二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: リクエスト可!戦国BASARA短編集! ( No.134 )
日時: 2010/05/29 20:58
名前: るりぃ (ID: Ue208N0d)
参照: http://アフォ小説家?

『最初で最後』

街のある図書館で、いつも見かけるあの人。
なぜか気になって目で追い掛けてしまう。
名前はわからないのに。
仲良くもなければ話したこともなくて。
それでも私は見ているだけの日々に満足していて。
だけど。
今日は特別だった。
忘れもしない……

「あ。」
今日もまた、図書館へ行き新刊の本を手にしようとしていた。
が、まずは前に借りていた本を戻す事を先にする。
本棚がたくさんあって、何メートルあるのかわからないくらいに高くて。
私の返す本は背の上の方に置いてあったため、そこに戻さなければならない。
ゆえに、大変で。けれど、そのために近くに常備してある脚立を使おうとしたところ、それがない。
はぁ……とため息をつき、しょうがない、頑張って戻すかと試みる。
ぐぐっとつま先に力を入れて踵を上げる。
そして手を挙げ、指先を伸ばす。
「……っく、あと……ちょっと…だ…っ」
ふるふると震える指が本に伝わり、本もぐらぐらと揺れる。
もう少しというところで戻せるというのに、それがうまくいかない。
それどころか、むしろ落ちてきそうな感じがして嫌な予感…などと思った矢先、一瞬力が抜けて本が私の頭に向かって落ちてきた。
「っ!………、?」
きゅっと目をつぶって痛みを覚悟した。
しかし、いつまで経っても、痛みは来ない。
本が当たる感触さえない。
あれ?と思いつつ目を開けると目の前に本を支える手が見えた。
そしてベタな展開だなんて思いながら振り返ると、そこにいたのは私が見かけるあの人だった。
その時にドキリとしたことは言うまでもない。
少しの間だけ見とれていると頭に衝撃が走った。そう、本が当たったのだ。
「いたっ!」
「ぼーっとしてちゃ駄目でしょ?」
「す、すみません…」
落ちた本を拾い上げる。
また戻さなきゃいけないと思うとため息が出そうだ。
眉を垂れ下げ、もう一度手を挙げる。
するとあの人の手が私の手と重なり合い、そのまま本を棚に入れ込む。
「あ、ありがとうございました……っ」
「あは、じゃーねー。」
彼はそう言うと私と反対に振り返り、静かな足音を立てながら歩く。
私はただただ背中を見てるだけで動くことができなかった。
そしてその背中が見えなくなったら、へなへなと腰が抜けた。
でも、なんか嬉しかった。
「ぷはぁ……、あんなに近づいたの初めて。」
すごくすごく緊張した。
「あ、そうだ。新刊のコーナーの所に行かなきゃ。」
すぐに思い出し、立ち上がる。
コーナーの所へ行くと、またもやあの人がいた。
今日は近づくことが多いな、なんて思いつつ駆け寄って行く。
またかと言う目で見られたけど、一瞬柔らかい表情になった…気がする。
「君もこの本が好きなの?」
「はい。この先生の書く小説は全て好きです。何て言うか、個性的で……」
「俺様も好きな小説家なんだ。これの魅力が分かる人がいたなんてね……。君、名前、何?」
「あ、石塚 彩華って言います。貴方は…?」
「俺様は佐助。猿飛 佐助。」
猿飛……佐助…。佐助…さん、か……
やっと名前を交わし、お互い通じるものがあった。初めてちゃんと話して、彼の柔らかい表情も見れて、なんか、今日は吉日かも。
でもね。
今日は厄日…だった。
小説のことで気が合い、それについて話すために図書館から出た。
といっても敷地内だが。
私と佐助さんは大きな木の下にあるベンチに座った。
爽やかな風が肌に当たって心地良くて、地面はふんわりとした芝生で気持ち良くて。
昼寝にはうってつけの場所だ。
そこで私達は語り出した。
とても長く話した気がするけど、楽しい時間というものはなぜか、すぐに過ぎ去っていく。
小説のこと以外にも話は盛り上がった。ずっと続けばいいのにと……切に願った。
「それからですね…「佐助ーっ!」
彼の名を呼ぶ女の人の声が聞こえた。
親しげに呼ぶ、そんな声が徐々に大きくなっていって、こっちに来ている事が分かる。
なんか、嫌だ。
そう思った刹那、佐助さんは立ち上がる。
先程とは違う心臓の高鳴りがして、何で立ち上がるの?などと疑問が次々に浮かぶ。
「ごめんね、そろそろ時間なんだ。また今度会った時に話そうね。」
「は…い。あの方は、お姉さんか何かですか……?」
何言ってるの、私。
黙っておけば、彼女とかを知らなくていいのに。
このままさよならをしておけばよかったのに……
「ううん、俺様の想い人だよ。」
想い…人…。…そっか、彼女か
「綺麗な方ですね。…それじゃあ私は失礼します、」
走って逃げる。
涙を見られたくなくて、誰からでも遠ざかる様に。
ああ、なんて愚かな人間なんだろうか。
初めて声をかけられて、かけて。
話して、お互い通じるものわかったのに。
「ははっ……」
私が気になっていた人は。
彼女がいました。
私一人…自惚れてた。
「バカだな…、私……っ…くっ。」
ぼろぼろと零れ落ちる涙。
私はしゃがみ込み顔を俯かせる。
「っ…ふぇっ、っく、ひっく……」
今日だけは、今だけは泣いてもいいよね。
すっきりしたいもの。
気の済むまで泣いて泣いて、そしてふっ切れて現実を受け止めよう。
まだ元就さんのことは気になるけど、ゆっくりとその恋を応援しよう。
私は…彼の、友になれたのだから。
「…ぐすっ……よし。」
私は弱くない。
大丈夫。
今度会う時は笑って会える。
「だい、じょう…ぶ…っ」
私はまだ彼の傍にいることができる。
しかしずっとじゃない。
一時だけだけど。
それでもいいんだ。
「……うん、ふっ切れた!よーしっ、本読もうっと。」
私は再び図書館へ足を運んだ。
明日また佐助さんと好きな小説について話し合う為に少しでも読んでおきたくて…

『最初で最後』
(お二人の未来が)
(幸せにと願っております…)