二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【BLEACH】黒猫綺譚——onigoto——【再始動】 ( No.15 )
日時: 2010/04/23 20:25
名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: kG84zh4.)

【第八話】橙色と闇色と



黒崎一護はルキアを助けるために上空を走りながら双極へと急いでいた
自分のために犠牲になる人間など二度と見たくないと唇を噛みしめながら
僅かな時間と戦いながらとにかく急ぐ

そんな一護に突如今まで感じたこともない霊圧が襲いかかる
特に鬼道などの攻撃を仕掛けられたわけでもなく
得体の知れない斬魄刀の能力に当てられたわけでもない
ただ今まで向かい合ってきたどの死神よりも
濃く、重く、暗く、激しい霊圧は限界状態の一護の体に相当のダメージを与えた

「なっ!?誰だよこんな時に…クソッ邪魔されてたまるか」

全身を軋ませる霊圧から逃れようと意識を研ぎ澄ます
霊圧の出所は、自分のほぼ真下

何か嫌な予感がした


「破道の三十三———蒼火墜」


地上から聞こえたのはまだ幼い少女の声
それに戸惑う間もなく一瞬乱れた神経は攻撃を避けることはできなかった
無様にも直撃を受けて地上へと落下する
硬い地面に叩きつけられてうめき声を上げながら起き上がると
瞳に映ったのは壁の上に立つ一人の死神
幼い少女の姿をした死神の瞳は冷たく一護を見据えていた

「誰だよ…テメェ」

苛立ったような口調で言葉を投げつける一護
それにも答えないつもりで、少女———黒猫は一護を見下ろしたまま口を開く

「橙色の髪…身の丈ほどもある斬魄刀———お前が黒崎一護……死神もどきの人間か」

その声音は普段のあどけなさなど欠片もない冷え切ったそれで
苛立ちに熱くなっていた一護の頭もだんだんと冷えていく
今まで何人かの死神と渡り合ってきたが
ここまでの濃厚な、隠す気もない憎悪をぶつけられるのは初めてだった
憎悪は殺意の一歩手前
目の前の少女の心は殺意に塗りつぶされる寸前で思い留まっているようだった

「ここまでご苦労さんやったねぇ、少年」

視線を交差させたまま動けずにいる一護と黒猫の間に割って入る呑気な声があった
その声に一護はピクリと反応する
それは以前聞いたことのある声
折角開けた門を閉ざして瀞霊廷への侵入を阻んだ男の声

「テメェ、あの時の」

黒猫の背後に姿を現した長身の男———市丸を見て一護は今にも噛みつきそうな勢いで言葉を絞り出す
市丸に向けられる憎悪の視線に黒猫は冷たい表情を苛立ちへと変え、一歩足を踏み出そうとする

それを黒猫の肩を掴んで止めながら、市丸は笑顔で一護へ言葉を返した

「ほぉ、ボクのことなんか覚えとったんやね…嬉しいわぁ」

その緊張感の欠片もない言葉に一護の苛立ちは深まる
ついでのつられて黒猫の苛立ちまで膨らんでいた
両者の眉間皺が深くなる

「ふざけるな…どういうつもりだ」

一刻も早くルキアの元へ辿りつきたい一護は殆ど本気で怒鳴っているような声で市丸を問いつめる
早く片付けてしまおうかと刀に手をかけると黒猫の瞳が光った

「黒っ!———はぁ、ボクの指示なしで動いたらあかんで」

一護が己の刀を掴むよりも早く
黒猫は市丸の傍を離れると、制止も聞かずに一護へと一直線に突進する
かろうじて黒猫が動いたことまでを認識できた一護は自分の目と鼻の先の光景に驚く

黒猫は一護に飛びかかる寸前で追いついた市丸に後ろから襟首を掴まれていたのだ
丁度一護の首筋に黒猫の犬歯が届く寸前
後一瞬遅かったら一護の首は黒猫の歯の餌食になっていた
宙に浮くような体勢で市丸に掴まれている黒猫はそこで漸く大人しくなり、微動だにしない
それを確認してから市丸は黒猫を元居た場所に連れ戻して改めて一護と向かい合う

「もう少し、あと少しで全てが終わるんや…それまで大人しゅう黒と遊んでまっとってな」

笑顔でさらりとそんなことを言って手をひらりと振る市丸
その態度に一護は懲りることなく苛立った

「だから、テメェふざけんなよ!誰が待ってられるかっ———俺は先へ行く」

一護は市丸の言葉を無視して先へと歩み出そうとする
それを予測していたかのような余裕さで市丸は黒猫へ声をかける

「黒…遊んでえぇのはここだけやで?こっからあの子を逃がすのはあかん、殺すのもあかん」

黙ったままの黒猫に市丸は首を傾げる

「黒?…返事は」

ゆっくりと市丸を見上げた黒猫ははっきりとした口調で返事を返した

「はい、わかりました。ギン隊長」



次の瞬間
一護の目の前に小柄な少女が立っていて
瞬きする間もなく
その少女の手に握られた刀は一護の首筋へ向かっていて
息をつく間もなく
一護は元居た場所へと連れ戻されていた


そこに市丸の姿は影もなかった

そこにいるのは

焦りで冷静さを失っている一護と

瀞霊廷内で初めて刀を抜いた憎悪に瞳を輝かせた黒猫だけ

市丸の命のお陰で

黒猫の心は殺意に染まらずにいた