二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 唄魂!-utatama-  【銀魂】 ( No.20 )
日時: 2010/05/05 16:08
名前: 柏木その ◆NrQDiBQfmg (ID: ZYR2ZLjZ)

第三訓*『頭は生きてる内に使え』


「くっ…そんなに世間の荒波に揉まれ、
 衰弱しきった一人のいたいけな少女に手を貸すのが嫌なんですか!?」


机をべしん!と少女が叩き、お茶がわずかに零れた。

と言ってももうそのお茶、遥か昔に注いだはいいが手をつけられる事なく、
もう残念なくらい冷めきってしまっているやつだけれども。


「わりーな、こっちの世界じゃ窓ガラス叩き割るような少女を“衰弱してる”とは形容しねーんだよ。
 つーかお前、ちゃんと窓ガラス弁償するんだろうなオイコラ」

「しますよー。貴方達が依頼を引き受けて下されば依頼金を支払うんでそれで直したらいいでしょう?窓」

「何だその嫌な金の動きィィ!?それ何一つこっちが得してねーだろうが!!」


ばしん!と銀時が机を叩き、乗っていたプリンが揺れた。
てか、何で客の前で自分だけプリン食ってんのこのオッサン?



「むかっ。
あーそうですかっいいですもう頼みません!お金ならたんまりありますもんねー!!」

ぴくり。
常にカツカツの生活をしている、万事屋メンバーの耳が、卑しく反応した。


「か、かかかか金なんてお前みたいな小娘が持ってる訳ねーしっ。銀さん騙されないよ?
 第一、魚魚族なんてそんな居酒屋みたいな名前した天人がそんな……」

「魚魚族は今交易で最も栄えてる天人ですよーう。
私、その民族のオヒメサマですよ?」


彼女が言い終わるのと、銀時が小唄の前にかしずくのが、同時だった。
手を取ってかしずいて、「お姫様」って、状態だ。ワールドイズマインだ。


「いやぁまさか貴女がそんな高貴な方だったとは知らず…数々のご無礼お許し下さい」

「「……………。」」

え、何、プライドないの? そんな半目になって彼を見やる、神楽と新八の視線には気付く由もなく。
少女の手を取った銀時の目には、もう諭吉しか映っていない。


「いやぁ、何ていうか、確かに佇まいに気品が溢れてるっていうか、
 身のこなし一つ一つが洗練されてるなーとは思ってたんすよ」

どの口が言ってんのソレ? そんな半目になって彼を見やる、神楽と新八の視線にはまだ気付かないそのアホ。


「そうですか?まあオヒメサマっても136番目ですけどねっ」

今度は彼女が言い終わるのと、銀時が小唄の取った手を投げ捨てるのが同時だった。


「ななな何しやがるんですか!!」

「うるせーよもうめんどくせーよ投げ出してーよ何もかも!
 136番目ってもうそれオヒメサマとは言えなくない!?もう帰れ頼むからァァ!!」


うんざりである。
ペースが乱される、とかそんな問題じゃない。

もう乱されて乱されて自分じゃなくなってずっと喘ぎっぱなしにされてる気分だ。
早く俺をいかせてくれ。


「銀さん、モノローグで下ネタ連発するの止めてもらえませんか」

「…人の心を読むんじゃねーよぱっつぁん。
 ———まあとりあえず、オヒメサマの我がままには付き合えねーっつーこった。
 俺たちも暇じゃねーの。さっさと帰れ」



「…………よ、ね」

「あ?」


また壮絶な舌戦が始まるのかと思いきや、少女は俯いてぽそりと何かを言っただけだった。
投げ出された手が、彼女の膝の上にぽとりと力なく落ちる。


「そう…ですよね。……ごめんなさい、いろいろ我がまま言って」

顔を上げた小唄は、眉を下げて微笑んだ。
それは、無理やり作った笑顔というのも難しい、泣きだす一歩手前のような。


「な、ちょ、おま」
明らかに動揺の冷や汗を流し始めた銀時を置き去りに、少女は再び俯いた。

「……ふぇ……ぅくっ」

小さく聞こえるのは嗚咽か。
目の前で凍りついた銀時から流れ出るのはもう冷や汗というより、川である。


「……………。」
新八と神楽が、ちらちらと非難がましい視線を銀時に投げる。

さすがに、気まずい。
20も超えたいい年した大人が、7つも8つも年下の小娘を、
しかもよりによって依頼人を、泣かせたとかそんなん。


“大人げないですよね、いい年してこんな、”
“女の子泣かすなんて最低アル”

無言のプレッシャーが銀時を襲う。


泣かすつもりはなかった。ただちょーっと意地になっただけで。

え?これ俺のせい?俺だけが悪いカンジになってんの?え?
ギギギ、と鈍い動きで少女を見やる。


少女の方は「うく……ひっく…」
と、本格的な泣きに入ったようである。


もはや銀時から流れるのは川じゃない。しょっぱい滝である。


「あああああ分かったよ!俺が悪かった!」

銀時は髪をガシガシと掻きあげて、歯噛みした。
ぼすっ、と小唄の頭に手を乗せる。

いい年こいた大の大人の、精一杯がそこにあった。


「悪かったし話もちゃんと聞くし依頼も受けるし!!頼むから泣きやん……」

「ええっ本当ですか!?」


ぼとり。
と銀時の手が小唄の頭から落ちる。


少女は満面の笑み、頬に一筋も雫の後をつける事なく、本っっ当に満面の笑みで顔を上げた。


「てめぇ嘘泣………!!」


確実に、巻き込まれた。
面倒くさい事に。