二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 絆された想い / 第一章[02] ( No.3 )
日時: 2010/04/25 03:46
名前: 御伽 氷柩 (ID: KoVjVisw)

 海雲が教室に入ると、ざわざわと生徒達が騒いでいた。友達同士でおしゃべりをするのは普通だが、明らかに様子がおかしい。

「あ、海雲ちゃん!」

 海雲に気付いた友達が近づいてきた。

「おはよう、雪ちゃん」

 朝一番の笑顔を浮かべ、挨拶をした。
 雪は名前の通りなのか肌が白く、ショートヘアーを外はねにした可愛らしい女の子だ。服装も綺麗なワンピースを着ており、どこかお嬢様オーラが出ている。愛くるしい笑顔で微笑みかけられると、同じ女の海雲もたまに見とれてしまう程だ。学芸会でもいつもヒロイン役。大人になったらどんな女の人になるんだろう。

「おはよう。あのね、噂聞いた?」

「噂?」

「うん。一丁目の千蔵アパートの近くの話」

 一丁目といえば学校から少し離れ、街の中でも孤立している場所だ。海雲の家は二丁目にありたまに通るのだが、同じ街とはいえないような寂しさを持っていた。そのためか通り魔などの被害が多く、連日ニュースでも“一丁目”と言うワードをよく聞く。
 しかし、学校で噂になるような事はニュースで見ていない。ふるふると首を横に振ると、雪の目が輝いた。

「ほんと?!じゃぁ、私が教えてあげる。こっちにきて」

 雪に手を引かれ、グループの中に混ざる。女子たちが海雲に挨拶を交わし、席に座るように促した。
 カバンを脇に置き、丁度近くにあった自分の席に腰を下ろして雪が話すのを待つ。

「じゃぁみんな揃ったし、教えてあげる。──実はね、一丁目の千倉アパートの近くで、幽霊が出るの! 頭から血を流した怪物みたいなので、名前を呼んでくるんだって! それで、名前を呼ばれてつかまった人は、皆地獄に連れて行かれちゃうの……!」

 目に力をこめて話し終わった雪は、周りの友達を見回す。
 感想を求めているようだ。

「うっそだー!」

「幽霊なんていないって、パパが言ってたけど」

 しかし、周りの子供たちはわいわいと否定的な感想をこぼしていく。雪は嘘をつくような子ではないが、海雲も幽霊などは信じられなかった。
 人とは死んじゃったら天国に行くから、海雲達がいる世界には残らないんだよ。そう言いかけて言葉を飲み込んだ。
 チラリと雪を見ると、悲しそうに俯いていたからだ。皆で嘘だ何だと必要はない。

「雪ちゃんは、幽霊見たの?」

 海雲の問いかけに、雪は首を横に振った。どうやら噂で聞いただけらしい。

「あったりめーだろ! 一丁目なんて、そういう噂ばっかりじゃねぇか!」

 急に海雲の前に男の子の顔がズイッと近づいてきた。
 不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。

「でも、私、聞いたの。雄介君は聞いてないの?」

「ガセだよ、ガセ」

 そういってカラカラと笑う雄介。彼は雪の幼馴染らしく、一丁目に住んでいる。髪が少し長く、癖毛。同じ一丁目に住む雪はお嬢様オーラが出ていると言うのに、雄介は小汚い服とどこか貧乏くさいイメージがあった。
 隣にいても似合わない二人だが、誰よりも仲がいい。少なくとも海雲はそう思っていた。いいな、幼馴染。

「私、雄介君のお母さんに聞いたんだよ。気をつけなさいね、って」

「か、かーちゃんから?!」

「うん。呪われちゃうから」

 呪い。そうきいて、雄介はフンと鼻で笑った。

「呪いって……ばっかじゃねーの? そんなのねーよ。怖がりの癖にそういうの信じるから──お化けが寄ってくるんだ」

 声のトーンを下げてそれらしく語る雄介に、雪はびくりと震える。顔を真っ青にした雪を見て、再びカラカラと笑った。

「ほ、本当にいるんだもん。気をつけてね、雄介君……地獄なんて、行かないでよ」

「いねぇっつってんだろ! ……じゃぁよ、放課後、本当かどうか見に行こうぜ」

 苛立ちを隠せない表情で、腕を組みながら言う。雪は首を横に振るが、雄介に頬を抓られ、半ば強制的に首を縦に振った。
 他のメンバーも誘うが、雪以外の誰一人として首を縦に振るものがいない。雄介は雪にしか乱暴をしないために、小さく舌打ちをした。

「んだよ、皆幽霊なんて信じやがって。だらしねーの」

「だっているんだもん」

 懲りないのか、雪がすかさず雄介に突っ込む。

「だぁから、いねぇんだっつってんだろうが! ぶん殴るぞ!」

「ご、ごめんね、雄介君。怒らないで」

 いないと言いつつも、子供なのだからきっと怖いに違いない。海雲もどちらかと言うと幽霊やお化けは苦手だ。以前八雲に遊園地に連れて行ってもらったことがあるが、お化け屋敷だけは入れなかった。もっとも、八雲にも「ここには入っちゃ駄目だ」と怒られてしまったということもあるのだが。
 どうせ雪ちゃんを安心させるために、いないって言ってるんでしょ。雄介の本心はこうだと、海雲は勝手に決め付けた。
 しかし、これでは雪が一人で怖い思いをしなければいけない。雄介がいる為安心だろうが、心細いだろう。
 海雲はゆっくりと手を上げた。

「海雲も一緒に行くよ! 一丁目は海雲のお家の近くだし」

「あぁ……そういや、斉藤二丁目に引っ越したとか言ってたな。よし、じゃぁ三人で行こうぜ。他の奴はいかねぇんだろ?」

 雄介が確認のためにもう一度聞くが、変わらない。「弱虫だな」とため息混じりに吐き捨てるが、誰一人反論しなかった。
 その後、まるでタイミングを見計らったかのように担任の教師が教室に入り、「着席!」と大声を上げた。