二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.40 )
- 日時: 2010/10/12 15:39
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: XHLJtWbQ)
さっきまでのサッカーゴールに、雷門イレブンとスミスの反対を押しのけて参加してきた塔子が立っていた。向かいうつはジェミニストーム。どうも雷門をあなどっているらしく、緊迫した表情を全くしていない。
「おい白鳥……本当に大丈夫か?」
「……うん」
ゴール前に立つ蓮は時折ふらつき、とてもサッカーができるような状態には見えない。しかし本人も大丈夫だと言うし、瞳子も反対はしなかったのでこうしてフィールドに立っている。しかし。
(あいつ……大丈夫なのか)
円堂の心の中にある雲は決して晴れない。
そんなさなかでも、試合開始のホイッスルは容赦なく鳴らされた。まず豪炎寺がバックの鬼道にキックオフした瞬間——例の抹茶ソフト頭の男がボールを奪う。獲物を狙う肉食獣のように、その動きは誰も読めていなかった。
「遅い。これしきのスピードで我らにはむかうのか」
いかにも悪人らしいセリフを吐き捨てると、抹茶ソフト男はフィールドを一直線上に走る。MFの二人がつっこむとするが、速すぎて間に合わない。これならどうだとDF陣がスライディングをしかけ、あっさりジャンプでかわされてしまう。そしてそのジャンプした体制のまま……抹茶ソフト男はボレーシュートを放った。回転がかなり速く、もはや別のものに見える。
「あっ!」
円堂の位置からすぐ右を狙われたシュートは、とろうと伸ばされた円堂の指先をかすめて。ネットに叩きこまれていた。
「お前たちに必殺技など必要ない」
ゴールの後には、抹茶ソフト男の冷たい言葉だけが残った。
「円堂くん……ごめん」
「気にすんな! 次はぜったい止めてやるぜ!」
落ち込むメンバーに対し、円堂はいつもと変わらず励ましの言葉をかけた。しかし相手との実力差は歴然としており、頑張ろうにも頑張れない……と言うみなの思いは消えることはなかった。
そして再び雷門のキックオフ。再び抹茶男がボールを奪う。しかし今回は塔子の反応が素早かった。抹茶男の前に立ち塞がると、両手を頭上に掲げ一気に腰のあたりまで落とした。
「あたしの必殺技だ! <ザ・タワー>!」
すると地面からきれいな螺旋(らせん)を描くレンガ造りの円柱が生えて、塔子を空高くに連れ去って行く。そしてさっきまで晴れていたはずの雲が急に暗雲へと変わり、塔子が両手を高く掲げると、雷の球が掲げられた両の手の上に生まれる。振り落とすとともにそれは一筋の稲妻へと変わり、抹茶男に落雷。
「うわっ!」
落雷を直接浴びた男は白い煙を上げながら倒れ、ボールが近くに転がった。塔子がすぐさま奪い取り、かなり前にいた豪炎寺へとロングパスを出す。
「受け取れ! 豪炎寺!」
「ああ!」
ジャンプして片足で受け取ると、豪炎寺は一気にあがる。それに引き寄せられるように、蓮も雷門イレブンも相手陣内へとあがっていく。
「豪炎寺! エースストライカーの実力を見せてやれ!」
円堂の応援を背に豪炎寺は跳ぶ。<ファイアトルネード>をうつ気なのだろう……誰もがそう思っていた。
「!」
突然豪炎寺の動きが空中で止まった。はっとした顔で目を大きく見開き、空中の一点を凝視している。そのままボールと共に落ちて行く。
その時口がかすかに動き、言葉を紡いだ。
「……夕香(ゆうか)」
「え?」
本当に小さく優しい一瞬の言葉。
刹那、豪炎寺がようやくボールをけった。しかし位置が悪かった。炎を宿すボールはゴールから大きくずれ——ポストに当たって、ラインの外に出てしまった。
「えっ!」
一同は、思わず声を上げた。
豪炎寺がこんなミスを犯すなど、予期していなかったからだ。
「…………」
失敗した豪炎寺は青ざめた顔をし、押し黙っていた。
「あ〜あ。シュートを外すようなストライカーかよ。レーゼ様、本当に戦う価値なんてあるんですかい?」
ふとっちょで大人見たいな顔を持つ青い髪のGKがだるそうに呟く。すると抹茶ソフト男——レーゼは、
「有名無実だな。だが彼らを倒せば、我らの地球侵略もやりやすくなる。……ゴルレオ、続けるぞ」
「へ〜い」
ゴルレオはあくびをしながら答えた。やはり見下されているらしい。
「みんな! 実力が違いすぎたって諦めるな! 行くぞ!」
ゴルレオの欠伸を覚ますかのような大声が、フィールドを震わせ、雷門イレブンは再び試合に臨んでいく。
一方同時刻。ガゼルとグランは、試合の成り行きを見つめていた。スコアはすでに15対0。何度も相手のボールを受けた円堂のユニフォームは、あちこち切り裂かれ、赤く染められている。他のメンバーも、切り傷・すり傷だらけで見ていて痛々しい。
