二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ◇ヘタレ色模様◇  【ヘタリア】 ( No.32 )
日時: 2010/05/25 15:20
名前: 柏木その ◆NrQDiBQfmg (ID: ZYR2ZLjZ)




【大嫌いな神様に Ⅱ】


「何を………」

顔を引き攣らせて、反論しかけたアメリカの肩の横を
びゅっ、とまたステッキがかすめる。

「悪いなアメリカ。これも世界平和の為だ」

「違うよそれ世界平和でも何でもないからね!君の自己満足だからね!」

ビュッ、と突き出されるステッキに、間一髪で避けつづけるアメリカ。

そんなやり取りを繰り返し、遂にイギリスが痺れを切らした。


「だあぁぁ!止まれコルァ!一回位いいだろ!ちびめりかに戻ってみたって!童心に帰ろうぜ!」

「い・や・だァァァ!一人で帰っててくれ!俺はもうあの頃とは違うんだからな!」

「———————」


ピタッと、ステッキがアメリカの眼前数ミリで止まる。
同時にイギリスの動きも止まった。

イギリスは明らかに、刺されたような顔をして俯いた。



「何だよ、それ………」

イギリスがぽつりと呟いた言葉は、小さすぎてアメリカの耳には届かなかった。





『もうあの頃とは違う』






フランスがいたら、また親馬鹿とか過保護とかブラコンとか言って笑うだろう。
自分でも子離れできない親のような心境が笑けてくる。

でも。

やっぱりその言葉は寂しかった。


結局俺は、お前がいなくなったあの時から何も変わっちゃいないのに。
割り切れないのに。
弱いままなのに。

なぁ、お前はいつから俺に何も相談しなくなった?

いつから何でも自分で決めるようになった?


いつのまに、

そんなに一人で歩いてくようになっちまったんだよ。


「……本当に、今日はどうしたんだい、イギリス?」
動かなくなったイギリスに、溜息を吐きつつアメリカは言った。

「……今日はじゃ……ねぇよ」

「へ?」



今日はじゃない。
いつも、いつもいつも思ってる。

また一度だけでいいから、あの頃のアイツに会いたいだなんて。

いつも馬鹿みたいにふんぎりをつけるきっかけを探してる。


神様はこの一つの願いすら、叶えてくれやしないけど。

俺だって、今のお前を否定するつもりはないけれど。
今のお前も不本意ながら大事だけれど。


でも

あの時一緒にいた時間が、
いつも隣にいた時間が、

思い出すと苦しいんだ。



黙り込んでるのもおかしいし、何か喋ろうとは思うのに、口を開くとまた泣きそうになる。

そんなみじめなところを見られたくない。

この女々しい気持ちを悟られたくない。

そしてまた口をつぐんで下を向く。悪循環だ。

俺最近、涙腺弱すぎんだろ、ばか。

ちくしょう、年なのかな。


「……君が今、何を考えてるのかは知らないけど」

口火を切ったのはアメリカだった。

アメリカは、いつの間にか、イギリスの隣で壁に背中を預けて腕を組み、
窓の外をじっと無表情に見つめていた。



「俺はもうあの頃のまんまじゃないし、あの頃の俺が戻ってくる事はないよ」



ああ、とどめ刺しやがった。

「……言われなくても分かってる」

「いーや、君は分かってないね。いつもいつもあの頃ばっか見ちゃってさ」

ああ、刺された図星が痛い。


「……っ!…だったら何なんだよ!」

吐き捨てた。瞬間、

一瞬だけ、アメリカが悲しそうな目をした気がした。

「………確かに見た目も考え方も変わったけど、あの頃の俺も、今の俺も、同じアメリカだよ」

ぽつり、とアメリカが呟いた言葉でようやく気付かされる。

「………あ、」

しまった、傷付けた。

成長はコイツのせいなんかじゃなかったのに。


顔を上げた時には、アメリカはもう既に玄関へ向かっていて。


廊下の先に、いつの間にかイギリスと同じくらい大きくなった背中が見えた。


「…ッ、アメリ」

「イギリスなんか、大っ嫌いだぞ」

「!」

アメリカは振り向かないまま、トントン、と靴を履いて言った。

胸がズキッと痛んだ。

今更傷付く資格なんてありはしないけど。


「でも、悔しい事に、気持ちはあの頃から変わってないかな」

そしてゆっくりと振り向いて、いつも通りに、にっと歯を見せて意味深に笑うと、アメリカは出て行った。

ぱたん、とイギリスを残して玄関の扉が閉まる。


一瞬、言ってる意味が分からなくなって、そして次の一瞬で理解した。





『いぎりしゅー大好きー』






あいつがよく言ってくれてた言葉。

まだそう思ってくれんのか?

こんな、ダメな兄貴分なのに。



バタバタと急いでベランダに出る。

落ちそうな勢いで身を乗り出して、

見つけた。


少し先の道路で信号待ちしてる、見慣れた茶色いジャンパー。

急いでその背中に向かって声を張り上げる。


「おい!」


ごめんな、もう、昔のお前に会いたいなんて言わないから。


「アメリカ!」

茶色いジャンパーがゆっくりとこっちを向く。


昔も今も、俺にしちゃあ糞生意気で可愛い弟分なのは変わらない。




「知ってるよ、ばぁか」

さっきの返事。

余裕顔で言い返してやれば、

はいはい、と言わんばかりに呆れ気味に笑われた。


信号が青になる。

昔、よく顔出しに行ってやっただろ。

次はお前が通い詰める番だからな。




ふっ、と自然と頬が緩んだのは



悔しいから死んでも言ってやらない。




*end*