二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: リクエスト可!戦国BASARA短編集! ( No.121 )
日時: 2010/05/25 16:27
名前: るりぃ (ID: F/ANFiDr)
参照: http://アフォ小説家?

『雨音がやんだ』

何度目かの武田との戦が始まろうとしていた。
謙信は相手に敬意を払い、戦の前に身だしなみを整える。
今回もそれは同じだ。
かすがは短くなった謙信の髪の毛をぼんやりと見た。
それは先程かすがが切ったのだった。
謙信の髪を切るのはかすがの役割だ。
かすがだけが謙信の髪を触ることが出来た。
それはかすがにとっては非常に誇らしいことだった。
かすがは自分が一番謙信の近くに居ると自負している。
そんな自分だからこそ謙信の些細な変化にも気付くことが出来ると。
だけど、今日だけは気付きたくなかった、とかすがは思った。
何も知らない赤子でいたかった。
そのまま戦場に出たかった。
普段は男のようにしているが、謙信はれっきとした女である。女らしい部分があっても何もおかしいところはないのだが、やはり今日の謙信はいつもと違うのだ。
戦の相手が武田信玄だからだろうか。
武田信玄と上杉謙信はお互いの力を認め合う好敵手である。
両軍は何度も戦っているがいっこうに決着はつかなかった。
それはもちろん互いの実力が拮抗しているからである。
ただそれだけのことである。
それだけのことである筈なのに、かすがの心は相変わらずただ一つその考えだけがあるのだった。
考え過ぎだ。
そうに決まっている。
だけど。
かすがには鏡に向かう謙信の姿が、恋人に逢いに行く女にしか見えなかった。
違う。
謙信は信玄と戦うことを楽しみにしているのであって、信玄に逢うことを楽しみにしている訳ではない、かすがは自分に言い聞かせる。
だが、万が一にでもその嫌な考えが当たっているというのなら、また戦いの決着はつかないだろう。
(…私が殺すしかない。私が信玄を殺す)
決意さえしてしまえばあとは実行するだけ。
忍らしく顔には出さなかったが、かすがの心はいつになく晴れやかだった。

(謙信様だっていつものように、「よくやりましたね、わたくしのうつくしきつるぎ」と微笑んで下さるに決まっている!)

それは、霧が濃いある日の話。