「これほどまでに弱いチームが、私たちの敵になるのか」
涼野——いやガゼルが独りごちた。それに答えるように、グランはゆっくりと首を縦に振る。
「なるよ。あのキャプテンは諦めていない。恐らく次は力をつけて、オレたちの前に現れるはずさ」
「”次”だと?」
その言葉にガゼルは、目つきを鋭くして尋ねる。
「今回ので地球人にだいぶ恐怖感を示せたはず。十分遊んでやっただろう?」
「勝手にするがいい」
「じゃあ終わらせるよ」
グランは親指と人差し指で輪を作るとそれを口の中に入れ、甲高い音を生み出した。
「どうやら終わりのようだな」
シュートを決めようとしたレーゼが言った。
ボールを横に蹴りライン側に出すと、片手を上げて
「ジェミニストームよ! あの御方たちからの命令だ。撤退するぞ」
キャプテンらしい指令を出す。
とたんジェミニストームのメンバーが、溶けるように一瞬で消えてしまった。レーゼを残して。
「ふん……今回は運が良かったようだな」
だが最後に悪役らしいセリフを残し……彼もまた、空気と同化するように姿を消していった。
*
「いてっ!」
夏未がグローブに手を触れると、円堂は反射的に手を引っ込めた。
「オレたち……負けたのか」
試合が終わるころには、空はすっかり茜色に染まる。円堂たちが座るベンチの後ろの池の水面も、空の色を映して鮮やかに、時折波紋を生み出しながら揺れていた。
「やっぱり実力が違いすぎる。本当にこのままで勝てるのか……?」
誰もが思っていることを風丸が言う。みなはますます沈黙する。でもそんな中で、不意に円堂が立ちあがった。
「オレ、さっきあいつらのシュートが見えた」
みんなが下げていた頭を円堂にむけて、注目する。
「ほんの少しだったけど……あいつらのシュートの動きが見えたんだ」
「本当か! 円堂!」
「ああ。あと少しで、あいつらのシュートを止められそうだった。さっきの試合であいつらのシュートを、受けまくったからな」
痛々しい見た目なのに円堂は笑って見せる。それを見たみんなが、少しだけ微笑みかえす。
「だからさ——みんなも諦めるな! 努力すれば、道は必ず開ける!」
「そうだな。オレたちは、常に諦めず進化し続けて来た。これからもきっとそうだろう」
「ああ!」とか「オレたちならやれる!」と皆が口ぐちに声を上げ、チームの雰囲気が高まって行く。そこで黙っていた瞳子が口を開く。
「ようやくまとまってきたようね」
「はい瞳子監督!」
「なら監督として、一つ指示があります」
瞳子はちらっと豪炎寺に目配せし、豪炎寺が何かに気がついたような顔をした。
「豪炎寺くんには、チームを離れてもらいます」
「えっ!?」
誰もが驚かずにはいられなかった。
エースストライカーである彼を、チームから外すと言うその言葉に。
「監督! なんで豪炎寺を外すんですか! 彼を外したらこのチームのフォワードは染岡だけ……決定力にかけすぎます!」
すぐに風丸が疾風の如く瞳子を非難する。
しかし瞳子は凛とした表情を崩さないまま、
「彼がこのチームにいると、私たちは地上最強にはなれないのよ。このチームのためにも、豪炎寺くんにはチームを離れてもらいます」
「豪炎寺がシュートを外したからですか! おい豪炎寺! おまえもなんか言えよ——」
憤る円堂の口調がだんだん弱くなり、ついには消えた。
豪炎寺が、本当にチームから避けるように池の橋を渡って行くのが見えた。本当に瞳子の決断を、あっさり受け入れてしまったかのようだった。
「待てよ! 豪炎寺!」
円堂が、遠くなる豪炎寺の背中に呼びかけた。
豪炎寺は橋の上で進むのを止める。
「オレたちは地球を守るって決めただろ! 今日、ここでジェミニストームには負けたけど……新しいスタートを切ったじゃないか! 新しい仲間も増えて。それなのにここでいなくなってどうするんだよ!」
円堂は、心の思いをありったけ豪炎寺の背中にぶつけたようだった。長く叫び、何度も豪炎寺の名を呼ぶ。
「すまない円堂……」
低く感情を押し殺すような声で、小さく言った。
「オレがいるとチームに迷惑がかかる。……監督の言う通りだ。悪いがオレはチームを抜けさせてもらう」
短く簡潔に言うと、豪炎寺はまた歩き始めてしまった。その背には悲しみと申し訳ない気持ちが渦となって表れているように蓮は思えた。
「豪炎寺! オレたちはいつでもお前のことを待っているからな!」
急に円堂が声を張り上げた。まるで下校する友達と別れ、また明日〜と言うような口調であった。
その口調にさすがにチーム内にどよめきの色が生まれる。
「…………」
豪炎寺は一度歩みを止めた。振り返らないままで。でも、何か光り輝くものが彼から飛び散った気がした。しかしそれを確認する暇もないくらいの時間で、豪炎寺は奈良シカ公園の夕日の中へと消えて行った。
〜二章完〜
やっと終わったぁああああ!
長いことお待たせして申し訳ありませんでした〜!
終わってみるとすぐたぐたですね……