二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

彼らの結末 -2 ( No.5 )
日時: 2010/04/27 21:35
名前: くぁーつ (ID: WPWjN3c4)

 佐久間は最初、冗談でも言われているのかと思った。冗談にしては悪質すぎる、と怒りを煮えたぎらせたが——

 アフロディの瞳は、本気だった。
 
 決心したような、真っ直ぐで強い光を放つ瞳。思わず、佐久間は固まってしまう。

(——俺達は、)

 何も言えず、ただこちらを見据えているアフロディを佐久間も同じように見据えながら、心の中で呟く。
 

(——愚かだ)

 今の自分には、アイツは眩しすぎる。佐久間はそう思い、目を背ける。
 今、彼を支配しているのは怒りでも苛立ちでも哀しみでもなんでもなく——

 ただ、自分達は愚かだと思う、そんなものだった。

 言ってしまえば、無感情だった。感情といった感情は感じていない。
 ただ“思い”だけが肉体からだを心を全てを支配して、なにも考えられない。
 愚か。あまりにも美しく残酷なその言葉は、佐久間の頭の中で転がるように響き暴れた。
 
(嗚呼、)

 ため息のような言葉が、やはり心の中で吐き出される。
 いつも間にか伝っている自らの涙にも気付かぬまま、佐久間は心の中で言葉を紡ぎ続ける。

(俺達は、逃げてたんだ)

 そんな佐久間を、アフロディは何も言わずにただ見据えていた。
 まるで、こうなることを最初から予想していたように、あまりにも自然に。

(……ほら、だから僕は反対したんだ)

 アフロディは仲間の顔を思い出しながら、心の中でとなえつつ大きなため息をついた。
 ぎこちない沈黙が、流れる。波や風の音以外、無音だった。
 怖いほどに静けさが身に沁みて、アフロディはこの沈黙を破りたいと思った。
 けれど、それはしない。というより、できない。
 今、あんな状態になっている佐久間に下手に声を掛けることなんてできなかった。
 一方的に喋ってしまってもいいが、さすがにそれをするほど落ちぶれてもいない。
 気まずい、というのにもよく似た沈黙。しかしそれを感じているのは、恐らくアフロディだけだろう。

(……なにも言わないほうがいいか)

 うん、とアフロディは独りでに頷いた。そっとしておこう、と。……佐久間をこのような状態にさせたのは、自分達なのだが。
 それにしても、とアフロディはずっと頭にこびりついていた疑問を考え始めた。

(……なんで、ここなんだろう? ここって確か、真・帝国——)

 そこまで思考を巡らし、気付く。そう、ここは真・帝国学園のあった場所。
 なぜ仲間達はこんな場所を指摘したのか。やっと、アフロディは気付くことができた。
 そして、わざわざこんな場所を指摘した仲間達に若干呆れる。

(……やっぱり世宇子はSが多いのかなあ)

 微苦笑を浮かべつつ、次いで心の中で呟く。

(いくら“償い”だからって、黒歴史を掘り起こさなくてもいいだろうに)


**


 真・帝国学園の戦いがあってから。帝国学園のサッカーは、変わってしまった。
 終わってしまった、といっても過言ではない。
 佐久間と源田は入院していたため、帝国学園がそのような状況に陥っていることには、気付いていなかった。
 真面目に練習しないで、ただ命令されたようにサッカーボールを追いかけるだけの、もはやサッカーとは呼べない状況に。


(つづきます)