二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.351 )
- 日時: 2011/04/03 16:28
- 名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)
〈アリス誕生日特別編〉
月に群雲、花に風
良い事には邪魔が入りやすいものだ。
「アリス、アリスぅ?」
ふいに自分の名前を呼ばれた。
聞き慣れた其の声で我に帰り、ぱっと隣に座る寥に視線を移す。
藍色の着流しに身を包み、胡坐をかいて刀の手入れをする其の姿には、女の“お”の字も無い。
「どうしたのンな仏頂面してさ」
何時もならば此処で仏頂面してるのはアンタの方でしょ、と突っ込むのだが、生憎今はそんな気分にはなれなかった。
「んー、別に」
アリスがそう素っ気無く返せば、寥はふーん、そう?と言って再び刀に目線を移す。
今日は、真選組総動員での出動があった。
近く江戸での大規模テロを画策していた攘夷派集団のアジトに突入すると言う、入隊して初めての大仕事。
寥は参謀と言う役職に属するということもあって、本来出動する必要は無かったのだが、屯所に残り面倒な仕事をするのは嫌と言い張り同伴して来た。
仕事の方は寥と土方が練りに練った作戦(尤も寥は時折口を挟む程度だったが)のお陰で、真選組側に一人の犠牲者も出さずにすぐカタが付いたのだが。
アリスが不機嫌な理由は、「今日」と言う日付にあった訳で。
(良いのよ人斬るって仕事は。分かってて入隊したんだもん。でもね、でもさァ)
いざ言葉にして心の内で言ってみれば、怒りがふつふつと湧き上がって来る。
(何っで人の誕生日に重なるかなァァァ!!!!)
今日三月二十一日は、アリスの誕生日だったのである。
寥と一緒に仕事を抜け出して、江戸一と言われる甘味屋に行く予定だったのである。それが仕事の所為で丸潰れになったのである。
因みに寥は甘い物よりも酸っぱい物よりも好きらしく、行けなくなった事を大して気にした様子ではなかった(今もシゲキッ●スをもさもさと食べている)。
(あああああ腹立つぅぅ。あの満月までもが腹立つぅぅぅ。あんな綺麗なのにィィ)
開け放っていた窓から見えるのは丸い月。
苛立つアリスを嘲笑うかのように、月は煌々と光り輝いていた。
と。
傍らでちん、と小さな音がした。そちらを見れば、手入れが終わったらしく、刀を鞘に戻す寥の姿。
二人の茶色い瞳がかち合う。
「アリス、ちょっと来て」
立ち上がった寥がアリスの左手を引く。何のつもりか聞く間も無いまま、部屋の外に出された。
寥はアリスの方をちらとも見ずに、どんどん廊下を進んで行く。勿論何も話はしない。
その沈黙に耐えられずに、思わず前を行く寥に聞いた。
「ちょ、寥! 何処行くの!?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「一っ言たりとも言われてないわァァァ!!!!」
アリスの脳内で、「氷室寥=馬鹿」と言う方程式が成り立った瞬間だった。
寥は歩いたまま、首だけで振り向いて其れに答える。月光に照らされて、寥の藍色の髪が妖しく光る。
アリスは其の侭寥の言葉を待った。
「今日の戦勝祝い兼アリスの誕生会だよ」
「……え? 嘘。まじでか」
大きく目を見開いたのが自分でも分かった。
今日自分の誕生日だと言う事は、寥以外の誰にも教えていない。其れは寥が皆に知らせて計画したという事を意味している。
それでもあの剣しか能の無い連中が其れに乗るとは、どうしても思えなかった。
そんな事を考えている内、何時の間にか二人は大広間の前に到着していて。
「先に入れば? アリス。主役でしょ」
アリスの耳に奇妙な声が入り込んできたのは、寥がそう言ったのとほぼ同時だった。
小さな音、と表現するにはあまりに大きすぎる音。両手で耳を塞いでも聞き取れると言うほどの音。
そう、それは騒音と称するに相応しい音だった。
「皆今日は無礼講だァァァァ!!!」
「近藤さんンンンン!? 脱がなくて良いからァァ!!」
「まァ今日は良いじゃねェですかィ死ね土方コノヤロー」
「てめェが死ね……つーかそれ俺の酒!!」
其の声はどこぞのゴリラのものであったり、ニコチンマヨであったりドSであたり。何となく微かではあるが、どこぞの地味監察の声も聞こえる。
「……主役ほったらかしで勝手に始まってるよ」
「……待っとけっつったのに」
二人は同時に溜め息を吐き、ふっと顔を見合わせた。
計った訳でも無く重なった行動に、二人くすくすと笑い合う。
「行こうか」
「そだね」
(邪魔は邪魔でもこういう邪魔なら悪い気はしないかもしれない)
(ありがとう、は言わないけどね)