二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【BLEACH】黒猫綺譚——onigoto——【再始動】 ( No.16 )
日時: 2010/04/24 18:56
名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: U.0LA5in)

【第九話】子猫は獅子を従える


早くルキアの元へ行かなければならないのに
それを拒む目の前の少女が一護は恨めしかった
黒猫の真意など知るよしもない一護がそう感じるのは仕方のないことで
一護を理解することができない黒猫の現在の行動もまた仕方のないことだった

一護は先程と同じように地面へと叩きつけられた後同じように起き上がる
さっきと違うのは既に刀を抜いているということと
黒猫を睨みつける瞳に確かな闘志が浮かんでいることだ
コイツを倒さなければ先へは行けない
そう理解した一護は手に入れたばかりの卍解を使う気ですらいた

対する黒猫も先程と同じように壁の上に立っていて一護を冷たく見下ろしていた
既に抜いてある刀はどう見ても脇差で
大きさも形状も市丸と似通った所がある
しかし、体の大きさの問題で黒猫が持つその刀は中刀程のものに見えてしまう
それを持った手をダラリと足の横につけながら一護を無言で見下ろし続ける

先に口を開いたのは一護のほうだった

「で、何もんだ…テメェ」

表情に一切の変化を見せぬまま黒猫は静かに口を開く

「俺の名は市丸黒猫…三番隊の三席だ」

三席という現在の地位は市丸に貰ったもので
表上はそれを明かしていないため本来ならば口にしてはいけない
だが市丸に敵にだけは告げていいと言われていた
席次の分かる敵ならばそれで少しは怖気づくだろうから

しかし実際、一護はすでに三席では斑目を
副隊長では阿散井を、隊長では更木を既に倒している
今更に三席ごときを名乗られて気が引けるわけがなかった
それでも、見た目は幼い少女があの斑目と同位という事実には内心驚いていた
どうやら軽く見てはいけないらしいと己を律する

警戒の色を濃くした瞳で改めて黒猫を見上げた時
一護は己の目を疑った

黒猫の背後に青白い靄が集まり始めている
それは次第に黒猫を覆い、形をなしていく
まるで彼女を守るかのように囲むその靄は獣の形をしていた
蛇が髑髏を巻くように黒猫を中心にして白い獣が控えている
それはよく見ると純白にしては青味がかっており
青色というにははっきりしないほど淡い色合いだった
雪というよりは冷たい大理石のような
霊圧以前にそれ自体が堂々とした威圧感を放つ獅子
小柄な黒猫がさらに子供のように見えてしまう

「な、何だよ…後ろのそれ」

気を抜けば地面へ倒されそうなその威圧感に顔をひきつらせながら一護は問いかける
その疑問に愚かな者でも見るような顔をして黒猫は首を傾げる
力なく降ろしていた刀を一護によく見えるように己の前に掲げて口を開いた

「普通の死神なら、自分の刀くらい具象化できるであろう」

否、黒猫のその言葉は間違っている
刀をそれ以外の形に具象化できるようになるには対話ができる以上のレベルにまで同調しなければらない
または卍解ができるほどに服従させて取り込まなければ具象化は困難だ
それを刀の名を呼ぶことなく自然に行えるということは、黒猫とその刀の同調性が非常に高いことを示していた
刀が黒猫に取り込まれているのか
黒猫が刀に取り込まれているのか
確かなことは分からないが両者はほぼ同一の存在になっていた

乱菊や狛村が見たら心底驚くような
冷たく豪儀な黒猫の態度
それは一護にすらいまや威圧感を与えていた

「———卍解『天鎖斬月』」

黒猫の言葉に反応を返すよりも先に一護は己の刀を解放した
形状の変化した死覇装を身に纏った一護の周りを漆黒の風が覆い爆風を上げる
それは始解どころでなく卍解
奥の手として残しておく余裕さえ今の一護にはなかった
青白い獅子を従える黒猫の存在に相当な脅威を感じている

「なんだ…もう卍解か」

卍解でさっきの倍以上の霊圧になった一護を見下ろして
その小さな体を弾き飛ばしそうなほどの爆風を受けてなお黒猫の表情は動かない
背後の獅子に体を預けて体勢を保ちながら漸く風が止まった頃を見計らって己の足で立つ
掲げた刀を真っ直ぐに見据えて薄く唇を開いた

「妖獅子」

小さく呟かれた言葉は彼女の斬魄刀の名前
呼ばれた獅子は黒猫の背後から消えて靄へと戻り刀に収まる
黒猫は青白く輝く脇差を再びダラリと降ろした

「一振り」

降ろした次の瞬間にその刀は既に上へ振り上げられていて
斬られるかと一瞬身構えた一護の体には何も起こらず
そんな間抜けな反応を示した一護に反応することはく黒猫は刀を振り下ろした

「二振り」

怪訝な顔をする一護など気にせず黒猫は刀を振り上げる

「三振り」

もう一度振り下ろされた黒猫の刀は背後へ爆風を浴びせた
その光景を見て一護はさらなる違和感を覚える
さっきまで短かった黒猫の刀は
現在一護の卍解をした斬月と同じくらいの長さになっているように見えた

「四振り…こんなものか」

小さく呟いて刀をぶらぶらと振る
漸く一護へと視線を戻した黒猫が呟いた「こんなもの」という言葉
しかし、視線が交差した瞬間一護は思わず崩れ落ちそうになる

最初会ったときは始解すらしていない自分と同レベルの霊圧だと思って油断した
卍解した後はその霊圧の差に余裕を覚えた
そして今、何でもないような表情で顔を上げた黒猫の霊圧は一護とほぼ同格にまで増幅していた
卍解時でなければ耐えられなかったかもしれないと本気で感じた

異常なまでの霊圧の上昇
一護の場合は抑えていたものを解放しただけ
しかし黒猫のものは明らかに異質だった
無から有を生み出したかのように最初は明らかになかったものが増えている
周りの霊圧を奪ったわけでも
一護のそれを奪ったわけでもない
訳の分からない相手には恐怖するしかなかった

つまらなそうな雰囲気のまま動かない黒猫に痺れを切らして一護は口を開く

「俺は早くアイツのとこに行かなきゃならねぇんだよ…そっちから来ないならさっさと行くぜ」

一方的な宣戦布告
刀を構える一護に黒猫は鈍く光る瞳を向けた

「ルキア姉様の元へは行かせぬ」

はっきりとした決意の滲む声
その声で紡がれた人物の意外さに一護は一瞬乱れる
それにも気づいていないのか、構わないのか
一護より先に戦闘態勢に入ったのは黒猫の方だった

明らかに長くなった刀を力なく持ったまま静かに呟く




「咬み千切れ『獣帝妖獅子』」