二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 絆された想い / 序章 ( No.1 )
日時: 2010/04/25 03:45
名前: 御伽 氷柩 (ID: KoVjVisw)

 三柳椿は仕事が終わり、ふらふらと千鳥足で帰路を歩いていた。少し曇っているが、月はよく見える。綺麗な半月だった。
 昨年に大学を卒業して親元を離れた三柳は特にやりたいこともなく、近くの職場でなるがままに働いていた。朝早く会社に出勤し、事務職を行う。上司の怒りのはけぐちやセクハラに耐えながらも、最後は同僚と飲んで帰宅。至って普通の生活を送っていた。
 三柳は、小さな石に躓いて転んだ。アルコールが入りすぎているのか、痛みすら感じていないように見える。まるでゾンビのようにゆっくりと眼にかかる長い髪をよけながら顔を上げた。顔を思い切りぶつけたせいか、鼻血が出ている。
 そのままのろのろと立ち上がろうとすると、スッと目の前に手が差し出された。

「……誰?」

 朧な視界に映る手の主に訊ねた。だが、返答は返ってこない。相手の顔はよく判別できないが、恐らく無表情。
 誰だか知らない人間に手を差し出される? そんな哀れな女に見えるのか?
 プライド高かった三柳は手を振り払い、ふらふらと自分で立ち上がった。スカートやタイツについた砂を掃う。とんだ災難だ。酔いながらもそう思った。
 目の前の人物は、三柳の鞄を拾い手渡した。なんだ、コイツ。

「ねぇ、ちょっと。誰なわけぇ?」

 朧な視界、そしてタイミングよく曇ったせいで視界が悪い。ごしごしと目をこするが、よく見えない。

「……ぎ……き──」

「はぁ? あんだってぇ?」

 小さく絞り出すような声は、酔っている三柳には聞こえない。耳の横に手をつけて聞き返すが、それ以上は何も言ってくれなかった。
 意味のわからない相手にこれ以上構っていたら疲れるだけだ。そう感じた三柳は小さく舌打ちをした後、勝手に会釈をして再び帰路を歩こうとしたが、手を掴まれた。何だって言うんだ。
 文句を言ってやろうと、眉間に皺を寄せながら相手を睨み付けた。

「あんだって……──」

 振り返ったとき、明るい月明かりに照らされていた為に相手の顔が見えた。
 ショートカットの髪に小顔。体系から推測して恐らく女。その女の顔は真っ赤に染まっていた。前髪が未だに流れる血のせいで、べったりと顔にくっついている。そのせいか、血の流れもよく見えた。よく耳を済ませば、地面に落ちた血の池に、水音を立てながら新たな血液がその領地を広げていっていた。
 三柳は一気に酔いが覚め、血の気が引いていく。まるで掴まれている場所から、血を吸われているかのようだ。よく感覚を研ぎ澄ませば、女に触れられている手にぬめぬめとした感触を感じる。
 女は無表情のまま、ゆっくりと口を開いた。その無表情さが逆に恐怖をそそる。

「みや……なぎ、つ──ばき……」

「い……いやぁぁぁぁ!」

 再び暗くなった夜道に三柳の悲鳴が響き、手を振り払って必死に走った。殺される……!
 女は三柳の小さくなっていく背中を見て、小さく手を伸ばし、笑った。


−TO BE CONTINUED.−