二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 鋼の錬金術師 —消えない嘘—  ( No.58 )
日時: 2010/05/21 20:55
名前: ちー ◆m6M0e7LQrQ (ID: 3vYI/oDu)

 俺達の過去を見て、何も言わなかった。
過去——。あいつの過去もオレ達の過去も、思い出すだけで苦々しいもの——。
 
       第17話 「夢」

 司令部を出て、宿屋を目指しながら中央<セントラル>の町を歩く。
 外はもう夕暮れ時で、日が沈みかけていた。日がエドワードとアルフォンスの顔に照らされた。
エドワードの目に夕日が映る。その金色の目の中で、さかんに燃える炎の様に映っていた。

「夕日綺麗だね、兄さん」

「そうだな」

 しみじみと会話をしながらエドワードとアルフォンスは歩く。
 エドワードはちらりと病院がある方向に目を向けた。

「……あいつ。レン、大丈夫かな……」

「大丈夫だと思うよ。マレアさんも付き添っているらしいし」

「……そうだよな。でも、マレアさんがレンを避けたとは、な……。でもよ、きっとあいつもマレアさんを頼りたかったんだろうな。だけど……不安で、頼れなかった」

 エドワードが少しうつむきながら言うと、アルフォンスもうなずいた。
 風が少しふき、エドワードの三つ編みが少し上に上がる。

「さて、と。到着だ。また明日レンの所に行かなきゃいけねぇから、とっとと休もうぜ」

「そうだね」

 宿屋に入り、自分達の部屋へと入ったエドワードは、鞄を置き、赤いコートを脱ぎ、黒い服だけの状態になった。
 アルフォンスも鞄を置き、ベッドにもたれ座る。

「兄さん、ご飯食べないの?」

「いいよ。疲れたから。もう寝る……」

 そう言うと三つ編みをほどく。よほど疲れたらしい。目が今にも閉じてしまいそうなくらい、まぶたが下がっている。
 靴を脱ぎ、ベッドに寝転んだ。

「兄さん。お腹出して寝ちゃだめだよ」

「分かってるよ……。おやすみ、アル……。また……明日……」

 エドワードはこくこくとなりながらアルフォンスにそう言う。
 そしてついに眠気に負け、目を閉じた。

「おやすみ、兄さん……」

 アルフォンスは、そのまま時間を過ごして行った。
もうだいぶ時間がたったのだろう。外は真っ暗だ。

 エドワードがお腹を出して寝ている。むずがゆいのか、お腹に手をあててかいている。
 アルフォンスが、やれやれ、と言うように肩をすぼめ、エドワードの服を元に戻し、毛布をかけ直してやった。

 その時、エドワードの顔がゆがんだ。いやな夢を見ているのだろうか。

「……めん……ご……め……ん」 

「……兄さん……?」

 エドワードの顔が今にも泣きそうになりながらそうつぶやいたのを聞いて、アルフォンスは首をかしげた。
 エドワードの顔がさらに歪んだ。

「……ごめんな……ア……ル……」

 アルフォンスは、はっ、となる。エドワードは確かに今、自分の名前を呼んだのだ。
 それも、謝りながら。過去の夢を見ているのだろうか。

「……ごめん……な……」

 エドワードはまた言うと、再び、すぅっと寝息をたてた。
 アルフォンスは、ヘヘッ、と笑いながら、エドワードの毛布をしっかりとかける。

「夢を見たんだね……兄さん。大丈夫だよ兄さん。今は、たくさんの人がいる。ウィンリィも、大佐さんも、それにレンもマレアさんも。謝らなくていいから……兄さん」

 その時、エドワードの顔が微笑みに包まれた。
先程の夢と変わって、幸せな夢を見ているのだろうか。

 それは夢ではなく、1人の少年が呟いた言葉が聞こえたから、微笑んでいるのかもしれない。
   〜つづく〜