二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【D灰】…空白の歯車…【5/19up】 ( No.303 )
- 日時: 2012/07/01 12:29
- 名前: なさにえる (ID: VKAqsu.7)
第23夜
ロシア———
研究所の前でシリスと対峙するラビ、雪、ブックマンの戦闘はまだ続いていた。
戦況はあまりラビたちに芳しいものではなかった。
シリスの音の攻撃で神経がイカレて手が震える。
音波の物理攻撃も可能なようで周囲には雪のイノセンスが作りした氷の固まりが刃物で切ったように切断されて転がっていた。
「あいつの能力は音みたいだけど厄介すぎる」
「まだ耳が正常になおっとらん」
「ほっときゃなおるさ」
「めっちゃ投げやりじゃな」
「ぶっちゃけどうでもいいさ……」
「なんじゃと!」
「黙ってくれ、頼むから」
絶えかねて雪が突っ込んだ。
「キミら、馬鹿なの?そんなんじゃ僕に一生勝てないよ」
シリスからもこの能天気な言葉に対してつっこみをいれる。
「勝つさ」
シリスは氷の銃をかまえると氷の弾丸を放つ。
「クラッシュ!」
無数の小さな氷の弾丸が撃ち込まれた。が、シリスは避けようともせずに大きく口を開いた。
びりびりと空気を震わせるいやな音が響いて、それが鳴り終わる頃には氷の弾丸は粉々に崩れ落ちていた。
「駄目駄目、こんなんじゃ」
「そうかよっ!んにゃろ!!」
ラビはやけくそに叫ぶとイノセンスを振りかぶった。
「火判!」
雪の表面が溶け、火の文字が浮かび上がる。その紋章から火の蛇が召還され、周囲の氷を溶かしシリスにせまった。
シリスは残っていた氷を盾にしながら必死に逃げた。
「あちち」
器用に身をかわして避ける。
その様子を見て雪はははんと納得した。
シリスの能力は音を利用した物。雪やブックマンのような物理攻撃は音によって破壊したり軌道を変更したり出来るがラビの火判は炎の攻撃。物理攻撃と違い、音で消す事が出来無いのだ。
「ラビ!」
そう叫んで目でコンタクトをとる。
「クリアクラック!」
能力全開でシリスの周囲に氷を集約させて動きを止めた。
「くそ」
動こうとしたが足が雪で固められ抜けない。それを見計らってラビが再びイノセンスを振りかぶった。
「じゃあな……」
____火判!!!!!
特大の火の蛇がシリスに迫った。俊敏な動きでたとえ氷が先に溶けたとしても逃げる暇はない。
「行け!」
指先をシリスに向ける。
が、シリスは突然叫び始め____
「嘘だろ……」
ラビは思わず呟いた。
シリスの目前に迫っていた火の蛇は突如蒸発するように姿を消してしまったのだ。
呆然とする三人の前でシリスは雪の上をごろごろ転がっていた。どうやらさっきの火がマフラーに引火したようだ。
雪であらかた身体も冷えたところでシリスは「よいしょ」と立ち上がった。
「惜しかったね、動けなくしたあとで打ってたらもしかしたら怪我くらいさせられたかもしれないのに」
「お前、炎まで消せるのか」
「キミの火と合致する音さえ分かれば簡単にね」
得意げな表情を浮かべるシリスは憎たらしい事この上ない。
と、不意にシリスは首を回して研究所の方を向いた。
「え、もう終わりなの?」
「?」
「なんだ?」
「結局ドロシーだけで遊んでんじゃん」
「時間?待ち合わせったって………………わかったよ」
「誰と話してるんじゃ?」
「あの研究所で暴れてる奴か」
シリスはため息をつきながらラビの方を向いた。
「最後にお返しだけさせてよ」
「は?」
怪訝そうに首を傾げるラビに向かって突如シリスが走った。
「ヤバい」
雪はイノセンスの能力で氷を操った。
ガンッ____!!!
鈍い音がしてシリスはラビの前に現れた氷の壁に阻まれた。
同時に研究所の入り口が破壊される音が響いた。
「ゲームオーバー……ここまでみたい」
シリスは残念そうにいうと一歩後ずさって口元を隠していたマフラーに手をかけた。赤い眼がいっそう輝く。
それをみたラビたちはあわてて耳を塞いだ。
「_____"音"」
シリスの開いた口から甲高い嫌な音が響き渡った。
周囲に散乱していた氷が砕け散り樹木が軋む。
耳を塞いでいても漏れ聞こえてくるその音が三人の神経を震わせ、思わず膝をつく。
「っ……」
脳までも揺さぶられ、雪の意識が薄れる。
「ち、くしょ…………」
雪は腕を動かそうとしたがそう出来ず、意識は完全に暗闇に落ちた。
その様子を見てからシリスは口を閉じ、軽い足取りでドロシーの元へ走っていった。
……
「……」
「…僕が」
「……ラ…!雪!…マン!」
暗闇から聞こえる声、その声に引っ張られるようにラビはうっすら目を開けた。
「ん……」
「気づいたか」
マリがやさしく言った。となりでレミシスが嬉しそうにラビを見下ろしている。
「……敵は?」
「どうやら逃げたようだ。今、他のエクソシストが研究所と周囲を見てるが多分見つからんだろうな」
ラビは身体を起こそうとしたがどうもうまく身体が動かせない。
「やめとけ、あいつの音で神経いかれてんだ。多分」
隣で同じように寝ていた雪が呟いた。
「気づいてたの」
レミシスが驚いたように聞いた。
「ちょっと前にな。身体は痺れて言う事きかネェよ」
「そうじゃな」
同じく目を覚ましたらしいブックマンも同意した。
そこへ翼の羽ばたく音がしてリンネが空から舞い降りた。
「やっぱり逃げられちゃったみたい。足跡も途中で消えてた」
「そうか」
そこへ神田と夜も帰ってくる。
「とりあえず本部に報告だな」
マリはそういうと器用に雪とブックマンを背負った。
「ユウー!!!背負ってくれさぁ」
「オレのファーストネームを呼ぶんじゃねぇ。おいてくぞ」
そう叫びながらも(多少乱暴にではあるが)ラビを背負う。
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「帰ろう、本部へ」
レミシスが癒しの音楽を奏でながら言った。
方舟が地面から現れる。
エクソシストたちは光るゲートの中へ消えていった。