二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナズマイレブン】〜試練 ( No.399 )
日時: 2011/04/18 19:38
名前: 携帯しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 2.TlWg7X)
参照: あと一回?

 翌日。
 蓮は、胸に蟠り(わだかまり)を残したまま目が覚めた。
 布団を被らずに寝たので、身体がすっかり冷えきっている。あまりの寒さに、蓮は起き上がりながら、身体を震わせ、毛布で身体を包み込んだ。しばらくして、体内に血が駆け巡り始めると、何とか動ける程には体温が回復する。

 長い息を吐き出し、枕元に置かれたデジタル時計へと視線を向けると、既に七時半を過ぎていた。起きるのが最も遅いチナンですら七時には起床しているから、大分寝坊したことになる。
 通常の思考なら飛び起きるところだが、蓮は毛布を身体に巻き付けたまま、ぼうっと時計の文字盤を眺めていた。
 なぜか身体がだるい。身体を動かす気力が沸いてこない。サッカーの練習など億劫に感じられ、ずっと部屋に閉じ籠っていたい気分。
 
 時計の文字盤が一分進み、蓮気だるい自分を叱咤した。自分はまがりにも韓国代表。代表選手が練習をサボるなど、代表になれなかった選手に下げる頭がない。やらなくては、いや練習をサボるのは代表を止める時だ。
 ベッド前のタンスに目をうつせば、韓国のユニフォーム——赤いシャツとグレーのハーフパンツが、ハンガーに吊るされている。代表である証。己が代表だと言う現実を告げている。
 毛布を身体から外し、休みを要求する身体を無理矢理動かした。足を床に下ろすと、身体を引きずるようにして部屋から出た。そして、一段一段ゆっくりと階段を降り、食堂に向かう。
 足取りは重く、食堂が近づくにつれ、逃げたい衝動に駆られた。それでも身体を意思の力で食堂に向かわせ、閉まっている扉を勢いよく開けさせた。
 扉を開くと、各テーブルに着いている選手たちが、一斉に自分を見つめているのが目に入ってきた。チナンだけは手に茶碗を持っているが、他の選手の机には何も置かれていない。やはり寝過ごしたのだ。
 
 普段は早起きな蓮が寝坊したことが珍しいのか、選手たちは不思議そうな顔で蓮を見つめていた。ただアフロディ、南雲、涼野だけは探るような視線を蓮に投げ掛けている。その視線に気がついた蓮は、アフロディたちを一瞥すると、"笑顔"を作った。周りを見渡し、

「ごめん。寝坊しちゃった」

 わざと明るく謝った。演技であるが、本当に明るく謝っているように聞こえる。
 ほとんどの選手は騙され、「珍しいな」「気を付けろよ」等と軽く注意するだけでそれ以上なにも聞かなかった。安心するも束の間、幼馴染み二人だけはますます視線を険しくすることに気づく。間違いなく演技だと見破られているだろう。
 ——普段洞察力はないくせに、自分に対する洞察力だけは持っている困った幼馴染みだ。と蓮は文句を内心で呟き、逃げるように二人から視線をはずした。

「さ、今日の朝御飯は何かな」

 鼻歌を歌うような調子をわざと言いながら、蓮は朝食を取りに向かった。

*
 この一週間、練習はあまり集中出来なかった。
 練習にあまり身が入らず、蓮は絶えずぼうっとしていた。そのせいでパスミスが増え、チャンスゥに怒鳴られる機会がどっと増えてしまった。ファイアードラゴンのMFやDFを、翻弄する程度の力量をかろうじて保ってはいたが。
 
 いつもなら落ち込む蓮であるが、チャンスゥの言葉は耳から耳へと抜けてしまう。日に日に間違って生まれてきたのでは、と猜疑心が増したからだ。
答えの見つからない問いは蓮を孤独の中に沈めていった。
 表面上は明るく振る舞って元気に見せているが、内心はぼろ切れのようにズタズタと引き裂かれている。いつも言葉にならない悲鳴を上げていた。
 生まれてきてよかったのか、誰か教えてよと無言で叫ぶが誰も答えてくれない。苦しい。それでもファイアードラゴンの誰かに打ち明ける気にはならない。こんな問題にばか正直に答える人などいるわけないと勝手に決めつけていた。
 深く沈むと周りが見えなくなる蓮の悪い癖だった。
その間、アフロディたちはもちろん苦しむ蓮に気がついていた。
 表面上は毎日同じでも、日が進むごとに落ち込んでいく蓮の心を敏感に感じ取っていた。時折声はかけたが、沈む一方の蓮の心に光を与えることは出来なかった。それだけの闇。やはり誕生日に全てをかけるしかないと、歯痒い思いを噛み殺す。
 ——やがて、それぞれの思いが交差しあう三月三十日を迎えた。
〜つづく〜