたな、 電球を覆うカバーの中に黒い影があった。誤ってカバーの中に入り込み、動けなくなった羽虫の哀れなすがた。蓮は、カバーの中にそっと、寂しげな口調で語りかける。

「僕とおんなじ。生まれる場所を間違えたね」


 死ぬのなら虫にならなければよかったのに。

 僕も悲しむなら、親と共に海のもくずになるべきだったのかな。

 外では、南雲と涼野が僅かにドアを開き、蓮の呟きを聞いていた。

「そんなことはない」

「間違ってたら、オレと風介との出会いも間違いだったのかよ」

 涼野の声ははっきりと蓮の言葉を否定し、南雲の声は怒りで震えていた。大切に思っている人間が二人も居るのに。悩みだすと自分の内部世界にどんどん突っ込んでいくのは、彼の悪い癖だった。

〜つづく〜