二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂。・銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ・。—白銀の鬼姫— ( No.31 )
日時: 2010/08/26 19:04
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: N5yVg.Pp)


第三訓   出会いは突然遣って来る


「や—本当運が良かったよ、道訊きに来た家に銀時兄ィがいるなんてさ」

銀時の前に座る銀髪の少女は、新八の出したお茶を飲みつつ呟いた。

「いや、銀さんちょっと良く分からないんだけど。お前本当に和月? 和月か?」

銀時の両隣に座っている新八と神楽も、物珍しそうな、少し疑っているような眼で和月を見た。

「うん、そうだよ。正真正銘斎賀和月」

この目の前にいる少女が和月だとは、銀時もほんの少し信じられない。
銀色の髪といい、黄色い眼といい、腰の刀といい、確かに和月だと分かってはいるのだが、銀時の中の「斎賀和月」は12歳の幼い少女で止まっている。
だからこそいまいち実感が沸かないのだ。

「じゃあお前、あの後……出て行った後何処に居たんだ?」

和月が攘夷戦争中に銀時や高杉、桂や坂本と共に居たのはほんの一ヶ月程だ。
一ヶ月が経った頃、和月は銀時達の元から姿を消した。

「えっ、と……」

銀時の問いに、和月は困惑するような表情を浮かべた。
目線が定まらず、きょろきょろと忙しく動いている。

「あの後暫く京都にいてね。……14歳くらいから九州に移ったんよ」

和月の語尾が違うのは、九州に居て移った方言なのだろう。所々、発音の仕方がこの辺りと異なる部分がある。

(14歳って、出て行ってから二年後か? ……攘夷戦争が終わった年じゃねェか)

一つの疑問が浮かぶが、和月が自発的に言いたくないなら聞かないことにした。
それに、今はそんな事どうでも良いのだ。

「銀ちゃん、あの娘知り合いアルカ?」

耳元で神楽が聞く。

「あァ、昔な」

小声で其れに答え、またすぐ和月を見る。丁度その時、「あんね」と和月が口を開いた。

「自分でも分からないんだけど。九州に居るときあの頃の夢を見てさ。急に会いたくなって来たんよ」

思い立ったら直ぐ行動しないと、後で後悔するよ。
これが和月の口癖だった。
その一言で、銀時の中の戸惑い、困惑といった感情が消えていく。
そして、この少女は和月だと確信すると共に、生きていてくれた事に対する喜びとか、数年前の和月の記憶が鮮やかに蘇って来た。

(……結野アナ、占い大当たりじゃねェかオイ)

自然と笑みが零れ落ちそうになるのを堪えて、和月に訊く。

「お前江戸に居る間どうすんだ。そこまで送ってやるよ」

「え? 無いよ、そんなん。何言ってんの?」

銀時が言い終えた瞬間、和月が言い返す。
銀時の中に、嫌な予感がむくむくと膨れ上がってくる。そう、まるで入道雲のように。

「え、じゃあどこに泊まんの。……今日帰んの?」

「銀時兄ィのとこに決まってんじゃん。あたし、もう有り金無いよ。三百円ぐらいしか」

在った、今、和月の台詞の中に。
銀時が聞きたくなかった一言が。

「冗談じゃねーよ! もう此処は一杯一杯なの! アルアル大食いチャイナ娘だけで手一杯なの! 一日の暮らしで手一杯なんだよ!」

「おいコラ何言ってんだ天パ……」

神楽が銀時の叫びに言い返そうとした、その瞬間。

ズボッ!!

何かに穴が開くような音がして、銀時の耳スレッスレに銀色に煌く刀がソファーを突き刺していた。
その刀の持ち主は、勿論和月。
一瞬で銀時との間を詰め、刀をソファーに貫通させたのだ。

「あっ、手が滑った」

ゆっくり、和月が顔を上げる。
満面の笑みを浮かべているのに、その瞳はまるで獲物を狙う獣のように、鋭く黄色に光っていた。
電気を背にしているので、顔にできた影が怖い。

「ごっめーん、よく聞こえなかったんだけど、もう一回言ってくれん? 何が無理だって?」

ニタリと唇の端を歪めて笑う。

「いいえ、何っにも言ってません」

銀時、神楽、新八の声が見事な三重奏を奏でた。
こうして、果てしなく不安な和月のかぶき町生活が始まったのだ。