二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ジャンル色々短編〜リクエスト可!最近は戦国BASARA〜 ( No.75 )
- 日時: 2010/05/01 10:41
- 名前: るりぃ (ID: 42M2RXjr)
『愛が殺せと叫ぶから』
銃口を向けた先の彼は、血の滴るナイフでひゅ、と風を切り、紅をはらった。
バタフライを指先で弄びながら、月の青白い光で照らされた2つの眼をこちらに向けてにやりと笑う。
「・・・聞こえなかったのかな、俺様の自白。いや、告白というべきか。」
ぶれそうになる狙いを必死に耐えて、私はただ彼の頭を打ち抜くことだけに集中しようと思った。
それなのに、指先は震え、彼を見つめる私の目はじんじんと痛み。
緊張からかこめかみから頬にかけて冷や汗が筋を作る。
「なんならもう一度言おうか。」
「・・・言わないで・・・」
「俺様が、今まで人を殺してきた理由と、これからも人を殺しつづける理由・・・」
「言うなァッ!」
破裂音がして、彼の後ろにある古いコンクリートの壁に銃弾が打ち込まれる。
その弾痕を見た彼は、さっき切り落とした生首を持ち上げてまるで腹話術でもするかのように自分の横に並べ、笑った。
「何故拒むのかなぁ、真実から眼をそむけるのは良くないねえ、刑事くん。」
生首をこくんと頷かせた彼に向かって、私は改めて銃を構える。
彼はそれをみて楽しそうに笑うと、生首をまるで飽きた人形のようにぽい、と投げ捨てた。
「俺様が言いたいのは一つだよ。」
返り血で鮮やかに彩られた顔で彼は笑う。
それは眼を見張るほどに優しくて。
彼の本質を見失いそうで。
「全ての幕開けは君だから、幕を引くのも君しかいないってコト。」
-----愛が殺せと叫ぶから
無線が入って、私を含め一課の刑事はある廃ビルに直行した。
そこに、今世間を騒がせる凶悪殺人鬼<<佐助>>がいることを知ったからである。
彼の犯行は迅速で残虐だった。
そしていつも、何故か犯行を無線で警察に知らせ、刑事を呼び寄せる。
しかし彼を何度視界に収めても、何度言葉を交わしても、警察の必死の捜査を嘲笑うかのように佐助は逃げおおせてしまう。
まるで刑事を呼び寄せて追いかけっこをしているかのようだ。
そして今回も例に漏れず佐助は無線で警察を廃ビルに呼び寄せたのである。
ビルに入り、佐助の姿を確認し、銃を構えた所まではいつもと一緒だった。
しかしその先にあったのは、いつもとはまるで違う、悪夢であれと願うような残酷な真実だった。
「ぐあぁッ!」
「・・・ッ!」
血飛沫が顔にかかる。
思わず目を細めることも出来ず、私はただ、目の前の光景を目にし、信じられないまま立ちすくんでいた。
「よし、お掃除完了♪」
「・・・・・・何を、したの・・・?」
足元にうずくまって動かない同僚を見下ろすとそこに涙が落ちた。
もう胸の上下も無い。
息絶えた同僚から彼に目を戻すと、彼はきょとんとした顔で首をかしげていた。
「何って、殺しちゃった、邪魔だから。」
その、あまりにも罪の無い物言いに、私の中で何かが切れた。
「ああああぁぁッ!」
銃口を彼にあわせ、私は何度も引き金を引いた。
しかし、弾丸は全てあっさりとかわされ、弾切れを引き金が知らせる。
「・・・ッ!」
「弾、込めれば?待っててあげる。」
「馬鹿にしてるの!?」
「違うよ、親切心ってやう、大人しく受け取ってほしいなぁ。」
やはり馬鹿にしている。
私は怒りのあまりすぐにでも殴りかかりたい位だったが、素手でかなう自信は正直なかった。
馬鹿にしたことを後悔させてやると頭の中で繰り返しながら、震える手で弾を込める。
「折角だから、この合間に俺様の話聞いてくれる?」
「好きにしなさいよ、遺言として聞いてあげるわ。」
彼は私の強気な発言に苦笑すると肩をすくめた。
