二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.80 )
- 日時: 2010/08/06 18:16
- 名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: 2lvkklET)
しばらくして、涼野は蓮の身体から手を離した。不思議なことに、まだ首筋には彼のぬくもりが残っている。本当に優しくて、温かい感触だ。そして二人に沈黙が再び訪れる。
何気なしに蓮はジャージを脱ぎ、腰に巻く。立りあがり、海を見つめる涼野の横に。腰に巻いたジャージが潮風を受けてふくらむ。
「あ、あの風介」
ためらいがちに蓮は涼野に尋ねようとする。
『僕たちって、どこかで出会ったことがある?』と。
しかし次に言葉を口に出そうとした時、
「……私の気まぐれだ。気にしないでくれ」
「え? あ、うん」
海に視線を向けたまま涼野がそんなことを言うので、蓮は適当に返事をして口ごもった。
「蓮」
すぐに涼野に名前を呼ばれ、蓮は横を向く。
見ると涼野の片手に、水色の携帯電話が握られていた。
「ん? 写メ?」
蓮が思ったことをそのまま言うと、涼野はこっくりとうなずく。
「そういえば。この宗谷岬って、すごく綺麗だよな。写真に撮っておきたい」
ぐるりと夜の宗谷岬を見渡しながら、蓮が笑う。
すると涼野の目つきが変わった。暗闇の中、青緑の瞳がいっそう強い輝きを放った気がした。
「風景ではない。私が撮りたいのは……キミだ」
「あ〜そっか。せっかく仲良くなれたんだしね」
ポンと両手を合わせ、蓮は納得した。
ふっと小学校の修学旅行を思い出す。あの学校の旅行では、カメラが持ち込み可能だったので、友達とぎゃーぎゃー騒ぎながらいろいろ撮っていた。旅と言えば、写真は醍醐味だ。
今日だって塔子と写メを撮りまくり、『雷門のみんなには内緒だぞ?』と、約束をしたっけ。
「それもあるが」
涼野が携帯をぎゅっと握った。
「私の気が変わらないように。自分自身を戒める(いましめる)のだ」
「大げさだなぁ。ひょっとして、さっきの歌をまだ気にしてるの?」
「そういうキミは、あの梅の歌をどう思う」
「僕? 僕は——」
しばらく頭を抱え、悶える(もだえる)蓮。だがすぐにあ……と声を漏らし、涼野に笑顔を見せる。
「僕は確かに”変わるかも”しれないけど、”基礎部分は残して”変わって行くと思う。『人間って忘れてしまう生き物』って言うだろ? 今日の日だって、細かいことは忘れるかも。けど、風介への思いは絶対変わらない。少なくとも、風介のことは絶対に忘れたりしない。この46億年間だっけ? 変わらない海と同じで」
蓮が長い言葉を言いきると、涼野は口元に微笑をたたえていた。それから携帯を開き、階段を下りて、こちらに携帯のカメラ部分向けてくる。
「撮るぞ!」
いつもとは違う、明るいトーンの声だった。
「は〜い」
応えるように声の調子をいつもよりも上げ、蓮はおちゃらけてみせる。再び台座に腰かけ、TVのお姉さんのように夜空でも光る笑顔を見せながら、手を振って見せる。
カシャ! と音がし、暗い辺りをわずかに照らした。
「どうさ?」
すぐに蓮は立ち上がると、台座から飛び下り、写真を撮って満足げな表情を浮かべている涼野の横から、画面を覗き込んだ。
背景が黒い中、台座に座っている自分が満面の笑みで片手を上げている姿が、しっかり映し出されている。暗いから映らないかと思ったが、そんなことはなかった。何がそんなに楽しくて笑っているのか知らないが、笑顔が非常に子供っぽすぎて恥ずかしい。と蓮は思う。
「次は二人で撮りたいな」
写真のことを半ば忘れたい蓮は、涼野に提案する。写真の閲覧を止めた涼野は、携帯から顔を上げた。
「しかしこの時間では、人がいないだろう」
ん〜と蓮が唸り、ポンとまた手を叩く。
「コテージのおじさんがまだ起きていると思うから、その人に撮ってもらう?」
「そうだな。ところで、コテージは近いのか?」
「すぐさ。すぐに呼んでくる!」
蓮は言いながら、鞄をそこらへんに放り投げた。そして脱兎のごとく丘を下り、その姿は見えなくなった。
その光景を呆然と見つめていた涼野は、携帯をズボンのポケットに仕舞う。それから、蓮が放り投げた鞄を拾い上げ手で軽くはたいた。
「まったく。雑な性格も相変わらずだな」
悪態をつくと、蓮の鞄を階段の下に置いた。涼野は階段を登り再び台の上に立った。
変わらず黒に飲まれた海と、散りばめられた星たちが輝いているのが目に飛び込んでくる。潮風は、いたずらに銀の髪をめちゃくちゃにしていく。
「……私のことを絶対に忘れない、か。蓮らしい」
眩しそうに星を見つめながら、涼野は独りごちた。そして軽く俯く。
「確かにこれから先、互いに忘れることはないだろう。が、”壊れる”可能性はあるんだよ、蓮。キミが雷門に居続ける限り——いつかは」
そこまで言い切ると、再び顔を上げる。星達に何かを訴えるような表情を浮かべ、左手で右手首をつかんだ。
「お〜い風介!」
そこへ蓮の呼び声がし、涼野はいつもの冷徹な表情で振り向く。
50代ほどの恰幅のいいおじさんを連れ、丘の中腹からこちらに手を振っている。蓮は息切れもせずに全力疾走。もう台座の前に来ている。さすがと言うか、サッカー部なだけはある。対するおじさんは顔を真っ赤にしながら、だいぶ遅れて到着した。ぜえぜえと荒い息を吐いている。
手を振り返しながら涼野は階段を駆け降りると、鞄を手に蓮の元へ歩み寄る。
「鞄を放り投げるな。大切なものも入っているだろう」
「あ、ごめん! 邪魔だから投げ捨ててた」
叱咤された蓮は、謝りながら鞄をもらった。
おじさんの息が整い終わるのを待ち、二人はそれぞれ携帯電話を手渡した。ちなみに蓮の使用する携帯の色は、藍に近い黒。
「ほうら。並んだ、並んだ」
携帯のカメラを向けながら、おじさんが手で右にずれろの合図を送る。
「この辺かな」
「そうだろう」
宗谷岬のシンボルをバックにした方がいいと言う、おじさんのアドバイスに従い、蓮と涼野はモニュメントの階段部分に立っていた。おじさんの画面には、直立する二人がしっかりと映っている。
〜つづく〜