二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.364 )
- 日時: 2011/04/16 16:05
- 名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)
第十八訓 子供の頃稲妻をピカ●ュウの尻尾だと思った事ある人挙手
神楽が戻って来たのは、其の後すぐの事だった。
「銀ちゃんんんんん!!」
神楽が大声で銀時の名を呼びながら、血相変えて居間に飛び込んできた。
そのまま流れ込む様に和月達の前に来ると、力一杯テーブルを叩く。ばん、という音と共にテーブルが斜めに傾き、上に載っていた湯のみが倒れた。そして零れた熱いお茶は、テーブルを伝い銀時の太股へ。
「あ゛っづぁばァァァ!! 神楽てめっ、何星一徹クラッシュしてんだコラ!」
「それどころじゃ無いネ!! 朱音が……朱音がいないアル!」
ぴたり、と。
倒れた湯のみを起こそうとした和月の動きが止まった。いや、和月だけではない。銀時も桂も新八も夢幻も——その場に居た全員が動きを止め、目を見開いて神楽を凝視していた。
「どう……いう……こ、と……?」
掠れた小さな声で夢幻が呟く。
神楽は其れを聞き、ゆるゆると首を横に振った。まるで、自分にも解らないと言う様に。
「解らないネ。布団掛けようと思って部屋に入ったら……もぬけの空だったアル」
神楽はそんな嘘を吐く事はしないから、きっと本当の事なのだ。
何で、
そう呟くが早いか、急に桂が立ち上がった。
何処へ行くのか、静かに居間を出て行く。自然皆其の後に続いた。
桂が向かったのは、玄関に入ってすぐの小さな部屋。神楽と和月、定春が寝床に使っている部屋だ(因みに定春は居間で寝ている)。
中には真ん中に小さな敷布団がひとつ。朱音が使っていた布団だった。
「どうしたんですか桂さん」
新八の問いには答えず、桂は其の右手の平を朱音の布団に押し付けた。
「まだ温かい」
静かな落ち着いた声だった。普段は超天然な電波だが、いざと言う時は絶対に冷静さを失わないのだ、この桂という男は。
「出て行ったのはついさっきだって事か」
「ついさっき……」
和月は小さく呟くと、気付かぬうちに腰の刀に手を持っていった。何時の間にか此れが癖になってしまっていたらしい。
ついさっき。
ついさっきまで、自分達は何の話をしていた?朱音の父と兄の話だ。
他に何を話した。宇宙海賊春雨なる組織が、江戸に密航したという話だ。密航したと思われる期間も口にした。勿論、その者達が隠れていると思われる場所も。
それら全てを、どの位の声の大きさで話した?
この場に居た全員が、朱音は寝ていると思い込んでいた。故に何時もと変わらない大きさで話した筈だ。
しかし、そうでなかったとしたら?
朱音がもし、起きていたとしたら。
「ぜんぶ……聞かれたって事?」
「……だろうな」
ちっ、と銀時が舌を打つ。
長い間行方不明になっている父と兄を探そうと、たった一人万事屋まで来てしまう様な朱音の事だ。
まだ確証があるわけでは無いとはいえ、二人の行方不明に関係がある組織の話を聞いて、考えるより先に体が動いてしまったとしてもなんら不思議は無い。
「傘……忘れ、ちゃった……みたい、だね」
そう言ったのは、和月の後ろにいた夢幻だった。
和月達の視線に気付くと、顔を上げにこりと可愛らしく笑う。
「迎え、に……行かなきゃ、ね」
ちゃんと傘を持って。
夢幻は後にそう続けた。
「そうネ! 元はと言えば私がちゃんと見てなかったせいアル」
「タオルも……持って行ってあげないといけませんね」
何時の間にか外はどしゃぶりの雨だったが、叩きつける様な雨音にもその三人の声はかき消されずに響いた。
三人の言葉を聞いて和月はふっと笑い、銀時達を見る。
「銀時兄ィもコタ兄ィも一緒だから」
言い終えると共に、和月はニタリと笑った。
四人の台詞に呆気に取られていた銀時と桂は顔を見合わせる。
「どうする、銀時」
桂が銀時に訊く。
銀時は自分達を見上げる和月、神楽、新八、夢幻を一瞥した後、その白い髪——もとい銀髪をがしがしと掻いた。
「依頼はきっちりやり通すさ」
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「いやもー悪いなぁ。わざわざ第七師団の貴女にも来てもらってぇ」
「呼ばれない限り……ってか団長に言われない限りこんな所来ませんよ」
「ンだ此のクソガキ」
闇にふたつの声が響く。
それはまだ少女の声だ。姿は闇に溶け込み見る事敵わない。
と、何か重いものが擦れる音と共に、音のした場所から一直線に薄い光が差し込んだ。
その薄く、闇に近い光の中には、小さな影が一つ。
外と中とを遮断していた重く分厚い鉄製の扉が開かれた事で、今迄聞こえなかった外の音が入り込んできた。
今だ降り続く、篠突き雨と称するに相応しいどしゃぶりの雨。ばしゃばしゃと鳴る雨音。
「へーぇ、小さいお客さんですね」
「呼んだ覚えは無いんだけど。……でも、まぁ」
ふたりのうち一人の少女の口角が、にぃ、と攣り上がる。
「歓迎、してあげなきゃね?」
直後、空を裂く稲妻と共に、天地を震わせる雷鳴が轟いた。