そう広くないビルの一室を見回して、古い壁にもたれかかる。
「失敗した、もっとロマンチックな場所にすればよかったな、東京タワーとか。」
「それが遺言?」
「違うって、せっかちだねぇ。この殺人劇の<<動機>>の話だよ。君には伝えておこうと思って。」
動機と聞いて私は顔を上げた。
希代の殺人鬼である彼の犯行動機。
警察も週刊誌も彼を快楽殺人者と捉えていた。
もちろん、捜査はしたが、それらしい理由は見つからなかったし、佐助という人間に関しても謎ばかりだ。
その彼が動機を自白する。
刑事としても人間としてもその答えに興味があった。
「・・・聞いてあげるわ。」
「そりゃどうも、動機はね、もの凄くシンプルなんだよ、我ながら。」
「・・・『殺したかったから』なんていうんじゃないでしょうね・・・」
それを聞いて彼は笑いながら首を横に振った。
すでに弾を込め終わった私をみてにこりと笑う。
「君が好きだから。」
耳を疑った。
冗談ではぐらかされている。
そう思って銃口を佐助に向ける。
「適当なことを言わないで!!そんなことの為に私の仲間も殺したというの!?」
「そんなことじゃない、俺様にとっては全てなんだ。」
銃口を向けられているにも関らず、彼はふと笑って、壊れたガラスの向こうに広がる夜の町に目を向けた。
「君を好きになって、刑事だと知って、どうしたら君の心に自分を刻み付けられるか、考えた。その結果がこれ。」
「そんな馬鹿なこと・・・」
「憎しみでも何でもいいんだ、君に一生消えない跡を残したかった。その瞳に俺しか映したくなかった。嬉しかったな・・・いつも君は必死に俺を追いかけてくれるから。」
どうやら彼は本気らしかった。
理解するなんて程遠い・・・狂ってる・・・
「仲間を・・・殺す必要は無かったわ。」
「これだけやりゃあ俺様のこと一生忘れないっしょ?君さえ生きていればそれで嬉しいんだから、俺は。」
「この・・・ッ!」
私の放った弾丸が彼の右肩を掠る。
軽く避けられたはずなのに、彼は微動だにしなかった。
「・・・もう避ける気は無いよ。撃てばいい。」
「・・・どういうつもり・・・。」
黒い上着が破けて、血が流れるのをちらりと見ただけで、彼はそれを抑えようともしなかった。
苦痛に顔をゆがめることもなく、ただ、優しく笑う。
「言ったろ。君が好きなんだ、君の中に、残りたい。」
バタフライナイフが月に反射してきらりと輝く。
「君に殺されたいんだ。」
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「全ての幕開けは君だから・・・幕を引くのは君しかいない・・・」
私は1人で彼の残した言葉を繰り返した。
廃ビルには、仲間の刑事たちの骸と私しか残っていなかった。
青白い月明かりの下で私に告白した殺人鬼はもういない。
結局引き金を引けない私をみて、彼は私の目の前まで歩いてきて、銃口を自分の心臓に当てた。
私の髪を指先でなぞるように撫でて、少し首をかしげるように覗き込み。
優しく、囁く。
『俺は君が好き、だから君を殺さない、・・・君はどうかな。』
引き金を引けば良いだけの話だった。
指にほんの少し力を入れるだけでいい。
そうすれば仲間の仇も取れ、警察の面子も潰さなくてすむ。
・・・そしてこの殺人劇も終わる。
彼の命を奪うだけで。
それなのに私は引き金を引くことが出来なかった。
動かない、否、動けない私をみて彼はそっと近づき、頬に唇を押し当て、闇に消えた。
きっとまた、彼は私に会いに来る。
殺戮を繰り返して、私に殺される為に。
「何故・・・撃てないの?」
彼の言葉どおり、私が彼を愛しているかは分からない。
だけど、私は幕を引けなかった。
この、狂った殺人劇に。
「うあああああああぁぁァァッ!」
喉が裂けんばかりに発した私の声は誰に届くと言う事も無く。
骸と、地の海に沈んでいった。