二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.50 )
日時: 2010/07/28 17:12
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: zz4.lYYr)

夕香が完成させた絵には、一人の人間がいた。
 体格は標準的な大人の男性のものだが、肌の色が何故か明るい黄緑色で塗られている。頭部は、髪がなくいわゆる禿げ(はげ)頭。そして目を隠すような黒いフレームのサングラス。下に来ているのは、真黒なコートの様なもの。自分は不審者です、と言っているような奇妙な身なりである。こんなやつが来たら、自分だって怖いと蓮は絵を睨みながら考えた。

「ありがと。夕香ちゃん」

 夕香に礼を言った蓮は、鞄からクリアファイルを取り出すと、その絵を大切にしまう。
 そのとき、夕香が気付いたように、

「ところで白鳥お兄ちゃん。今日はお兄ちゃんは来ていないの?」

 一番聞きたくなかった言葉を言った。
 灰色には程遠い脳をフル回転させ、蓮は夕香への言い訳を考える。

「う、うん。豪炎寺くんは、風邪引いちゃってさ。今日は来れないんだって」

 結局出てきた言葉はかなり苦しい言い訳。それに蓮の笑顔も引きつっているのでどうなるかと思ったが、夕香はくりくりした瞳に不安色を宿した。

「そうなの? お兄ちゃんは大丈夫なの?」
「……うん」

 純粋に兄を心配する妹の瞳が良心をえぐる。
 心の中で、夕香に真実を言え派とこのまま黙れ派が対立する幻聴すら聞こえてくるような気がする。

「じゃあお兄ちゃんに、早く元気になってねってつたえてほしいな」

 蓮の言葉を聞いて安心してきたのか、夕香が微笑を浮かべながら小さな小指を差し出してくる。

「わかった。約束するよ」

 夕香に向かい”必ずお兄ちゃんを連れ戻すから”と言う意味を込め、蓮はほっそりとした小指を、その小さな指に絡めて小さく上下に揺らした。

『ねえ! ——。——。約束だぞっ!』

 夕香と指切りを終えた途端、急に脳裏に声がした。 夕暮れの中、三本の指が絡み合って大きく揺れる。一つは幼いころの自分で。あれ? いつ、誰と指切りしたんだっけ……

「お兄ちゃん?」

 夕香にじっと見つめられていることに気づいた蓮は、慌てて手を離す。

「じゃあ! またね、夕香ちゃん」
「うん。またきてね!」

 夕香の笑顔に見送られながら、蓮は恥ずかしさから逃げるように病室を出た。

「ご、豪炎寺くんがいたら殺されてたかも」

 とたん身体の力が抜け、蓮は扉に背を預けたまま座り込んでしまう。

「はぁ」

 長いため息を吐くと、蓮は自分の両手を見つめる。

(誰だろ……誰と指切りしたんだ……?)

 考えれば考えるほど、記憶と言う名の糸は絡まりほどけなくなる。
 誰かは覚えていないが、手の感触だけははっきりと思いだせる。二人とも、温かくて、握ると元気になれる太陽の様なぬくもりだった。そして自分は指切りをした二人のことを、とてつもなく大好きなのだ。それだけは、はっきりと感じることが出来る。わかることができる。なのになんで名前が思い出せないのか。

「誰……」
「なんだよ白鳥。疲れちゃったのか?」

 聞き覚えのある声に蓮は現実世界に引き戻された。声の方を見やると、何故か塔子の姿があった。

「と、塔子さん? なんでここに?」

 立ち上がりながら、蓮は目を白黒させる。
 すると塔子は蓮に近づくなり腕をひっつかんで、上へと続く階段をさし示した。
 
「話は後だ。とりあえず、屋上に行くぞ!」
「あ、ああ! 待ってよ!」

 塔子に袖を引っ張られる蓮の姿は、傍から見れば飼い主に引っ張られる犬そのものに見えるに違いない。

 
 三階からの階段を登りつづけると、屋上へと続く鉄扉が視界に入ってきた。 
 階段を登り終えた塔子が両開きの扉を開くと、涼しい風が流れ込んできて蓮の短い黒髪と、塔子の長いピンク色の髪を揺らす。

「あたしが一番ノリ!」
「塔子さんはおてんばだなぁ……」

 はしゃいで先に屋上へかけていく塔子の後から、蓮はゆっくりと屋上に足を踏み入れる。
 屋上は周りを全て落下防止用の緑のフェンスに囲まれ、東西北の位置に一個ずつベンチが置かれている。北には住宅街が広がり、駅の青い屋根が見える。東側には住宅街上空を高圧電線が通り、二段重ねにした緑の丘へと消えて行く。緑の丘には、雷門町名物の”鉄塔”があるが、今は針の先っぽの様な先端が見えるだけ。そういえば円堂がここを気に行っているらしく、エイリア学園との戦いが終わったら案内すると、嬉しそうに話していた。

「雷門町ってきれいな場所だな」

 北側のベンチに座った塔子は、景色を見て歓声をあげていた。

「うん! 引っ越してきてよかったと思う」

 蓮は塔子の隣に腰を下ろすと、同じように風景に目をやる。